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独立開業の「師匠」である、栗原哲也さんの著書『神保町有情―日本経済評論社私史―』をいただく

日本経済評論社の前・社長の栗原哲也さんから著書『神保町有情―日本経済評論社私史』(一葉社)をご恵贈いただいた。
突然に送られてきたので、本当にびっくりしたが、読み始めて、一日で半分くらいを読んでしまった。それほど面白い。

この本は栗原さんの編集者・出版経営者としての自伝であると同時に、自らが創業に参画した日本経済評論社(略称:日経評)の歴史を描いたものだ。
そして、栗原さんは私にとって、有志舎を独立開業していくにあたっての恩人であり、「師匠」だ。
私が栗原さんと出会ったのは、吉川弘文館を辞めることを決めた2003年頃だったと思う。歴史書編集者の勉強会として長年続けられていた「歴史編集者懇談会」に誘われて初めて参加し、そこで栗原さんに出会った。目をギョロつかせて「何だ、この若造は」という感じで睨んできて感じが悪かった。それに、私がメンバーの前で、「吉川を辞めて独立し、出版社をやるつもりです」と言ったら、即座に「やめとけ!」ときた。その時は「何だ、このオヤジは?!」と思ったけれど、実は栗原さん自身も出版社を創業して筆舌に尽くしがたい苦労をしてここまできた人なので、その真意は「若い者がわざわざ苦労することはない」という親心だったのだが、そんなことをクドクドと説明するはずもない、せっかちで口の悪い人なので、ああいう言い方しかできなかったのだと思う。
それでも、どういうわけか気に入られたようで、口では「独立なんかやめろ」と言いつつ、色々と助けてくれて、創業した時には「あれほどやめろと言ったのに」と言いつつニコニコして神保町の有志舎事務所にやってきた(偶然にも、その時のわが社の事務所は日経評の近くのビルにあった)。
そして、日経評から編集委託の仕事を定期で回してくれた。これが、どれだけ創業当初の有志舎にとって経済的にありがたかったことか。おまけに、取次のJRCを紹介してくれただけではなく、さらに大手取次のトーハンと取引をする際には保証人にもなってくれた。海のものとも山のものともわからない創業零細出版社の保証人になるなど、なかなかできない事だ。足を向けて寝られないとはこのことである。
そうして3年ほどがたった時、「お前、いつまでもゲタを履かせてもらっていては本当の出版社じゃないぞ」、つまり「委託仕事はやめて自社の出版物だけで勝負しろ」と言い始めたのである。私は最初、「そんな、無理ですよ」と言ったが、「出版社をやるんだったら、いつかはそういうときがくるもんだ。退路を断って背水の陣でやれ!」と怒鳴られた。
それで私も決心して、他社からの委託仕事はすべて断り、自社本の出版だけでやっていくことにした。そして、どうにかこうにか有志舎は今年で創業20周年を迎える。
私と有志舎がこうしてやってこれたのは、栗原哲也という偉大な先達がいたからだということは間違いない。

そういう栗原さんの熱い志がみなぎる本書をぜひ、出版人は読んで欲しいと思う。
オビにある「出版は 〔関係性〕、不可欠なのは 〔情〕だ!」というこの言葉こそ、栗原さんの出版哲学であり、いかに古いと思われても、私もやはり出版の根本精神はここにあると思うのだ。
そういう頑固さは栗原さん譲りかもしれない。

考えてみたら、もうしばらく師匠にお会いしていなかったので、これを機に久しぶりにお会いできたらと思う。