「ウポポイ批判」は何故見過ごされてはならないのか

9月2日(水)、北海道新聞は今年7月に開館した国のアイヌ文化復興拠点である民族共生象徴空間(ウポポイ)と拠点で働くアイヌ民族の職員に対するインターネット上での投稿を批判する社説を掲載しました[1]。

社説では、「偽アイヌ」「捏造のアイヌ文化」などの表記や、ウポポイの整備を「アイヌ利権」と批判する投稿などがあり、根拠が不明な発言はいわれなき差別を助長する可能性があって容認できないこと、こうした発言の背景には先住民族であるアイヌの歴史に対する無理解があると指摘されています[1]。

確かに、アイヌの歴史に対する無理解という点は、例えば1986年10月21日の衆議院本会議における中曽根康弘首相の答弁からも推察されます。

すなわち、1986年9月22日に自民党全国研究会での講演で日本が単一民族であると発言した中曽根首相に対し、共産党の児玉健次議員は「我が国における少数民族というべきアイヌの方々の存在は、総理の念頭にはないのですか。」と質問しています[2]。

そして、児玉議員の質問を受けた中曽根首相は、以下のように答弁します。

私は、日本におきましては、日本の国籍を持っている方々でいわゆる差別を受けている少数民族というものはないだろうと思っております。国連報告にもそのように報告していることは正しいと思っております。大体、梅原猛さんの本を読んでみますというと、例えばアイヌと日本人、大陸から渡ってきた方々は相当融合しているという。私なんかも、まゆ毛は濃いし、ひげは濃いし、アイヌの血は相当入っているのではないかと思っております。

また、本会議後の記者会見では、「日本に少数民族は存在しないのか」という質問に対し、中曽根首相は「欧米のようなマイノリティは存在しない」という趣旨の回答を行っています[3]。

その一方で、衆議院本会議の翌日に行われた衆議院法務委員会において、政府委員として答弁した法務省の野崎幸雄人権擁護局長が結婚や就職などでアイヌへの差別が人権問題として残っていることを明言ました[4]。

こうした答弁の食い違いは、「差別とは何か」という点を巡る理解の相違に基づくものかも知れません。

しかし、理解の相違の根底に、過去の経緯に対して留意していない、あるいは歴史に対して無関心である、という点が推察されるのは、北海道新聞の社説が指摘する通りです。

そして、同様の理解が現在に至るまで残っていることも、「2000年の長きにわたって1つの言葉、1つの民族、1つの王朝が続いている国はここしかない」という麻生太郎財務大臣の発言[5]などが示唆するところです。

それだけに、民族の共生を掲げるウポポイを巡る種々の発言について、われわれは「遠くの出来事」、「アイヌの話」と等閑視するのではなく、何故根拠が不明確な発言が行われるかを考え、適切な対策を講じる必要があると言えるでしょう。

[1]ウポポイ批判 根拠なきは認められぬ. 北海道新聞, 2020年9月3日, https://www.hokkaido-np.co.jp/article/456452?rct=c_editorial (2020年9月4日閲覧).
[2]第107回国会 衆議院 本会議 第7号 昭和61年10月21日. 国会会議録検索システム, 1986年10月21日, https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=110705254X00719861021 (2020年9月4日閲覧).
[3]よみうり寸評. 読売新聞, 1986年10月23日夕刊1面.
[4]第107回国会 衆議院 法務委員会 第1号 昭和61年10月22日. 国会会議録検索システム, 1986年10月22日, https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=110705206X00119861022 (2020年9月4日閲覧).
[5]麻生氏「1つの民族」発言を謝罪. 日本経済新聞, 2020年1月14日夕刊3面.

<Executive Summary>
Why Do Not We Ignore the the Groundless Rumors of Upopoy? (Yusuke Suzumura)

The Hokkaido Shimbun points out that there are groundless rumors of Upopoy, the National Ainu Museum and Park. It is remarkable point for us not to ignore such rumors, since we have to pay our attention carefully for the history of Japan.

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