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【事例研究】アシアナ航空162便事故

2015年4月14日。広島空港にてアシアナ航空162便着陸失敗事故が発生しました。

今回は運輸安全委員会webサイトで公開されている、本件の「事故調査報告書の説明資料」を見ながらこの事故のポイントをまとめてみます。事例研究に役立てて頂ければ幸いです。


当時の概況

<アシアナ航空162便>

機材:エアバスA320-200
座席数:156席
乗客:73名(幼児1名)
CA:5名

<広島空港>

天候:小雨
風:約1m
使用滑走路:Rwy28

事故発生

20:05。アシアナ航空162便は広島空港Rwt28へ向けて着陸進入中、進入ミスにより滑走路の325m手前にあるローカライザー・アンテナに接触。破片によって両エンジンが激しく損傷したことで推力を喪失し、ランディング・ギアやブレーキシステムもダメージを受けました。

162便は滑走路に機体尾部を接触させて接地。着地の衝撃で機内の酸素マスクが落下。アンテナ接触時に損傷していた左ランディング・ギアが着陸滑走中に折りたたまれ、左エンジンが滑走路に接触。機体は横滑りしながら滑走路を逸脱。滑走路脇フェンスの十数メートル手前で停止しました。

緊急事態発生から機体が停止するまでの間、CAは乗客に衝撃防止姿勢を取るよう叫び続けました。

<ポイント>
・夜間(雨)に発生
・予期されない急な着陸失敗事故

状況の把握

電力を作っていた両エンジンが急に故障したため機内の照明が消えていました。緊急時用の非常用灯が自動点灯しており完全に真っ暗な状態ではありませんでしたが、機内アナウンスをするためのPAシステム、各ステーションのクルー同士の連絡につかうインターフォン・システムが使用不能となっていました。

機体停止後、コックピットのドアが開いており、チーフパーサー(CP)はコックピットへ入室してパイロットに機体の状態を確認したところ、機長から「コックピット・ドアを閉めて待機するように」との指示を受けました。

パイロットは緊急脱出チェックリストを継続。CPは指示どおりコックピットから退室しドアをCloseしました。

<ポイント>
・機内照明アウト(非常用灯のみ)
・インターフォン・システム使用不能
・PAシステム使用不能
・機長からは「待機」の指示

状況悪化

その後、待機中に客室後方より煙が発生。
煙を確認した後方CAは、インターフォンやPAが使えなかったため大声でCPへ呼びかけていました。後方CAの呼びかけで煙は視認したCPは、緊急脱出は不可避と判断しました。

機長より「待機」を指示されていましたが、コックピット・ドアは閉じられておりインターフォンで機長との連絡もとれません。CPは現状の緊急性から「パイロットと連絡が取れない状態での緊急事態」という状況下においてマニュアルに定めらている規定を遵守し、CPの判断にて緊急脱出を決断しました。

なお、A320には「緊急脱出開始」を指示するための「EVAC Signal」が装備されていますが、当該機の場合Signalのスイッチはコックピット内にありました(つまり客室ではシグナルは作動できない)。当時は操作されていませんでした。

<ポイント>
・後方より発が発生
・機長からの指示は得られない
・各CA間の連絡ができない

緊急脱出

CPは担当していたL1ドアを開放。エスケープ・スライドが正常に展開されたのを確認したのち、乗客に緊急脱出を指示しました。

この際CPは、PAを使って中央・後方CAに向けて脱出開始を指示したそうですが、指示が放送されて各CAに伝わったかは分からなかったそうです。

中央・後方CAは、EVAC Signalがなく機長・CPからの指示が得られない状況下で、マニュアルに定められた判断基準に則り、担当ドアを緊急開放し脱出を開始しました。ドア開放のタイミングは、CPがL1ドアを開放したのとほぼ同時だったそうです。

各CAは、機長からの指示がなくPAおよびインターフォンが使用できない中、短時間で全乗客の緊急脱出を適切に実施しました。

<ポイント>
・夜間(小雨)の状況下での緊急脱出

脱出完了後

パイロットは緊急脱出が開始されたことを認識していましたが、緊急脱出チェックリストを優先したため、脱出の援助には参加しませんでした。緊急脱出チェックリストには「エンジン停止」など、脱出後、機外にいる乗客乗員の安全を確保するための重要な項目もあります。

全乗客の脱出完了後、CPは機長に対しCAもすぐに脱出する旨を伝え、各CAも脱出しました。機体周辺にとどまっている乗客を発見したCAはメガホンを使って機体から離れるよう指示をしました。

パイロットが緊急脱出チェックリストの完了に時間を要し、コックピットを出たときは既に乗客・CAは脱出していました。

航空管制官は事故発生を察知してすぐに消防隊へ緊急通報しましたが、162便と消防隊のあいだで適切な連携がとれておらず、脱出した乗客の適切な避難誘導が行われなかったため、乗客は各自でターミナル・ビルへ向かって歩き出していました。

火災は無く、死者もいませんでしたが、乗客26名およびCA2名が軽症を負いました。

まとめ

・夜間(雨)に発生した。
・機内照明が消え、機内が暗い。
・PA / インターフォンが使えない。
・パイロットから直接指示を得られない。
・待機指示中に発煙。
・CAの判断による緊急脱出

各場面に応じて必要となる正確な「知識」
その知識を自信を持って行動化できる「行動力」
刻々と変わる状況を正確にとらえる「状況認識力」
正確な知識のもと、臆さずに重大な決断ができる「決断力」
限られた手段を用いた臨機応援な「コミュニケーション能力」

これからがCAには必要である教訓となった事故だと思います。

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