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スイッチ版も出たので『十三騎兵防衛圏』レビュー

switch版『十三機兵防衛圏』が2022年4月14日に発売、またPS4にも価格改訂版が同年8月4日に発売発表された。再びこのゲームを取り上げられる機会が増えている。筆者もこれまでPSStoreセールに登場するたび知人におすすめしてはいたが、「十三機兵はいいぞ」しか言ってこなかったので真面目にレビューを書いてみたいと思う。本当は発売前に書くべきだったかもしれない。


13人「全員」が主人公……?!

まず初めに言っておきたいのは、当ゲームは「キャラゲー」ではない。「ヴァニラウェアによる美麗なイラスト」と「13人のキャラクター」とが合わさってどうも宣伝文句としてはキャラゲーとしての側面が強調されているように見えるが、はっきり言ってその要素は薄い。筆者が言いたいのは魅力的なキャラクターが居ないということではない。「キャラゲー」ではないというのはつまり、物語を駆動するのはキャラクターではないという意味だ。物語の中心にあるのは主人公の成長や葛藤、トラウマ克服ではなく「世界の謎」である。ゲームは大きく2つのパートに分かれている。機兵というロボットに乗り込んだキャラクターたちが戦闘を行う「崩壊編」と、各キャラクターを動かし世界の謎に迫る「探索編」だ。時系列は基本的に崩壊編が後であり、探索編では、13人のキャラクターがどのように戦うに至ったかが描かれる。なお「崩壊編」「探索編」は相互にロックがかかるようになっており、ある程度バトルが進まないとスト―リーを進められず、逆もまた然りだ。そのため探索編だけやりたい、といったことはできないようになっている(先述の通りそもそも探索編だけではシナリオが完結しないのだが)。
ただし、少しプレイすれば分かるが物語を駆動する「世界の謎」もタイムリープを扱っており、一見するとベタなテーマであることは論を待たないだろう。

13人「全員」が主人公 公式サイトスクリーンショット
13人「全員」が主人公。主人公が居ないことの言い換えだ。

タイトルから『十五少年漂流記』などを想像しがちだが、どちらかというと『藪の中』だ。つまり13人それぞれの視点からが謎が探られていき、徐々に世界の秘密が明らかになっていく、というような形式を取る。

演出の細やかさが最大の魅力

キャラゲーでない上に物語もベタであれば、今作品の魅力は何か。それは演出の細やかさである。言葉にすると非常に地味だが、これがとても気持ち良い。音楽と展開がバチっとハマった瞬間は非常にアツくなる。一例として挙げるべきはオープニングだろう。13人のキャラクターが背を向けたオープニング画面だが、GAME STARTを押すと中央のキャラクター(鞍部十郎)が振り向くと同時に、それまで遠くに聞こえていた曲がはっきりと聞こえるようになる。その他で筆者が好きな演出は崩壊編TUTORIALエピソード3、比治山隆俊を操作する回だ。沖野司との会話が終了、BATTLE STARTの文字が表れるやいなや、それまで控えめに流れていたBGMは瞬間、音数が増え前面に流れ出す。勇猛な比治山、そして第一世代機兵のインファイト具合とも合わさって、このシーンでは大いに心を動かされた。

TUTORIAL エピソード3 沖野と比治山の会話シーン

音楽を担当したベイシスケイプへのインタビュー記事にて、サウンドトラックに収録されている曲と、本編で使用されている曲とは若干異なるという話がでている。裏を返せば、ストーリーや会話、環境と合わせて音を細かく足したり、減らしたり、あるいは曲自体も変えたりとかなりのこだわりがあるということだろう。

――マップごとにサラウンドのような効果も感じられました。わかりやすいところをあげると、特務機構の部屋や沖野の隠れ家前など、空調音が移動によって変化しますよね。これも金子さんのご判断ですか?
金子:アドベンチャーパートはマップが存在しますが、限られた空間ですよね。制限された背景のなかで何も変化がないと、移動のおもしろ味がなくなってしまいます。なので、すべてのマップにいろいろと仕掛けを施しています。細かいところでいうと、網口のマンションは静かになりがちですが、窓に近付くと外の道路の音がするとか。鞍部の家も換気扇の音と外を行き交う車の音、テレビの音しかなく、このように静かなマップほど、気を付けないとつまらないマップになってしまうので大変でした。とりあえず動いているものを見つけて、どんどん音をつけていきましたね。
『十三機兵防衛圏』を彩る“音”の秘密とは――ベイシスケイプインタビュー・完全版を掲載!【電撃PS】

https://dengekionline.com/articles/23992/

いくつかの問題

総じて質が高く、非常に楽しめるゲームだと感じているがもちろん問題がないわけではない。

まずほとんどのプレイヤーが感じるだろう問題は、バトル画面が非情に簡素、というか抽象的な点だろう。タワーディフェンスというジャンルの性質上、同時並行的に敵味方が行動しており、処理速度を優先するためにこのような画面構成となったことは理解できるが、やはり見栄えはしない。
また同根の問題から、機兵のヴィジュアルが活かされることも少ない。機兵は4種類(世代)登場し、それぞれデザインも異なる。が、クリアまでプレイしてもそれぞれの見た目を覚えていないのが正直なところだ。ロボットものを期待すると少しがっかりと思う。個人的にも工業製品感があり、特にマッシヴな第一世代機兵のデザインが好きだったため少し残念に思った。
また、ハード性能の問題も多少だが存在する。先ほど処理速度を優先するために簡素な画面構成になっていると述べたが、しかしそれでも処理落ちする場面がある。第三世代機兵の技の一つである「ミサイルレイン」を使用した際、筆者環境のPS4Slimでは、ほぼ必ず処理落ちが発生した。なおニンテンドースイッチ版のユーザーレビューによると処理落ちが発生した場面はないと書き込みが複数あるため、改善されている様子だ。

13_3 ミサイルレイン
戦闘画面。ミサイルレインでワイヤーだらけになり処理落ちが発生。

戦闘そのもの、つまり崩壊編の難易度ややりごたえはどうだろうか。なお筆者はハードモードでプレイした。

どのキャラのどの能力が強いか、あるいはどの技が強いかが分かってしまうとバトルが非常に単調になってしまう問題はある。機兵やキャラが成長しきった終盤、第四世代機の「インターセプター」という技を擦るだけで勝てるようになってしまった。成長途中であっても難易度はそこそこ。序盤からそれほど詰まることなく進めることは可能だろう。
なお当然ながら崩壊編に入ってからキャラクター同士の会話量は少なくなる。崩壊編のストーリーは、キャラクター同士のラブロマンス、森村と郷戸のかけひき、そして探索編から引き継いだ謎がの解決といった3本の軸で展開していく。
最後までプレイすれば、この手のものにしては珍しくプレイヤーの視点から謎はほとんど残らない。またエンディングもすっきりとしたかたちで終わる。いわゆる考察の余地はほとんどない。考察好きなプレイヤーにとっては悪しき点かもしれないが、しっかりと完結させた点を筆者は評価したい。

クラウドシンクには能動感があるが……

単に煩わしさを感じた点もある。探索編では「クラウドシンク」というシステムを使って、物語を進めていくことになる。獲得したキーワードを特定の場面で使用することで話が展開する「逆転裁判」シリーズの証拠システムに近いものだ。自分で物語を進めている感触がある一方、キーワードが適切な場面ではない場合では、定型文が表示される。「もしかしてキーワード使うかな?」と試しに押すことが何度もあるため、幾度も同じ文章を読むことになってしまう。特に鞍部十郎の放課後シーンでは、何度もこの場所が登場、絵面の代わり映えのなさも相まって煩わしさを感じた。

クラウドシンク
クラウドシンク。柴くんがお調子ものであることはもう分かった。

結局どんな人におすすめ?

いくつかの問題を挙げたが、はじめに書いた通り非常に質の高い良作である。上述の通り、キャラゲーを求める人、ロボットものが好きで興味を持った人にはあまりおすすめしないが、それ以外の人には一度遊んでみてほしいと思う。細やかな作り込みが作品の大きな魅力だが、このあたりはプレイして感じていただく他ない。冒頭にてキャラゲーとして売り込んでいるのが少しズレているのでは、と書いたが、なるほどレビューを書いてみて、この魅力をキャッチーに伝えることはかなり難しい。また実況プレイなどでもかなり伝わりにくいと思う。実際に自分が操作し、話を進め、戦闘していると非常に心地よく、気づくと数時間プレイしていた……といった種類のゲームである。リメイクではなく、単なる移植のスイッチ版発売に際して公式非公式問わず本作品が取り上げられているのを多く目にする。それはそれだけこのゲームを推している人間が多い証拠でもある。ぜひともこの二度目のブームに乗っかってみてほしいと思う。



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