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ヤーレンズは変化する。【M-1グランプリ2023】

ヤーレンズは、ボケの楢原さん(写真左)とツッコミの出井さん(写真右)によるお笑いコンビで、先日のM-1グランプリで準優勝を果たした実力派である。

彼らがM-1グランプリ2023の最終決戦で魅せた、
「ラーメン屋さん」というネタ。

実は、昨年のM-1グランプリ敗者復活戦でも同じネタを披露していたのは、ご存知だろうか。

このネタの中に、
ラーメン屋の店主(楢原さん)が客(出井さん)にうちの店は食券システムでやっていると伝え、「入口の券売機を使ってくれ」と言いながら足で指す
というくだりがある。

今回は、2022年と2023年におけるこのくだりの変化に注目したい。

以下にそれぞれを文字起こししたものを載せたので、まずは見てほしい。
(というか、tiktokやYouTubeなどで実際の映像を観てほしい。)
#ヤーレンズ 決勝2本目  #ヤーレンズ 敗者復活戦

※楢原さんの「入口の券売機を使ってくれ」というセリフに続く部分である。

出「なんで足でやんの
楢「入口の券売機を使っておくれ〜(2回目)クルッ  
  クル〜

出「あれちょっと。これ券売機お金いれるところな  
  いけどどうしたらいいの」
楢「あ、ここはあのボタン押して、券を出して、そ   
  の券あとでレジにもってきて、精算するシステ   
  ム」
出「なんだそのシステム

M-1グランプリ2022・敗者復活戦

出「なんで足でやんの
楢「すいません手がふさがってるんで〜」
出「ふさいでんだろあんたが
楢「すいませんね〜。あ券売機お金いれるところな
  いですよ〜」
出「えどういうこと!券売機お金いれるところな
  いの?」
楢「はい〜」
出「どういうシステム?」
楢「うちあのボタン押して、券を出して、その券あ
  とでレジで持ってきて、精算するシステム」
出「なんだそのシステム

M-1グランプリ2023・最終決戦

ここでは、各セリフのうち笑いが起きたものを、太文字にした。
そこから見えるのは、どんな変化か。まず単純に、笑いの数が1つ増えている。2023年には、

「えどういうこと!」

が新しく追加されている。
というより、正しくは「ツッコミ」と「ボケ」のセリフが入れ替わっている。

2022年の段階では、「券売機にお金を入れるところはない」という事実を観客に伝えるのは、出井さんの役目だった。
それに対し2023年版のネタでは、楢原さんがその役目を担っている。
「ツッコミ」のセリフが「ボケ」のセリフになったのだ。


総じて「ツッコミ」は常人であり、ボケに対するツッコミでない限り、いわゆる”普通”の表現をする。

しかし「ボケ」の場合、そのキャラクターを観客が理解した時点で、その人物の発言には”面白さ”が含まれることになる。

今回のくだりの中で、2022年バージョンにおける
「ボタン押して、券を出して、、」という特殊な券売機の説明は、単に「何だそのシステム」のためのフリである。
観客は、お金をいれるところがないという事実を知った上で「なんだそのシステム」のツッコミを今か今かと待っている状態だった。

一方2023年バージョンでは、お金をいれるところがないと「ボケ」が言ったことで、観客は笑い、笑いながら券売機の説明を聞き、「なんだそのシステム」で再び爆笑する。

つまり、
もともとはフリでしかない部分を「ボケ」のセリフに変え、笑いを1つ増やすことに成功した。
さらに、
笑っている間に次のツッコミが訪れたことで、観客は笑いと笑いの間隔が途切れていないように感じた。

ここに、ヤーレンズの真骨頂が見えるのだ。

審査員の講評でもずっとニヤニヤしていたと言われるほど、2023年のヤーレンズは笑いの間が細かった。

もちろんすべての漫才師が笑いの間を短くすればいいわけではないし、フリが長いほど起きる爆発が大きくなることもある。

しかしこの、「ヤーレンズが披露する『ラーメン屋さん』」の場合、店主が暴れ、客が振り回されれば振り回されるほど、面白くなる傾向にあった。
だからこのネタは、
客が自分で特殊な券売機だと気づくパターンよりも、店主が当たり前のようにお金を入れられないことを告げるほうが面白くなったのだ。

たったそれだけの変化が、単純に笑いの数を増やすだけでなく、私たちを常にニヤニヤさせる効果を生み出した。

同じセリフなのに、まったく違う意味を創り上げる。

漫才師・ヤーレンズは、そんな小さな意識で私たちに無意識な爆笑をもたらしていたらしい。

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