雪とロードとスパイクタイヤ
スパイクタイヤの概要
スパイクタイヤとは文字通りタイヤに金属製のピン(スタッドピン)を打ち込んだ雪・氷結路用のタイヤである。かつては自動車も冬用タイヤとして全国で使用していたが、高度経済成長期に函館や仙台など比較的温暖な都市で郊外からやってきたスパイクタイヤ付自動車がアスファルトを削り、騒音や粉塵などの公害を発生させたため、現在では特定の地域を除き自動車での使用は禁止され、スタッドのないタイヤ、乃ちスタッドレスタイヤに置き換えられて行った。
しかしながら125cc未満のバイクや自転車では禁止されていない。
以前から興味のあったスパイクタイヤ。今回は丁度ヤフオクで見つけたのですぐさま落札。
選んだタイヤと理由
選んだタイヤは質実剛健ドイツのSCHWALBE社のWINTERというタイヤ(というか他に作っているメーカーあるのか?一般車ならIRC社のタイヤがあった)
ロードバイクのタイヤクリアランスの制限により、700×30Cとやや心許ない太さ。重量はなんと805g。片方でである。
スタッドは4mmほどのスチールのベースピンと2mmほどのタングステンで出来たスタッドピンとなかなか凝った作りをしている。交換ピンも販売されているが、こちらのタイヤでも交換可能なのかはわからない。
35C以上の太さであれば上位モデルのWINTER PLUSというタイヤがある。こちらはスタッドピンの本数が倍あるらしい。
よく見ると表面のトレッド部も若干現代のスタッドレスタイヤぽい模様だが果たして?
ちなみに取り付けは信じられないくらい硬かった。ホイールがチューブレス対応だからかもしれない。
気候、気温、道路環境
時は師走12月21日、場所は広島県山県郡芸北高原。折からの寒波の影響で隣町のアメダス八幡では24時間積雪量が全国第2位になっていたり(一位は岐阜県白川村)途中の温度計では氷点下6℃と表示されていた。
幹線道路は交通量が多く、除雪もしっかりされていることからやや緩めの圧雪路やアイスバーンになっており、脇道に逸れると凸凹としたやや重い未圧雪路となっていた。今日はミラーバーンのような低μツルツル路面は試せそうにないが、氷結路面自体は表に出てきているので一通りの場面は試走できそうである。
走行フィーリング
空気圧はスタート時でおよそ3bar。スタートしてすぐに硬すぎると判断、どんどん空気を抜いてゆきゴール時に測った時にはクリンチャーの下限値に近い1.6barまで落としていた。
ここまで落としてもタイヤ重量とトレッドやケーシング自体の硬さの影響から氷結路面に刻まれた無限軌道の足跡の振動を打ち消すには至らない。走りの重さも流石にわかる。これが普通のタイヤなら星一つ評価だが、これはスパイクタイヤだ。
正直アイスバーンや圧雪路に全く太刀打ちできず、乗車さえ困難で『これが敗北の味かぁ〜』と雪を食べるTwitter(X)用画像も用意していた。スタートで落車→温泉に浸かってのんびり帰る、というプランもあった。
ところがこのタイヤはそういった”逃げの一手”を許してはくれない。轍や深く重い雪にところどころ持っていかれながらも、そのスパイクピンの先端は確実に硬い氷部分に爪を突き立てており、恐る恐るダンシングを始めると低速状態であれば自転車を振ることさえもできた。不安定しかない雪原の中確かなグリップをも僕に感じさせてくれた。
得意な路面、不得意な路面
少し距離を走っていくと走り易い場所と、走り難い場所が出てきたのでよく観察してみた。
おそらく凍結防止剤が撒かれたのが残っていたり、元々水たまりに積雪した場合になるであろう、ザクザクシャーベット路面が今回一番転びそうになった。レーンチェンジをしようにもタイヤが轍を乗り越えることができず、重たい雪にハンドルを持っていかれそのまま転びそうになる。
またゴロゴロした雪の塊の中には、硬い氷も混じっており一気にハンドルを持っていかれる。こうした路面状況は分かり易いのでできるだけ避けた方が良さそう。
もっと太いスパイクタイヤなら余裕だと思う。
反対に意外かもしれないが、氷結路や圧雪路はスパイクピンがしっかりと食いついてくれるので、レーンチェンジも比較的容易でありダンシングや、ややスピードをつけた状態でのコーナリングも可能だった。
ただし、氷結路圧雪路どちらも、タイヤチェーン跡や無限軌道の通った跡と思われる凸凹路面は舗装路ではあり得なほどの振動が伝わり、バイクのコントロールが効かなくなる場合があるので注意が必要だ。
雪道で触れた、バイクコントロール技術の核心
まずはブレーキング。とにかくリアのブレーキを中心にゆっくりかけること。それでも簡単にロックしてしまう時は、ブレーキをかけながら軽くチェーンにトルクをかける感じでペダリングしておけば、ホイールロックを防止することができる(個人の感想です)まあリアはロックしてもコントロールを取り戻し易いので、コントロールが乱れた時に対応できるように広い視野でリラックスして走ることが大事。
滑り易い路面では自然と体幹が鍛えられるようである。バイクが右に持っていかれた際は身体の軸を少しずらすことで反対の力をバイクに伝えコントロールする。言葉にすることは難しいが、おそらくMTBやCXをしている人は自然としていることだと思う。現に今、背中全体が鈍く筋肉痛だ。
アスファルト路面より悪辣に素早く移り変わる路面状況を早く捉えるために遠くを見なければならないし、コースの選定も通常以上に安全に振らなければならない。
氷結路、圧雪路とスパイクタイヤの組み合わせにはロードバイクのパワー以外の技術的な成分が多く含まれていると感じた。世界にはもっと過酷な場面でこのような自転車の運用をしている人々が多くいる。止むに止まれずなのか、何かに挑戦しているからなのか、理由はいろいろあるだろうけれど少なからずその魅力に取り憑かれているのではないだろうか。
僕も”沼”ならぬ”雪溜まり”にハマったかもしれない。
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