「機内火災」事故の歴史
飛行機でタバコを吸えていた。
平成生まれの方々にこの事を話すと、驚く方が多いです。
2020年。いまや交通機関のほとんどが全面禁煙で、機内の化粧室での喫煙は航空法により罰金の対象ともなる明確な禁止行為となりました。今回は「飛行機が禁煙になった歴史」とその理由についてまとめてみたいと思います。
飛行機の禁煙の歴史
1970~80年代はタクシーや電車はもちろん、飛行機の中でも喫煙が可能でした。今では常時点灯している機内の「喫煙禁止サイン / No Smoking sign」も、かつては離陸してしばらくすると消灯され、乗客はもちろんパイロットもタバコを吸っていました。
しかし1980年代からは快適性や安全性、また健康増進や受動喫煙防止などを考慮して日本の各交通機関で禁煙化が進みだしました。これにあわせて日系の航空会社でも機内で分煙して禁煙席を設けるなどの対策をしだしました。
そして1992年に健康被害や安全運航のため国際民間航空機関「ICAO」が航空機内での禁煙化を勧告。JALやANAでも喫煙席が徐々に減少していき、1999年4月に全面禁煙になりました。
海外のエアラインも同様に禁煙化が進み、2001年をもって日本に就航する海外エアラインも全て禁煙となりました。
2004年1月15には日本の航空法が改定され、化粧室での喫煙行為を反復継続した場合、50万円以下の罰金が科せられる現在の規則が確立しました。
機内火災の危険性
機内禁煙が世界的に普及した背景には、快適性への配慮に加えて「機内火災の危険性」が認識されたことも影響しています。
航空旅行が一般的になった1970年代からの大量輸送時代から、エアラインが禁煙となる2000年にいたるまでに「機内火災による墜落事故」が発生しています。
1968年
エールフランス航空1611便墜落事故
機種:カラベル3型機
出火原因:タバコの不始末(推測)
死者:95名
飛行中に客室後部で火災が発生。急角度で海面に激突した。乗客が機体前方に殺到して操縦を妨害されたか、パイロットが意識を失ったか、どちらかの理由だと推測されている。
1973年
ヴァリグ・ブラジル航空820便墜落事故
機種:ボーイング707型機
出火原因:タバコの不始末、もしくは電気系統の故障(推測)
死者:124名
着陸直前に客室後部から火災が発生。緊急事態発生を通報して着陸を試みるも、煙の充満でパイロットが計器を見れない状態に陥り、機長は空港手前5kmの地点に機体を不時着させた。機体は大破し、直ちに救助活動が行われたが124名が亡くなった。死因の多くは有毒ガス吸引による中毒死だった。
1979年
パキスタン国際航空740便墜落事故
機種:ボーイング707型機
出火原因:乗客が持っていた可燃性液体の漏洩(推測)
死者:156名
離陸から21分後、客室後方で火災が発生。緊急降下して出発空港への引き返しを試みるも、火災発生から約30分後に標高900m地点に墜落した。客室後方で発生した火災で乗客がパニックになり、機体前方に殺到したことで機体の安定性を喪失し、制御不能に陥ったと推測されている。
1980年
サウジアラビア航空163便火災事故
機種:トライスターL1011型機
出火原因:貨物室に搭載されていた可燃物の発火(推測)
死者:301名
離陸して7分後に貨物室で火災が発生。出発空港への引き返しを試みた。延焼により最終進入時に第2エンジンが停止するも着陸に成功。しかし「機長が脱出の指示を出さなかった」「機体やエンジンをすぐに停止させなかった」「CAが自発的に脱出を開始しなかったなど」の不適切な対応が重なったことで救助に時間を要し、有毒ガスにより全員が亡くなった。
1983年
エアカナダ797便火災事故
機種:ダグラスDC9型機
出火原因:客室後部トイレ付近から出火。原因は不明
死者:23名
飛行中、客室後部トイレ付近で火災が発生。シンシナティ国際空港に緊急着陸して直ちに緊急脱出を実施。23名が脱出に成功するも、23名が亡くなった。死因の多くは有毒ガスの吸引だった。
1996年
バリュージェット航空592便墜落事故
機種:ダグラスDC9型機
出火原因:貨物室の酸素発生装置が機内で作動し化学反応が発生した。
死者:110名
離陸3分後に火災が発生。マイアミ国際空港への引き返しを試みた。操縦室と客室の連絡につかうインターホン・システムが故障した状態で運航していたため、CAが操縦室のドアを開けて状況を報告した(マニュアル不遵守)ことで操縦室内に煙が流入。機体の延焼によりパイロットが意識を喪失し、高度3000mから急降下して墜落した。
1998年
スイス航空111便墜落事故
機種:MD11型機
出火原因:電気系統の故障。
死者:229名
飛行中、ファーストクラスのエンタメ設備の電気配線の故障により客室前部天井裏で火災が発生。副操縦士が異臭に気付き、やがて煙が充満しだしたため最寄の空港への緊急着陸を試みた。
延焼により自動操縦装置が故障し、機長は緊急事態を宣言。しかしその後も延焼でコックピットのディスプレイ表示、無線通信、機内照明などのシステムが次々とダウン。操縦不能に陥り、異常発生から20分後に墜落した。
このほかにも航空機の歴史上、何件もの火災による航空事故が発生しています。
機内火災は、乗客乗員が生命の危機に陥る深刻な緊急事態なのです。
禁煙は人の命を守る行為
これまでの機内火災による墜落事故で、何百人という尊い命が失われました。そのたびに航空機メーカーやエアラインは火災対策を強化していきました。
・客室乗務員の消火訓練の徹底
・煙探知機や消火装置の設置
・耐火性ごみ箱の設置
など、様々な対策が行われてきました。
禁煙もその1つです。
飛行機の禁煙は、健康増進や受動喫煙防止による快適性のためだけではありません。機内火災という深刻な事故を防止し、乗客乗員すべての安全を守るためでもあるのです。
最新型の飛行機の化粧室にも灰皿がありますが、それも万が一機内で喫煙者が発生してしまった場合に、吸殻をゴミ箱や排水口に破棄され機内火災が発生してしまうのを防ぐためです。
あなたの禁煙が、あなたを含めた機内にいる全て人の命を守ります。
あなたの喫煙が、あなたを含めた機内にいる全て人を命を危険に晒します。
あなたが飛行機で禁煙することは、とてもつなく価値のある素晴らしい事です。
そしてタバコを我慢した後、目的地の喫煙室で吸う1本は格別美味しいです。
「当然のように何事も無く目的地に到着する」そんな空の旅を守り続けるためにも、ぜひ禁煙にご協力ください。
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