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人を撮る

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人を撮ること、それについて思うこと
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#エッセイ

ひとつ先へと、踏み出すとき 〜出張撮影カメラマンのつれづれ〜

写真というのは、ジャンルの幅が広い。カメラを持っているから撮れる、これが撮れるならこれも撮れる、というものでもなく…それぞれに必要な知識も機材も、違ったりする訳で。 自分の仕事でいえば、七五三を撮れるからウェディングも撮れるというものでもなく。お宮参りが撮れるからといって、ニューボーンフォトも撮れまーす!とはならない。 必要な機材や小道具、気を配るポイントや求められるカットがそれぞれ違ってくるので。初めて仕事として依頼を受けてからの、この10年の中で。少しずつ経験を積み重

見慣れない景色が見たい、そんな時は

いつものことを、いつもじゃなく、やる。 それは日常という見慣れた色彩に、異なる彩りを添える行為である… 単焦点レンズ、とは 単焦点レンズというのは、カメラに詳しくない人に向けて乱暴に一言でまとめてしまえば「ズームはきかないけれど、背景がしっかりぼかせるレンズ」のことだ。大抵のカメラ趣味の人間が、写真という沼にハマり始めた頃に一度は手を出すレンズである。 ズームがきかないということは。もう少しアップにしたいとか背景を入れたいとか思ったとしても、カメラではその操作ができない。

お天気と神社の不思議な関係

#私の不思議体験 といえば、雨が降らないことだろうか。正確に言うならば、「リスケも出来ない屋根もない、降るとキャンセルになる…そういう撮影案件では、どんな予報が出ていようがなぜか降られない(※ただし神社での撮影に限る)」だ。 これまでお宮参りや七五三などで、もう100件以上は神社で撮影している。確率的には、1度くらい雨でキャンセルになってもおかしくはない筈だ。しかし帰省日や着付けなどの関係で日程変更のできない方の場合、どれだけ事前に雨予報が出ていても不思議と降られない。

山の静寂と、子供の鮮やかさと

出張撮影をしていて「役得だなぁ」と思うことのひとつが、知らない神社に足を運べることだ。邇保姫神社も糸碕神社も速谷神社も遠石八幡宮も、それなりの規模の神社だけれど。もしも仕事がなければ訪れることはなかっただろうし、何なら速谷神社以外は依頼が来るまで名前も知らなかった。 京都や奈良のような歴史が観光に繋がる街ならいざ知らず。"超有名スポットではないが、地域では知られた神社"というのは、神社巡りを趣味にでもしていなければ知ることも行くこともなかなか無い。だから依頼メールに聞いたこ

人の言葉は、自分をみつける道標

時に人からの言葉というものは、自分では気がついていなかった己の姿を見せてくれることがある。 ここ1〜2年で知ったのだけれども、どうやら自分は人当たりが良い方らしいのだ。まったく自覚はなかったのだが、人から評されることでその特性は浮かび上がってきた。 * * * * * 普段は写真の出張撮影、という仕事をしているのだけれど…自前のホームページではなく登録制のマッチングサイトから申し込まれた場合、お客様が"口コミを書いて評価する"というシステムがある。昨年このサイトに登録し

写真を撮る時の、あれやこれや

この夏の終わりに、ウェディングのロケーションフォトを撮らせていただく機会があった。 普段は子供さんや赤ちゃんのいるご家族からのご依頼が多いので、いつもとは違う撮影にちょっぴり緊張したけれど…いつもとは違うからこそ、新鮮で楽しかった。 ただし普段撮らないということは引き出しがない、ネタのストックがないということなので予習は必須。 Google先生に「ウェディング ロケーションフォト」と質問して、大量の画像を呼び出してもらってひたすら写真を眺める…というのが主な下準備だ。そ

心を揺るがす、ちまっこさ 4

泣く、眠る…そんな赤子の生存本能に負けた大人達。 1時間の撮影もほぼ終わりに近づき、「しょうがないから撮れる物を撮ろう」という空気になりつつあった。 コントロールできないものは、もうしょうがない。 というわけで、眠るままにあれやこれやと好きにされる赤ちゃん。 しかし、お父さんが大好きなカービィを大量に並べ始めたところ… そこでパチリと目が開くという奇跡が!! 今だ!この時を逃してはならぬ!! 皆の心がひとつになり、再び高速で始まるとっかえひっかえ。 お父さんお母さんの

心を揺るがす、ちまっこさ 3

撮影時間のほとんどが、泣いてばかり寝てばかりの赤ちゃん… そんな姿もかわいらしいけれど、どうにか起きてる写真を撮りたい大人達。 とはいえ、人生経験18日にあまり無茶ぶりをするわけにも行かず… 「とりあえず、今撮れるものを撮りましょう!」とご提案してみることに。例えば赤ちゃん写真では定番の、サイズ感の違いがわかるような写真。 小さな赤ちゃんは幼児と違って動きも少なく、表情の変化も乏しくて…あかちゃんだけを撮影していると、単調な写真になりがちなもの。 こんな風に大人に

心を揺るがす、ちまっこさ 2

今回撮らせていただいたお子さんは、なんと生後18日。 この世に出てきて、まだ1ヶ月も経っていないというホヤホヤちゃん。 もう何もかもが小さくて「人間、始めました」というスタートラインに立ったばかりなので、まだ何もかもに慣れていない。目もよく見えないはずなので、それまで寄り添っていた温かな身体が突然なくなると不安になるのだろう…床に置かれると全身で不満を表明してくる。 そして泣く。小さいなりに、精一杯の抗議をしてくる。 気持ちはよくわかる。 あったかくて柔らかくて気持ちの

心を揺るがす、ちまっこさ 1

近年、増えてきた撮影に「ニューボーンフォト」というものがある。 生まれたばかりの小さな小さな新生児の頃を写真に残しておきましょう、というものだ。 しかし画像検索をして出てくるのは、小道具にこだわったものや合成だろうと思われるポーズのものがほとんどで…自分のスタイルとは合わない気がして、撮影メニューとして積極的に押し出してはいなかった。 とはいえ、全く撮影したことがない訳ではない。 ただ基本的には、自分の撮影だと自然体でのスナップが中心となるので… ああいう検索結果を見

心をとろかす魔法の言葉

「家族全員みきさんのポートフォリオを見て、この方に是非お願いしたい、と思っていたので嬉しいです!」 不安と気後れを溶かして前向きな気持ちにさせてくれたのはお客様からのメッセージにあった、この一言だった。 出張撮影カメラマンなんてものをやっているけれど、結婚式当日の撮影は基本的には受けていない。ウェディングフォトは式場や段取りに対する経験と、機材が物を言うと思っているからだ。 自分の場合は、それらが明らかに足りていない。 だからリハーサル時の前撮りや、式を行

語りかけてくる手を見つめて

昔から、手の写真というのが割合に好きだ。 そのせいか、先日撮影に行かせていただいた結婚式でも…無意識に手元の写真をあれこれ撮っていたことに、現像しながら気がついた。 ブーケを支え持つ新婦の、わずかな緊張を湛えた薄いレースの手袋に包まれる手。 ピアノ演奏の出番を待つ新郎のお父様の手は、膝の上でそっと握り締められていた。 いざ鍵盤を鳴らし始めてからの、思いを込めて音を紡いでいく指先の確かさは先ほどの手とは別人だ。 それに合わせて唱和する参列者の手は、歌詞の載った式次第を

動きのある写真、動きのない写真

この秋は、ひたすら写真と向き合っている。精神的な意味合いではなく、物理的な意味で。 七五三で撮影が立て続けに入っているおかげで、写真整理と現像でとにかくずっと写真を眺め続けているのだ。 子供ってジッとしていないし、大人だって集合写真の時には瞬きしたり視線を逸らしたりするものだ。だから確実な仕事をしようと思うと連写は必須…という訳で、1時間の撮影で500枚は撮っている。下手したら1000枚近い枚数になることもある。 これを納品用に80枚前後という数へと絞り込まねばならない

大人が写真を撮るとき その4

「大人が写真を撮るとき」シリーズとして掲載している、今回のこの宮島フォトツアー。お祖母様の米寿のお祝いということ以外にも、もうひとつリクエストがあった。 それが「年をとってしまった愛犬を、今のうちにたっぷり撮影して欲しい」というもので。 正直これは心に響いた。自分も犬を飼っている身としては、いつか来るその日は他人事ではない。「それはもう、沢山撮りましょうね!」とはりきって応え、心の中でコブシをグッと握りしめた。 移動の合間に、人と同じようにパチパチと撮影していく。この子