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税収も東京一極集中!?東京vs地方の仁義なき戦い

744の自治体が消滅可能性都市に

 最近、民間の有識者グループ「人口戦略会議」が、2050年までに20代から30代の女性が半減する744の自治体を「消滅可能性都市」と指摘し、最終的には消滅する可能性があるとした分析を公表したことが大きな話題になっていますね。10年前も「増田レポート」と呼ばれ、当時大きな話題となりました。
 これに対し、「消滅可能性都市」という刺激的なワードが気に障ったのか、早速全国町村会が遺憾の意を表明したようです。

 全国町村会の吉田隆行会長は、26日にコメントを発表し「全国の自治体は人口減少への対応や独自の地域づくりに懸命に取り組んでいて、これまでの努力や取り組みに水を差すものだ」と批判しました。
 そして「大きな要因は、東京圏への一極集中と少子化だ。自治体の努力だけで抜本的な改善を図れるものではなく、一部の地方の問題であるかのように、わい小化されてはならない」と指摘しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240426/k10014434571000.html

 個人的な所感としましては、わがまちが「消滅可能性都市」かどうか自体はさほど重要ではなく、将来の国全体の人口推移に対して多くの国民に危機感を醸成させる意味では大きなプレゼンスを発揮した提言であり、その点で有益かなと思うところです。
 「消滅可能性都市」が独り歩きしているように感じますが、この会議の資料をググってみると、総人口が急激かつ止めどもなく減少しつづける状態から脱し、現実的な目標値として”8000万人”で安定化させるための提言を行う事が狙いというのが分かります。(詳細資料をダウンロードした同僚職員が教えてくれました。)ニュースの上っ面をかじるだけでは、この辺りの意図を取りこぼしてしまいますね。

https://www.hit-north.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/02/02_gaiyo.pdf

人口減少の原因は東京への一極集中!?

 さて、人口減少の主な要因だと全国町村会が指摘した東京への一極集中ですが、同じようなタイミングで以下のニュースが目に入ってきました。「またやってんなー」という感じではありますが…笑

 東京一極集中の問題は度々議論になるテーマですので皆さん個々に意見をお持ちかと思いますが、今回は”地方税財政”の観点からこの問題を取り上げてみます。

東京一極集中の状況

 Wikipediaによると、東京一極集中とは、日本において、政治・経済・文化・人口など、社会における資本・資源・活動が東京都区部、あるいは首都圏(1都3県…東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に集中している状況を言います。

 明治維新以後に始まり、東京府が事実上の首都となった後に政府が進めた"首都の機能強化"の要請に応える形で、大阪で設立された三菱、住友、野村の巨大財閥企業の東京移転が一因であるとされているそうです。その後、各地方に本社機能を置いていた大企業の東京移転が続きます。現在では大企業の半数近く(4,582社/10,364社)が東京圏に所在しています。(「中小企業の企業数・事業所数」(2021年6月時点)より)

 人口については国土交通省のHPに推移が載っていましたが、東京圏については、バブル経済崩壊後の一時期を除いて転入超過独り勝ちの状況ですね。

https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1112000.html

なお、2018年の東京都の出生率は1.20と全国最小であり、東京一極集中の結果、更に人口減少を加速させるおそれがあると指摘されています。
(先述した人口戦略会議のレポートでは「ブラックホール型自治体」というあだ名をつけられていました。)

税の偏在状況

 それでは次に地方税の偏在性(地方間の税収格差)がどのような状況なのかを確認したいと思います。やや情報が古いですが東京都のHPに以下のようなグラフ(都道府県税の偏在度(東京都シェア)の推移)が載っていました。

https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/report/tzc30_2/08.pdf

 このグラフを見て分かるとおり、偏在が際立っているのは法人2税(法人住民税・法人事業税)なのです。法人2税は都市圏の中でもとりわけ東京に偏在しており、東京が国全体の約25~30%ほどを占めているのが分かります。東京の県民所得は国全体の約20%、人口は約11%、事業所数は約15%ですので、経済規模を示す様々なデータと比較しても高いことが分かります。
 また、全国知事会が公表している次のデータは、都道府県別に人口一人当たりの税収額の指数を示したものであり、やはり東京都の地方法人2税が突出していることが見て取れます。(最小値の奈良県との格差5.9倍)

https://www.nga.gr.jp/committee_pt/item/04_shiryou3.pdf

 このような状況に対して国は、いわゆる「偏在是正措置」としてこれまで様々な地方税制の改正により、税源の偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系を模索してきました。例えば法人事業税と法人住民税の一部が国税化され、地方譲与税や地方交付税として地方に再配分されています。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000759186.pdf

 加えて、経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針) では「東京一極集中が続く中、行政サービスの地域間格差が過度に生じないよう、地方自治体間の税収の偏在状況や財政⼒格差の調整状況等を踏まえつつ、税源の偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系の構築に向けて取り組む」とされ、東京から地方へと税収の偏在是正が必要という見解を示しています。(ふるさと納税もこの一環ですね。)

地方連合体VS東京の言い合い

 さて、ここが一番面白い⁉ところかもしれませんが、東京(神奈川・埼玉・千葉)とそれ以外の自治体では、地方税の偏在に対する見解が全く異なっておりまして、その論点となっている事柄について触れたいと思います。

 まずは地方の連合体である全国知事会における議論から。出典は、令和5年度第1回地方税財政常任委員会の公表資料です。(大元は令和5年5月29日財政制度等審議会における議論)
https://www.nga.gr.jp/committee_pt/committee/chihozei/r05/51_1.html
 この資料では、国の偏在是正措置にもかかわらず、東京都の地方税収等は増加傾向が続き、全国に占めるシェアも高い水準となっており、その要因として2つの事業形態の変化があると指摘しています。

①電子商取引(EC)
 
電子商取引(EC)は、本店以外の事務所等がなくとも全国での事業展開が可能であり、各地に事務所等を設けて販売する事業形態と比べて、本店所在地に税収が集中します。コロナ禍の令和2~令和3年にBtoC(物販)のEC化率が急上昇したように、電子商取引の普及・拡大に伴って、東京都への税収の集中が今後も進展すると考えられます。

https://www.nga.gr.jp/committee_pt/item/04_shiryou3.pdf

②コンビニ
 
個人小売店の売上高等の減少と対照的に、コンビニエンスストアは売上高等の成長が続いています。地元の地方公共団体に納税していた個人小売店がコンビニエンスストアに形態を変えると、実質的な経済活動に変化はなくとも、売上の一部がフランチャイズ料として東京本社に支払われる結果、地元の地方公共団体に納められていた税収が本店所在地である東京都に移転することになります。

 これらのように事業形態の変化の影響を踏まえて、地方法人課税について、自主性、応益性、普遍性などの地方税の原則からの要請との両立・調和を図っていくことが重要であると括られています。

https://www.nga.gr.jp/committee_pt/item/04_shiryou3.pdf

東京都の反論

 この2つの業態変化に対して東京都が反論する見解を示しています。
①電子商取引(EC)
 ネット販売主要30社のうち14社が都以外に本店を置いており、法人事業税の税収推移は従前から変わらず、電子商取引の隆盛によって税収が都に集中しているという事実はないよ、と言っています。

https://www.nga.gr.jp/committee_pt/item/06_shiryou5.pdf

②コンビニ
 
大手コンビニエンスストアは全国に支店などの事業所を有しており、法人2税の税収は分割基準に基づき全国の自治体に帰属しており、法人事業税の税収を見ると、都のシェアは2割程度に過ぎず、近年は低下傾向であり、税収の集中が進展しているという状況にはない、という反論です。

https://www.nga.gr.jp/committee_pt/item/06_shiryou5.pdf

 こうやってみると、都の反論は根拠に基づくものであり一定の合理性があるようにも思います。加えて言うと、冒頭のニュース動画で小池都知事が述べていたように、そもそも企業からの税収の多さだけを見て「偏在」と言うのは、物事の一面だけしか見ておらず、東京が直面する膨大な行政ニーズの存在を考慮していない状況が実際にあるように思います。

なお、平成30年度の都税調では以下のような答申が行われています。
● 税収の多寡のみで財政力格差を捉えるのは適切ではない
● 地域間の財源の不均衡の調整は地方交付税制度で行われるべき
● 
地方交付税等による調整後の都道府県別人口一人当たり一般財源額では、都は全国平均程度であり、特定の指標で全体を論じるべきでない

 一人当たり一般財源額は全国平均とはいえども日本の人口の11%を占めておりスケールメリットが相当働くことを考えると、「平均なんだ!」とドヤ顔するのもいかがかなと思いますが…確かに税収の多寡のみで財政力格差を捉えるのは難しいように感じます。

おわりに

 東京一極集中については、様々なリソースを首都に一か所に集中させることで、”国のエンジン”としての機能を効率的に果たしてきたとも言えます。それが回り回って地方の成長を支えてきた側面もあるでしょう。一方で、現在数多くの地方から指摘されているように東京一極集中の弊害が出てきているのも事実です。
 いずれにせよ、東京と地方が今後も共に支え合いながら発展していくことが大切であり、日本全体の持続的な発展のため、東京圏とその他地方自治体間で税収のバランスを取る事は非常に重要です。
 しかし、東京と地方にとっての最適なバランスがどこにあるのか、明確な基準が存在しないなかで、やみくもに税の偏在性を議論するのは答えのない問題を解いているようなものではないでしょうか。
 
H20~H30の10年間にわたる偏在是正措置により、東京都への影響額はマイナス2.7兆円と試算されています。果たしてこの金額が妥当だったのかどうか、まだ少ないのか、それとも多すぎたのか、論理的な根拠の積み上げで大半が納得感を持てる妥当な見解を見出すことが大事かなと思います。
 東京はじめ首都圏に税収が集中しているのは紛れもない事実ですが、その税収の妥当性についての議論の深掘りを見てみたいところです。

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