善意と悪意

良き日の最後にあった、すごく気持ちの悪い出来事。

今日は、各所でやらせてもらっているリヴハウスのプレイベントの日でした。

イベントの後、来てくれたひとたちと行きつけのBARに飲みに行こうという話になり、
自分は自転車だったので先に向かいました。
徒歩組が少し遅れて店に到着したとき、
一緒に見知らぬ男性を連れてきました。

海外の方で、道すがら出会ったと。
下北沢の街を彷徨っている様子で、お酒を飲めるところを探していると友人の女性たちに英語で話しかけてきたので、友人たちは一緒に飲みに行こうと誘い、BARに連れてきたとのことでした。

友人の男性のひとりが、片言の英語で、
「自分は古着屋で、買い付けで海外に行った時に、見ず知らずの地元の方にすごく良くしてもらった。ここは自分が住んでいる街で友人の店なので、君にお酒を奢りたい」
と言い、彼の分も注文をしました。
彼は日本語が全く話せない様子で、友人のたどたどしい英語に困惑しながらも、お酒をもらい飲んでいました。

BARは喫煙スペースを外に設けていて、ふたりは外に出て煙草を吸いながら話をしていました。

そこに別で飲んでいた友人がやってきました。
その友人は英語を話すことができるので、日本語が理解できない彼のために、外でふたりの会話の通訳をしていました。

少し時間が流れて、

古着屋の友人は明日仕事だからと、先に店を後にしました。

その後、
英語の喋れる友人と彼が店の中に戻ってきました。

それからです。

さっきまで日本語を話せない様子だった彼は私たちの前で流暢に日本語を喋り出しました。

その場にいた私たちは困惑しました。

私は彼に、
「君はどこの国から来たの?」と聞きました。

彼は答えようとしませんでした。

英語が話せる友人が、
「彼は多分日本人ですよ、日本語も理解できます」と私たちに伝えました。

私は彼に、
「さっき帰った俺の友達は、不慣れな外国で行き場所を失っていた君を迎え入れたいという気持ちで酒を奢ったんだけど、それに対してどう思ってる?」と訊きました。

彼は日本語で、
「何ですか?俺が詐欺まがいのことをしたとでも言いたいんですか?俺はいつも英語で喋っているだけです。」と答えました。

私は、
「いや、君が友人を騙したとかではなく、単純にどういう思いで日本語が分からないフリをしたの?」と訊きました。

彼は、
「何ですか?金を払えばいいんですか?」と続けました。

それまで話を聞いていた友人の女性が彼に言いました、
「どうしてこんなことをするの?やめたほうがいいよ」

彼は、
「自分は大学の外国語科を出ている。英語で喋るのは普通。気に食わないなら金ならいくらでも払いますよ」と答えました。

私たちと彼のやり取りを遮るようにBARの店主が、
「気分が悪い。帰ってほしい」と彼に伝えました。

彼は焦っていたのか酔っていたのか、
「追い出されたこと、俺の街の先輩に言うから覚悟しとけよ」などと吐き捨て、
BARの出口が分からないほど動揺し、店を出て行きました。

疑問でした。
なぜ彼は日本語が分からないフリをしていたのか。
そして、拙い英語ながら友達になろうとしていた古着屋の友人の話をどういう気持ちで聞いていたのか。
友人は、彼が実は日本人だったということを知らずに帰った。

それを思うと、憤りというか虚しさが込み上げてきました。

彼にとっては、女性に声をかけるためのナンパの手段だったり、酔った勢いの悪戯だったのかもしれません。

だとしたら、ひとの善意に触れた時点で、素性を明かすべきだと思います。

海外からの旅行者のひとたちにも、日本人にも、すごく失礼な気がしました。

いや、ひとの良心に対して失礼だと感じたんだと思います、
そして、英語や日本語という“言葉”自体にも。


彼に悪意があったかは分かりません。

ただ、ひとつ言えることは、

小さな善意が報われる世の中を私は望みます。

そして、友だちの良心は間違ってないということ、それだけです。

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