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統制型から対話型へ—「著者に聞く」(1)

インタビュー記事テキストの公開

『シェアド・リーダーシップ入門』の発行元である国際文献社より、発行記念のインタビューをうけました。以下で紹介する記事PDFは、国際文献社のWebサイトで全文公開されています。国際文献社の公開ページはこちら
国際文献社の許可を得て、記事テキストを紹介いたします。今回はVol.1の前半部分です。

シェアド・リーダーシップとは

2023年7月に国際文献社から上梓された最上氏に、シェアド・リーダーシップとは何か、この本の注目してほしいポイントなどをうかがいました。

――『入門』はどんな本ですか?

最上氏 『入門』は、リーダー育成に取り組みたいと考える人たち向けの、リーダーシップを深く考えるための本です。この本では、シェアド・リーダーシップという新しいリーダーシップの考え方を詳しく紹介し、育成のモデルを紹介しています。

 シェアド・リーダーシップとは、「個性豊かなメンバーが互いに変化を与え合い、結果的に、一人ひとりが自律してリーダーの役割を担うことでチームが機能する状態」です。ここで言う「自律して」とは、他者からの命令や指示からでなく、自らの意思で主体的に考え動くことを意味しています。

――なぜ、いまシェアド・リーダーシップなのでしょうか?

最上氏 コロナ禍により人々の働き方が激変し、生成AI技術の劇的発展により知のあり方が急激に転換しています。かつてないほど先の読めないビジネス環境において、リーダーの経験的な知識だけに依存して組織を牽引していくことはもはや不可能となりました。公式なリーダーの重要な役割は、ビジョンや目標を権威的に示す統制型のマネジメントから、操作的でない形でチームをリードしていく対話型のマネジメントへとシフトしています。つまり、個人の自律性を志向するシェアド・リーダーシップは今後ますます重要となってくると考えられます


――『入門』を執筆するきっかけを教えてください

最上氏 きっかけはシェアド・リーダーシップに関する博士論文を書いたことです。この博士論文を読んでくれた知人から、これはおもしろいね、書籍にしてみたら、という声があがり、それならばと執筆を思い立ちました。

 最初は、シェアド・リーダーシップを研究する大学院生、つまり後進の研究者向けにアカデミックな本としてまとめようと考えていたのですが、書きはじめた後で軌道修正しました。


――執筆を開始してから軌道修正したのですね?

最上氏 そうです。研究者向けではなく、実務者にもわかりやすい実用的な内容に変えたということです。理論的な部分は相当にトーンダウンさせ、難しい概念も一般的な言葉に置き換えました。そして、読者の皆さんが一番関心があると思われる具体的なケースの記述であるエスノグラフィー(フィールドワークによって行動観察をした記録)に厚みを持たせました。これは私がIT企業の「Z支社」(仮称)に2年間、コンサルティング業務を行った際、そこで働く人々の価値観、行動様式の観察を通じて、シェアド・リーダーシップ発生プロセスを解明したものです。


――執筆にあたり工夫したところはありますか?

最上氏 この本は、30代後半から40代の実務者を読者として想定しています。先ほど触れた軌道修正にも関連するのですが、この本は、実務者が読んで、自分や自組織に置き換え、考えてもらうことを念頭に書きました。特にエスノグラフィーのある後半部分に重点を置いたのはそのためです。理論に関心のない方は、この第3部 から読んでいただいて構わないと思っています。リーダー研修向けのケース事例として活用してもらうことも想定しています。


――この本がケース教育に使える?

最上氏 はい。うちの会社ではどうだとか、自分ならこう考えるということをわいわいとディスカッションするケースメソッドのケース資料として活用してもらえたら嬉しいです。

――ところで、法政大学大学院の石山先生が序文を書かれていますね。

最上氏 そうです。『入門』の序文は、お願いするなら石山先生以外に考えられませんでした。その含蓄ある言葉は、読者に『入門』を読み解く重厚な方向性を与えています。石山先生は、著書『越境学習入門』『日本企業のタレントマネジメント』などで知られ、経営学分野で先進的な研究をされている、私が尊敬する実務歴のある研究者です。

 先生が序文にも書かれていますが、先生に最初お会いしたのは東北大学で行われた2016年の研究会です。私が研究発表したグループの座長を務めていらっしゃいました。そこで私の研究に関心を持っていただき、ご指導をいただくなかでついには博士論文の審査も先生にお願いしました。『入門』執筆に際しても、いろいろ有効なアドバイスをいただきました。

――読者に注目してほしいところはどんなところですか?

最上氏 そうですね。注目してほしいところは大きく2つあります。ひとつはモノローグ組織という現象です。このモノローグ組織という現象が、本で描かれる「Z支社」特有の組織のあり方ではなく、実はほとんどの組織がそういう状態になっている、それをみんなが作り合っているということを、エスノグラフィーを読んで感じ取っていただきたいと思います。

 モノローグ組織とは、一方的・他人事・無関心の3語で説明される、よそよそしい人間関係、組織の命令に従い個人的な成果を最優先することは正しいという考え方に皆が支配され、行動や考えが制約されている集団を指します。モノローグ組織では、もっぱら個人が個人商店的に孤立して自己中心的に動くようになるので、リーダーシップが育つ土壌ができません。つまり、シェアド・リーダーシップと対極の状態です。

――モノローグ組織にはどんなネガティブな影響が考えられるのですか?

最上氏 モノローグ組織では、人を動かすために指示や命令により統制する旧来の方法しか通用しなくなってしまいます。総じて、働く人たちのモチベーションも低くなり、組織に活気がなくなります。これって、不健康な組織ですよね。『入門』では、そうした個人主義に傾斜し孤立してよそよそしい関係となるモノローグ組織から、人々が自立しそれぞれの個性を発揮できる多声的な組織に転じていくダイナミックなプロセスを描いています。さらに詳しくは、本を手に取って確認いただけたら嬉しいです。


――なるほどです。では、2つ目の注目点は何ですか?

最上氏 読者に注目いただきたいもう1点は、シェアド・リーダーシップの発生にいかにリーダーがかかわるのかということです。シェアド・リーダーシップはもっぱら全員参加型とか、全員リーダーという点が注目され、公式リーダーの役割がおざなりにされがちではないかと思います。

 実際の組織では、上席者であるリーダーがいて影響力を発揮し、部下に対して指示や命令を与えるという関係が必ず存在します。この関係のなか、シェアド・リーダーシップの状態をつくり出すためには、一工夫が必要となります。リーダーが影響力を保ちつつフォロワーは自律的に動くように仕向けるという、ある意味で矛盾するリーダーとフォロワーの関係をつくっていく。そのために何が鍵となるのか、リーダーはフォロワーにどう関わっていけばよいのか、この本から考えるヒントをつかんでほしいと思います。

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