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寿司郎

 ここ最近のあるところに、おじいさんが住んでいました。ある時おじいさんは一人で回転寿司へ行きました。おじいさんは回転寿司に行ってもお寿司を食べません。お寿司が嫌いだからです。その代わりにいつも山盛りポテトフライを頼みます。

 おじいさんが山盛りポテトフライを頼んで待っていると、お寿司のレーンから、大きな桃がどんぶらこぉどんぶらこぉと流れてきました。おじいさんは二度見をして、しばらく固まってしまいました。しかし桃はどんどん流れていきます。我に返ったおじいさんは、桃に手を伸ばそうとしました。しかし心配性のおじいさんは考えます。もし桃から子どもが出てきたらどうしよう?その子の戸籍はどうなるんだろう?学校へは通えるのだろうか?そんなことを考えているうちに、桃は流れて行ってしまいました。

 やっぱり桃から出してあげるべきだっただろうか?今思えば、桃の中から、「出してぇ〜ここにいるよぉ〜」と、声が聞こえたような気がしてきます。最近耳が遠くなってきたおじいさんがそう思っていると、今度はレーンから、大きなきびだんごが流れてきました。再び二度見したおじいさんは考えます。これを食べたら誰かの家来にならなければいけないんじゃないか?もしかしたらどこかの島に連れて行かれて、兵士として働かされるんじゃないか?おじいさんはきびだんごを見送りました。

 もう流れてこないだろう。そう考えていたおじいさんが、緑茶をすすってほっこりしていると、レーンから大きなチキンがどんぶらこぉどんぶらこぉと流れてきました。キジを焼いたらかわいそうじゃないか!!酉年のおじいさんは、鳥に妙な愛着があります。気の毒に思ったおじいさんは、チキンを取るのをやめました。

 しかし理由はほかにもありました。この調子でいくと、最後にはお宝が流れてくるかもしれない。したたかなおじいさんはそう考えたのです。しかし待っても待ってもお宝らしきものは流れてきません。山盛りポテトフライも来ないので、仕方なくおじいさんは普通のプリンを手に取りました。

 おじいさんがプリンに醤油をかけて食べていると、レーンから大きなきびだんごが、どんぶらこぉどんぶらこぉと流れてきました。おじいさんが無視していると、隣の席から男の子の声がしました。「これなぁに?」 お父さんとお母さんに聞いています。テーブルには、大きな桃が置いてあります。「タピオカだよ」 お父さんが答えます。「タピオカおいしいね」 怒るお母さんをよそに、男の子とお父さんは嬉しそうです。

 おじいさんが冷凍みかんでお手玉をして遊んでいると、向かいの席から若い女性の声がします。「これなに?」連れの男性に問いかけます。テーブルには、大きなきびだんごが置いてあります。「わからない」と男性が答えると、なんでわからないもの取ってくるの!あなたっていつもそう!こないだも……となってしまったので、おじいさんは聞くのをやめました。

 さきほどの男の子の方を見ると、桃を食べ終えていました。「あれたべたい」 男の子が言いました。視線の先には、大きなチキンが置いてあります。「だめ。もうお腹いっぱいでしょ」お母さんが言うと、男の子は雑草を見るような目をした後、「いやだたべたいー」とだだをこねはじめます。男の子の周りには、チキンをおいしそうに食べる家族連れがたくさんいます。お父さんがなだめ、仕方なく折れたお母さん。

 おじいさんがみかんに醤油をかけて食べていると、再び大きな桃が流れてきました。迷いながらも手を伸ばすおじいさん。すると、「大変長らくお待たせ致しました」 と、山盛りポテトフライを持った店員がやってきました。「これ、よろしければどうぞ」 店員さんに小さな箱を渡されました。ついにお宝が!期待しながら箱を開けてみると……中から大きなぼたもちが出てきましたとさ。

めでたしめでたし。

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