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今個人的に激ハマりしてる「kiki vivi lily」について語る

表題のとおりです。

僕はネオソウルやシティポップが大好きで、小さい頃から両親の影響でずっと親しんできました。なので昨今のブームはすごく嬉しくて、音楽的生きやすさを感じています。何せ、僕の寝かしつけには「loveland,island」を流していたというくらいですから。(母曰く、とてもよく眠ったそうです)

そんな僕が最近どハマりしている「kiki vivi lily」について語ってまいりたいと思います。

どんなアーティスト?

スウィートで魅惑的な歌声と類稀なるメロディーセンスで彩度の高いポップネス・ソウルを奏でる注目のシンガーソングライター。

kiki vivi lily公式ウェブサイト「Profile」より


ということなんです。概ね、そうだよね!って思うんですけど、
僕は以下のような3点が彼女の良さだなあと思っています。
特に大好きな3つの曲と併せて、語ってまいりたいと思います。

歌声

シンガーソングライターらしい、変に凝ったり、こねくり回したりするところのないストレートな楽曲なのですが、ベースにソウルやヒップホップを感じるトラックと、シティポップ、ひいてはJ-POPのセンスを多分に感じるメロディとコード進行。ラップのような今風なトップラインを歌っても、随所にポップセンスが光ります。

これらの配合が絶妙なおかげで、とにかく上質でクールなポップスとして聴け、フックが効いてるのに何回も繰り返し飽きずに聴けます。

そして何より、声。
デビューアルバム「vivid」に収録された「80denier」のスタジオライブヴァージョンを聴いてください。

本当に甘くて、とびきりの可愛さがあるのに、それでいて媚びや幼さを感じなくないですか?耳馴染みが良くて、1度や2度聴いただけでは良さに気付けず聞き過ごしてしまいそうですが、毎日聴いていても飽きない魅力に溢れてます。
しかもきっちりビートに乗っていて、すごくナチュラルです。目立たないけど、歌の上手な方じゃないとこういうふうにはならない。

特にこの曲の歌詞って、かなり際どい意味にとれるのですが、

ねぇ今触ってもいいんだよ
恥ずかしがっていないでよ
わたしだって本当はこそばゆい
ねぇ今触ってもいいんだよ
恥ずかしがっていないでよ
わたしだってちょっぴり期待してる


この歌詞、がっつり本格的に歌ってしまえばきっとセックスの歌になってしまうんですよね。タイツって下着ですし(ですよね)、触ってもいいよって言っているし。
でも、kiki vivi lilyの歌唱で歌われることで、「男女の距離が縮まって、素敵な恋
恋の関係が1つ進んだ」その瞬間を捉えたなんとも甘い歌になっています。

「いいんだよ」って歌う時にリズムが3連のニュアンスを含むところもすごくいいです。

デニールという、男性では全くピンとこない単位を女性の恋心に例えて「あなたってわたしのこと、きっとよくわかってないよね」っていうともすれば危うい下品になってしまいそうなモチーフがものすごくフックになっていて、それが乗っかるのは良質でポップなトラック。シーンを選ばない、いつ聴いても好きになれる、着心地のいい、厚手のかわいいグラフィックが施されたTシャツみたい。


HipHopやビートメイカーから引っ張りだこな客演での魅力

kiki viviさん、なぜかヒップホップ界隈やビートメイカーとのコラボレーションがとても多いです。

nobodyknows+とのカバーを始め、SUKISHA、DJ HASEBE、Jinmenusagiなど。また、LAGHEADSなどがっつりと演奏するバンドとのコラボも多いです。何より、彼女のサウンドプロデュースを務めるMELROWもジャズ、ヒップホップとシーンを跨いで活躍する方です。

kiki vivi lilyの曲そのものもヒップホップに影響を受けたトラックですし、トップラインもメロディもとても今風な16ビートでラップのセンスを多分に感じます。こういうところがコラボレーションに引っ張りだこな理由なんでしょうけど、彼女のようなスウィートな歌声は熱いバンド演奏やトラックの前では「ラップの合間にたまに出てくるサビ」程度で、添え物っぽくなっちゃうんじゃないかなと思っていました。

ところが、これを聴いてみてください。

2019年、SUKISHAとのコラボレーション楽曲「Blue in Green」そのライブバージョンです。

コラボものでありがちな「歌の伴奏」にもなっていないし、インストバンドがやる歌手とのコラボみたいな「ゲスト感」も全くないですよね。

これは彼女が他者とのクリエイティブを重んじているからこそなのではないかなと思います。ライブのリハーサルだけでなく、制作や、もっと言えばアイデア出しの段階からバンドがかなり深く関わっているのではないかなと思っています。

音楽性だけでなく、こういったオープンな姿勢が、コラボレーションする側としてもとても面白いと感じるんじゃないでしょうか。
歌い手としての魅力もさることながら、とてもミュージシャンシップの高い方なのかなと想像します。


美しい歌詞

2023年リリースのEP「blossom」に収録されている曲「星喫茶店」を聴いてください。


モノンクルの角田隆太さんによるトラックは、うねるシンセとベースが印象的で、王道のコード進行で奏でられるメロディはこれまた切ない。

この切ない曲に乗っかる歌詞が出色に胸を打つ切なさなんですよ。

喫茶店で待ち合わせしている、久しぶりに会う男女のお話のように物語は進んでいくんですが、サビの冒頭で色々深読みしちゃいます。

セイレーンみたいに
ここで待っていたかった
優しく微笑んでたかった
ずっと
永遠に変わらないなんて夢を見ちゃったんだ
確かに今聞こえちゃったんだ
ああもう
季節がわたしを追い越してゆく音

「セイレーン」はお馴染みスターバックスコーヒーのロゴのモチーフです。「星喫茶店」というのは韓国でスタバを表すようです。優しく微笑んでいますよね。きっとこのロゴをモチーフに物語を膨らませて書かれた歌詞なのでしょうが、「セイレーン」っていう美しい歌声で船乗りを魅了する海の悪魔は、現実世界を描いた歌詞との対比で、急にファンタジックな世界が広がります。

PVでは、真っ白な背景に喫茶店の一枚絵が載っているアニメーションなのですが、サビに突入すると、周りの景色が露わになり、そこは孤島であることがわかります。

喫茶店のたたずむ孤島の周りを人魚がすいすいと泳ぐ、なんだか可愛くてノスタルジーすら感じる、このアニメPVも併せてこの曲を楽しむと、いくらでもファンタジックな解釈ができてしまいそうです。

「スターバックスのロゴのように、いつでもあなたがくるのを待ってる」という心からいつしか「神話で描かれるような悪魔みたいな心」に変わっちゃったのかな、とか、
「もしかしたらこの喫茶店に棲んでる人魚で、そこに通う1人の男の子に恋してしまって、ずっと優しく見守っていたんじゃないかな」とか、
現実とファンタジーの境目を絶妙にたゆたうような歌詞は、ケレン味なく、ストレートにかわいいし、軽やかに大人が妄想の物語を楽しめます。

個人的には最後のサビのこの部分が最高に泣けます。

セイレーンみたいに
ここで待っていたいけど
それももう終わりにしようかな

「終わりにしようかな」っていう宙ぶらりんさが絶妙で、待つことを諦めているけれど、まだどこか「このままでいたい」という気持ちの揺らぎがちゃんと含まれています。

考えるとこの歌詞には、激しく感情を現す言葉がほとんど出てきません。

久々に会えても嬉しくもないし、そわそわしているだけ。
楽しそうにしている2人を見つめても「くる」という言葉で表現されます。情念を全く感じない。
最も強く感情的な形容詞は「痛い」という言葉ですが、
これだけ、感情の表出をまったく感じずにきたから、心の痛みを感じているんだね、とはわかるのですが、それが何故感じている痛みなのか、ちょっとわからなくなってしまいます。

ほら、漫画やアニメでよくありません?悪魔のように、人ならざる悪役で、感情を持たないが、人の心が激しく動くシーンを見せつけられ、涙が出てきたり心が痛むのを感じるけど、その理由がわからない、という描写。あれによく似たものをこの歌詞から感じます。

これが「セイレーン」っていう悪魔モチーフであり、人魚の視点で描かれていることがより鮮明になります。その無感情さ、だけど心のざわつきのようなものは、確かに聴き手が感じ取れる…。

そう考えると、最後の「終わりにしようかな」に、決定的な諦めと、しかし深い絶望や悲しみともほど遠い、清しさすら感じる描写に一際の美しさを見出せると思いませんか。

人と、人ならざるものとの邂逅ーその結末がどのようなものであれ、胸を打ちますよね。ああもう。

さいごに

kiki viviさん、この他にもかっこいいサウンド、素敵なポップス、など良い楽曲がたくさんあるので、ぜひ聴いてみてくださいね!

6月のブルーノートライブ、仕事がなければ…。

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