野球文化學會第6回研究大会における会長挨拶

去る2022年12月11日(日)、野球文化學會の第6回研究大会が行われました。

私は今回も学会長として「会長あいさつ」を担当しました。

今回、以下の通り「会長あいさつ」をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


野球文化學會第6回研究大会における会長あいさつ

本日は、ご多用のところ、野球文化學會の第6回研究大会にお集まりいただきまことにありがとうございます。今大会の開催にあたり、学会を代表して一言ごあいさついたします。

今回の研究大会はオンライン形式での実施に加え、2019年の第3回以来3年ぶりに対面形式での開催が実現しました。新型コロナウイルス感染症の拡大が続く中でも学会活動へのご理解とご支援を絶やさなかった会員の皆様のお力添えのたまものであると感謝申し上げます。

さて、今年は1872(明治5)年にホーレス・ウィルソンが日本に野球を将来してから150年の節目の年に当たります。この1年間、様々な形で野球伝来150年を記念する企画が催されています。今回の研究大会も、第2部のシンポジウムを「野球文化伝播の150年--明治から令和、そして新たな時代へ」と題して行います。

学会の創立者で初代代表幹事でもある諸岡達一顧問は、学会の理念を「ベースボーロジー宣言」にまとめたことは、私が折に触れて申し上げている通りです。「ベースボーロジー宣言」では、「野球を人類不朽の文化とし、学問としての野球を確立する」という理念が示され、現在も学会の活動の基礎となっております。

今回、野球伝来150年を記念する形で行われる第2部のシンポジウムは、野球が競技であるばかりでなく、文化としてどのような形で日本の普及し、定着したかを考える試みでもあります。こうした取り組みは、野球の広がりとともに、多層的なあり方をも示すものであり、まさに文化としての野球、あるいは野球文化学の発展に大いに資するものであると考えます。

それとともに、この150年間の日本における野球の受容と普及、そして定着の過程を振り返ると、その道のりからわれわれが学ぶべき点は決して少なくないことが分かります。すなわち、当時の人々にとって新しい競技であったベースボールは、日本にもたらされてからただちに普及したわけではなく、ある地域や人々の間では広まったものの他の集団においては定着しないことも珍しくありませんでした。

しかも、当時、日本にはベースボールだけでなく、サッカーやラグビーといった競技も相次いでもたらされています。そのような中でなぜベースボールがいち早く定着し、20世紀に入ると広範な層から幅広く支持を受け、「第2の国技」と称されるまでになったのでしょうか。

もちろんベースボールという競技そのものの魅力がなければ実現しなかったことですし、中馬庚がベースボールに「野球」の訳語を与えたことで、外来の競技の土着化が図られたという点も見逃せません。

これに加えて重要なのが、ベースボール、あるいは野球の魅力を体験し、この競技をより多くの人たちに伝えようと尽力した人たちの存在です。幸いにして米国への留学生の中には、彼の地で見聞し、自らも楽しんだベースボールを日本の人々にも広めようと努力した人々が少なからずいました。そして、この人たちが原動力となり、外来の競技は様々な階層へと広まったのです。

こうした過程を念頭に置けば、われわれ野球文化學會の会員は、文化としての野球、あるいは野球文化学をより多くの人たちに広めようとする、ベースボールが将来してから間もない時期の先達たちと同じ役割を担っていると言えるでしょう。そして、研究機関に属しているという意味での研究者のみではなく、研究機関に属していない方も多数参加している野球文化學會は文化としての野球にかかわる人々が集うための、重要な場を提供しているのです。その意味からも、われわれは、より多くの方が野球文化學會を拠点として野球文化の研究に励み、日本と世界の野球文化学の発展に参画されることを願っています。

最後に、今大会の開催に際して、第1部の一般研究報告で報告された会員各位、第2部のシンポジウムで基調報告を快諾された池井優氏、ご報告をたまわる永田陽一氏と井上裕太氏に御礼申し上げるとともに、日々の学会運営や、研究大会の開催に献身的に取り組まれた吉田勝光副会長、武田主税副会長、並びに役員各位の尽力に改めて深甚なる謝意を表し、私からのあいさつといたします。

令和4年12月11日
野球文化學會会長 鈴村裕輔


<Executive Summary>
The Address for the Forum for Researchers of Baseball Culture 2022 (Yusuke Suzumura)

The Forum for Researchers of the Baseball Culture (FRBC) held the 6th Annual Meeting on 11th November 2022. On this occasion I introduce my address as the President of the FRBC to the pariticipants.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?