連載小説 歩行遊歩道をゆく③
足早に、歩く、男の、背中が見えるようだ。彼は、どこに向かって、歩いてゆくのだろう。沈黙のままだ。風が、ひとつ、吹く。歩いていれば、楽になれる、と、思って、歩くのかもしれない。どこまでも、歩いてみるけれども、行き先は、今も、わからないでいるようだった。
風が、ひとつ、問いかけたようだった。おまえは、どこに行くのかと、訊いたのだった。男は黙ったままだった。男には、口がついていないのかもしれなかった。夕暮時、烏が鳴いた。烏の黒光りする羽根が、太陽の光を散らした。私はどこへゆくのだろうか。男は、声もなく、そう問うた。烏は言った。おまえには、脚は、なかったはずだろう。烏は、黒いゴミ袋を食い破りながら、そう言った。烏の眼が光る。私は耳を澄ます。ここは、私のいるべき場所ではないのだ。そう言った、ように、思えた。
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