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【全くその必然性のない我が家の息子が、寮制中学に入った話】1『小さなお家』


私は息子に家も資産も
残してあげられそうもないから
だったら彼の心の中に
小さな家を建てようと思った。

嵐の時には避難できて
ポカポカ陽気の日には
友達とBBQできるような
小さな家を。

だから
その家づくりを
手伝ってくれそうな学校に
行かせたいと思って
探し始めた。

探し始めて程なくして
それは意外な場所で見つかった。

名前も聞いたことない
その小さな中学校は
山のてっぺんに
畑に囲まれて建っていた。

「親からはぐれちゃったみたいだから、池に戻してあげないと〜」ってカルガモのひなを両手に持って出勤してくる院長先生とか

「東京なんか素通りです。ここから直接、世界に出て行くんですよ!」って豪語しちゃうちょっとイっちゃってる校長先生とか

「子どもたちのことをこんなに愛して世話してくれる先生たちの力になりたいんですよ。だから親がやれるところは親がやらないとね」って缶ビール片手に語る保護者会の役員父さんとか

自分の職場が好きすぎて、プロポーズもまだの彼女を「ウチの子たち面白いでしょ」って文化祭に連れてきちゃう若い先生とか

「学校を脱走するの失敗したのは、畑に隠れないで駅まで歩いちゃったからなんですよね〜」と20年近く前の失敗を、次回に生かそうと振り返る、三十路の好青年とか

イベント時に、ちょっと不足したものがあると気が付いた途端、誰に言われなくともダッシュでそれを探して取ってきて、全員に配り出す高校生とか

理科部が解剖しているサメに顔が似てると言われて喜んで、わざと同じ表情を作って写真に収まる中学生とか

畑の真ん中の小さな学校には
そんな人たちが結びついていた。

ここで過ごしたら一体、
どんな家が息子の心の中に
建つんだろう?

そう思ったらもう
色々な迷いはふっ飛んで

この小さな学校に
息子の「小さなお家建築プロジェクト」をお手伝いしてもらおうと
心が決まった。

納期通り届かない資材とか
設計ミスとか
地下から遺構が見つかって
調査に時間がかるとか
予測不能なトラブルが
いっぱい起こるんだろうけど

一体、どんな家が建つのかな。
今から楽しみだ。

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