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ヘパリン混注は静脈開存率を上げるか?

末梢静脈路確保は、医療の基本手技。さまざまな薬剤を患者さんに投与するために必要なことです。でも、病棟での困りごとの一つとして、「末梢が詰まる/漏れる」といったトラブル。

患者さんによっては、連日漏れてしまうため、確保し直さなければいけません。ヘパリンを末梢から流すことで、開存率を改善するかも?というアイディアは古くからあります。

でも、これってエビデンスはあるの?

と思って調べてみたら、なんとシステマティック・レビューがありました!

32のRCTを元にメタ解析を行った(11は持続投与、21は間欠投与)。
対象患者:成人、小児、新生児、妊婦
ヘパリン濃度:間欠投与2〜100 U/mL、持続投与 0.1〜2 U/mL
カテーテルの材質:テフロン、ポリウレタン、ネオフロン、ポリエチレン
カテーテルのサイズ:16〜26ゲージ
【結果】
カテーテル開存率:
 持続投与 RR 0.82 [95% CI 0.69 to 0.98; I2=5.5%, p<0.05]
 間欠投与 RR 0.80 [95% CI 0.66 to 0.98; I2=26.9%; p<0.05]
カテーテル開存期間(時間):
 持続投与 SMD 0.90 [95% CI 0.48 to 1.32; I2=92.4% ;p<0.001] 
 間欠投与 SMD 0.11 [95% CI -0.05 to 1.27; I2=72.0% ;p=0.165]
  高用量ヘパリン(100 U/mL) RR 0.64 [95% CI 0.48 to 0.86; p<0.01]
Infusion failure:
 持続投与 RR 0.83 [95% CI 0.76 to 0.92; I2=0%; p<0.001]
 間欠投与 RR 0.93 [95% CI 0.81 to 1.06; I2=49.5%; p=0.28]
  成人 RR −0.34 [95% CI −0.92 to 0.24; I2=66.4%; p=0.26]
  小児 RR −0.06 [95% CI −0.20 to 0.08; I2=49.5%; p=0.40]
静脈炎:
 持続投与 RR 0.66 [95% CI 0.58 to 0.75; I2=21.1%; p<0.001]
 間欠投与 RR 0.70 [95% CI 0.56 to 0.86; I2=30.3%; p<0.01]

Exp Ther Med. 2017; 14: 1675–84.

この結果を見ると、確かに持続投与しても、間欠投与しても、末梢静脈路の開存率はヘパリン投与によって改善することがわかります。

では、全例にヘパリンを混ぜるべきか?

これに関しては、なんとも言えません。

細かく言えば、抗がん剤を使う静脈路なのか、血管作動薬を使う静脈露なのか、そういった内容で細かく分けられてはいません。

ヘパリンをルーチンに使用することによって、HIT(heparin-induced thrombocytopenia: ヘパリン起因性血小板減少症)増加のリスクにもなります。HITが発生してしまうと、さまざまな場面でヘパリンの代替薬を使用しなければならないので、臨床的なデメリットがあります。

予防的抗菌薬を長く続けることによる耐性菌の問題と似ていますね。

どのような患者さんに対して、ヘパリンを末梢静脈路に使うべきかのエビデンスが欲しいところです(あるのかもしれませんが…)。

麻酔科的には、このような患者さんが緊急で手術となった時、脊髄幹麻酔を避けるかどうかですが、妊婦さんに関しては、2,000 U/day以下くらいならば大丈夫だと思っています(安全というエビデンスはありませんので、自己判断でお願いします)。

こういった日々の素朴な疑問を、ちゃんと学ぶことは大切ですね。

ちなみに…
動脈ラインへのヘパリン混注に関しては、Cochrane Reviewでは支持されていません。実際、私が勤務している施設では、10年以上前から動脈圧ラインへのヘパリン混注をやめていますが、臨床上トラブルは発生していません。当たり前を疑う姿勢が、日々の診療をアップデートしていきます。



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