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旅とはそういうものかもしれない。日常の窓を開けて、新鮮な空気で入れ替える。
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2022年12月の記事一覧

旅|カタール|5

 どんな場所も、自分の家になる。そこに降り立つと、身体の芯から安心感が広がる。今日も無事に帰ってくることができた。大袈裟かもしれない。しかし、異国の見知らぬ街並みと人々は神経に緊張感を与える。家はそんな僕を癒してくれる。  果てしなく続くフリーゾーン。文字通り、そこには無限にも広がる土地があり、自由がある。ワールドカップを目的に集った世界中の人々がそこにいる。風を受けてたなびく数々の国旗はその象徴だ。地球を掌の上に乗せて、両手で絞ったらフリーゾーンができる気がする。  着

旅|カタール|4

 視界の先にコンテナの白い扉があった。浴室から漏れた灯りがそこに反射していた。薄皮のような疲労が頭にこびりつく。でも、ワールドカップが僕を待ち受ける。四年が経過しても、その興奮は同じ熱を放ち、それと同時に異なる趣を湛える。熱の芯は冷めず、炎のゆらめきが穏やかになったようだ。日本対コスタリカ。僕の日常に活力と希望をもたらし続けた一戦。半年以上をかけて定めた目的の地である、アフメド・ビン=アリー・スタジアムへと向かう。  コンテナから足を踏み出すと、世界は白く染まっていた。しみ

旅|カタール|3

 アブダビからドーハの航空券は別で予約していたため、搭乗券をアブダビで受け取る必要があった。ボーディングブリッジを抜け、アブダビ国際空港の風景が眼に飛び込んでくる。民族衣装である白のカンドゥーラと黒のアバヤをそれぞれ身につけた男女。じんわりと熱がこもった空気は香りも異なり、香辛料の気配も微かに漂う。体内を流れる血管のように世界はつながっている。その中で浮遊する血球のごとく、旅人たちは世界中を駆け巡る。日常が切り替わる、この瞬間が僕は好きだ。  歩んだ先にはトランジット・デス