11月9日CA 拘禁刑導入の是非について


「記事内容」

 政府は、刑罰の懲役と禁錮を一本化して「拘禁刑」を創設する改正刑法の施行日を2025年6月1日とする政令を閣議決定した。改正により、懲役受刑者に科されている刑務作業が義務でなくなり、立ち直りに向けた指導や教育に多くの時間をかけることが可能になる。改正刑法は、拘禁刑の受刑者に対して「改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」と規定している。つまり、受刑者の特性に合わせ、作業や教育を柔軟に組み合わせた処遇を行えるようになる。今回の刑法改正により、刑罰の目的が「受刑者に懲罰を与えること」から、「再犯防止のために教育すること」に重点が移る。
この法令が導入された背景として、
➀再犯者率の増加
→令和3年版犯罪白書によると、2020年の再犯者率は49.1%である。この背景の1つに、コロナ禍で企業の経営が悪化し、出所者の雇用先が減少したことがある。特に、仮釈放よりも満期釈放の方が再犯率が高い。
②受刑者の高齢化
→犯罪白書によると、2020年の65歳以上の高齢受刑者は2,143人で、2001年と比べて約2.1倍に増加している。特に、70歳以上の受刑者の増加は激しく、2001年と比べ約3.8倍に急増している。そのため、高齢受給者は刑務作業を行うことが困難で、介護やリハビリが必要な人もいる。
➂懲役と禁錮の境界が曖昧
→令和3年版犯罪白書によると、2020年に新たに入所した受刑者の刑の種類は、懲役1万6,562人(99.7%)、禁錮53人(0.3%)、拘留5人であった。禁錮刑は作業の義務化はないが、自ら希望して作業を行うことができる。実際に、禁錮受刑者は、2021年3月31日時点で、79.8%が刑務作業に従事している。
前提知識
現行の刑法には、死刑、懲役、禁錮、罰金などが設けられている。
懲役と禁固の違い
懲役…殺人・強盗・放火など道徳的に非難される犯罪に対する刑のこと。作業の義務あり
禁錮…政治犯、過失犯などが適用される。刑事施設に拘置する=作業の義務なし

意見・論点

1.社会的コストの増加
→受刑者の特性に合った柔軟な処遇を実施するには、介護、福祉、医療など専門性をもった人材の確保が必要不可欠である。現在、全受刑者にかかる生活費は年間300億円かかる。 また、そのコストは国民の税金が捻出されている。日本社会では、刑法が制定された明治時代以来、刑罰制度は、犯罪への応報であるという考え方が根付いている。具体的には、立法による法定刑の引上げや刑事司法全般において厳罰化が進んでいる。他にも、死刑制度の是非について、大規模に行われた調査に、平成26年度の「基本的法制度に関する世論調査」(内閣府)がある。それによると、「死刑もやむを得ない」と答えた者の割合が80.3%、「死刑は廃止すべきである」は9.7%と存続を求める意見が多い。
このような風潮が残る日本では、受刑者へ罰を与えるのではなく教育を提供することは国民にとって受け入れがたいと考える。

Q拘留期間の長期化の流れを様々な法律と組み合わせ、廃止していく風潮がある。(カルロス・ゴーン)
そのために拘禁刑は合っているのでは
A拘禁刑は長期化を防ぐためではなく、再犯防止をするためにあるのではないか

Q「「死刑もやむを得ない」と答えた者の割合が80.3%、「死刑は廃止すべきである」は9.7%と存続を求める意見」は死刑制度に関しての意見であり、刑務作業に直接的に関係するものではない。
A犯罪への応報(罰を与えるべき)

2.有用性の低さ
→拘禁刑が導入されても指導あるいは作業は、受刑者の意思と関係なく強制される。「したくない」状態の受刑者に指導をしても、反発を招くことがあり、常に効果をもたらすものともいえない。各種指導の多くはグループワークの形で実施されているが、やる気のない者が加わるとグループ全体の雰囲気を悪くすることになり、他の受刑者に対しても悪影響を与える。さらに、社会復帰を目的とした法令だが、受刑者が主体的に取り組めるものではないため社会内で自律的な生活ができるとは限らない。また、拘禁刑も同様に受刑者は社会との繋がりは絶たれている。そのため、社会復帰が困難であることは変わらない。
→法務総合研究所研究部報告によると、刑務作業が「ある方がよい」と回答した者が8割近くを占めている。刑務作業に肯定的な意見が多いことから、現状を存続させたままで良いのではないかと考える。

Q誰にアンケートしている
A刑務者

Q刑務作業でホタテを作らせようとする現状(服役者に強制作業を行う) 
 EUは受け入れ拒否もしているためにこの流れは進んでいくからこそ、合った刑罰を
A社会の受け皿がない以上、このような作業をさせるべきではない
 拘禁刑も結局は強制作業を行っている。

3.被害者遺族の立場
→被害者遺族の身体的・精神的・財産的な影響は生じやすく、被害者だけではなく関係者にも影響は及び、加害者による影響の範囲は大きい。現行刑事司法は裁判官,検察官,被告人・弁護人という三面構造であり,加害者関係的に遂行される結果,被害者はあくまでも証人に過ぎず,被害者の正義感情・応報感情が充足されることはない。さらに民事裁判の損害賠償請求は、犯罪被害者救済として殆ど機能 してこなかった。なぜなら被害者側が犯人に損害賠償請求を提起し勝訴の見込みが明白であっても,犯人側に支払能力のない場合が多く,民事裁判に訴える意味がないためである。特に、特に身体・生命の侵 害という被害の重大さに比して損害賠償が現実的に機能していない状況である。
→平成8年度版の犯罪白書によると、調査対象総数382人中280人(73.3%)の被害者遺族が加害者を死刑(極刑)に処する希望を表明しており,また,47人(12.3%)が無期懲役刑又は厳しい処罰という「厳罰」の希望を表明している。死刑と厳罰を希望するものを合計すると,総数382人中327人(85.6%)(処罰感情が不詳である7人を除いた人員の87.2%)となっている。また、加害者の社会復帰に関しては、238人の各意見の構成を見ると,200人(84.0%)が加害者の社会復帰に反対すると述べており,社会復帰を容認する意見を表明する者は14人(5.9%)にすぎなかった。
以上のことから、加害者の社会復帰支援よりも被害者の支援の充足を優先するべきである。

予想される反論・再反論

1.再犯防止に繋がる
→再犯者率が上昇しているのは、刑法犯検挙者数が大幅に減少していることが起因している。実際に、再犯者数は減少している。
また、元受刑者の出所後の自立サポートを目的とした施設には、「更生保護施設」と「自立準備ホーム」があるが、出所者が全員入所できない。「平成29年版 犯罪白書」によると、2016年度の満期釈放等で出所した人の帰住先で、「更生保護施設等」はわずか4.3%。最多は「その他」(49.1%)である。さらに、罪を犯した人の多くは生活困窮状況にあり、高齢者の再入者については窃盗と詐欺(無銭飲食)の割合が高率であることが指摘されている。
日本では、犯罪者へのスティグマが蔓延る中での社会復帰は困難なものである。以上のことから、日本に導入される拘禁刑は根本的な原因を解決するものではなく、再犯防止への寄与は小さいと言える。

2.現状、懲役刑と禁錮刑の処遇格差が縮小していることから一元化することは合理的である。
→禁錮は、懲役と異なり、過失犯や政治犯等の非破廉恥罪であり全く性質が異なるため、作業を強制するべきでない。また、禁錮刑と懲役刑の処遇の違いとして、作業を強制するか/しないかである。これは、受刑者の自律性と責任感に対する信頼を基礎とする制度であり、禁錮刑の受刑者は作業に自主性が伴っているため社会復帰に役立っていると考える。

Q独房に入るくらいならという想いで刑務作業を行っている。やるなら合ったものをするべき
A自主性が生まれるわけではない。ある程度の意思があるのではないか。

【先生からのコメント】

過去の経緯から現在を考えることが重要
被害者に寄り添うことも重要だが、加害者の人権もある
社会の風潮(世間の犯罪者に対しての考え方)を変えていくべき(イギリスは犯罪者を受け入れる体制が整っている)

参考文献


日本経済新聞「拘禁刑を25年6月導入 懲役と禁錮を一本化、更生を重視」〈https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE071OW0X01C23A1000000/〉

TBS NEWS DIG「懲役・禁錮を一本化「拘禁刑」が始まる日 改正刑法2025年6月1日施行 政府が閣議決定」〈
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/821324?display=1〉
読売新聞「【独自】懲役と禁錮を一元化へ…「拘禁刑」創設、115年ぶりに刑の種類を変更」〈https://www.yomiuri.co.jp/national/20211226-OYT1T50176/〉
ベリーベスト法律事務所「懲役とは具体的にどのような刑罰? 懲役刑を言い渡されたらどうなる?」〈https://keiji.vbest.jp/columns/g_other/4856/〉
アトム弁護士相談「拘禁刑とは?拘禁刑の内容、創設の理由を解説」〈https://atombengo.com/column/21904#i-2-1〉
刑事事件弁護士相談広場「拘禁刑とは?懲役刑と禁錮刑 一本化の目的と新設でなにが変わる?」〈https://www.keijihiroba.com/punishment/imprisonment-newlaw.html〉
再犯防止推進白書「『第2節 再犯の防止等に関する施策の成果指標』1.刑法犯検挙者中の再犯者数及び再犯者率【指標番号1】」〈https://www.moj.go.jp/hisho/saihanboushi3/html/n1210000.html〉
日本弁護士連合会「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」〈https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2016/2016_3.html〉
平成 8年版 犯罪白書 「第3編/第8章/第3節/2調査結果」〈https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/37/nfm/n_37_2_3_8_3_2.html〉
NEWS ポストセブン「国民の8割が支持する死刑制度と被害者感情について」〈https://www.news-postseven.com/archives/20160910_446599.html?DETAIL〉
吉木 栄「犯罪被害者救済に関する一考察 ――犯罪被害賠償基金設立への展望―」立命館大学,p1-41
法務総合研究所研究部報告「刑務所に関する意識調査一その1 釈放前受刑者の意識調査一」〈https://www.moj.go.jp/content/000076149.pdf〉
漆畑貴久「刑法等改正における『拘禁刑』創設の意味」法政治研究第9号(2023年3月)p1-26






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