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鬼様のブランチ 「仔羊のハーブ焼きを絶滅させる女」

今回の鬼ブラ!
・幸せの形のひとつ、ホテルビュッフェに再挑戦。

前回の鬼ブラ!
・幸せになりたい。その姿がわからないから、尾をつかむのが難しい

去年のビュッフェ
・麒麟児、初めてのビュッフェ。フライドチキンとしゅうまいを絶滅させた。

1年半ぶりに


沙羅

ね~っ、前のホテルのビュッフェにまた行かないか? とても楽しかったから。

此紀

いいけど、同じところでいいの? ちょっと足を延ばせば、きらびやかなところが色々あるわよ。

沙羅

あれからイメトレをしたから、もう一度同じところに行きたい。
それであの、料金のことなのだが、昼に行くとお得なのだ。プランがいくつかあって、えーと、今スマホで料金表を出す。

此紀

…………。

此紀

私が会計を持ちましょう。

沙羅

ええっ? そんな、なぜ?
あのう、私も金がないわけではないのだ。でもどうせならば、お安いほうがいいかと思って……。

此紀

友達同士ならお得なプランを利用するのも楽しいでしょうけど、私たちは違うじゃない。

沙羅

ガーン………。

此紀

いや、友達ではないという意味じゃなくて。
デートだと思ったほうが楽しくない? そしてデートの場合、ワンチャン狙ってる側が勘定を持つのが正式だと思ってるのよ、あたしは。

沙羅

デートよりも友達と食事をするほうが楽しいと思うが……。
そして、何のチャンスを狙っているんだ。冗談なのだろうが、ドキッとしてしまうな。


土曜日昼 ホテルレストラン


沙羅

いろいろ見に行ったのだが、ゆったりめのパンツスーツにしてみた。

此紀

「美容関係の若手実業家」っぽくて似合ってる。
さて、窓際の席に案内してもらえてよかったわね。

沙羅

うんうん、昼だと明るくて気持ちがいいな。
ちょっと見ただけでも、前回とはけっこうメニューが違う。季節のものも多いのか。うきうきする……。

此紀

なにか飲むでしょ? スクリュードライバーにする? ピンクレディもあるわよ。

沙羅

なぜレディキラーカクテルばかり勧めてくるんだ。
私はグラスワインを。それで、やはり自分の分は自分で払う。そのほうが注文しやすいし。

此紀

はいよ。では、あたしはビールでも飲むか。


1巡目


沙羅

・シーザーサラダ
・スモークサーモンとオリーブのマリネ
・金華ハムのゼリー寄せ
・鴨と秋野菜のテリーヌ
・うにのフラン
・かぼちゃのポタージュスープ
・グラスワイン白

此紀

・リーフサラダ
・帆立と海老の香草グリル
・チーズ3種
・グラスビール

沙羅

また私ばかりたくさん取っている……。
いただきます。

此紀

いただきます。トマトが甘くておいしいわね。
そういえば、メインのコーナーに羊があったわよ。好きでしょう。

沙羅

見た、仔羊のハーブ焼きだろう。

うぅん………私は「仔羊」や「仔牛」という表記を見ると、いつも「動物の……子どもか……」という気持ちになってしまう。

此紀

人偏にんべん付けるのは、里のもん的にもどうなのかしらね? 「幼子感」を強調しているわよね。

沙羅

子供を食べるのはどうだとか言い出したら、卵はすべてそうだし、バロット(孵化直前のアヒルの卵の料理)も……それこそ、前に話したシラスもそうなのだが。
ラムと言ってもらえたら麻痺するのだが、「仔羊」は少し抵抗がある。

此紀

親を食べる方が罪が軽い、ということもないと思うけどね。

真偽のほどはわからないんだけど、「和牛」と「国産牛」の違いは、最初から食肉用として育てられたのが和牛、乳の出なくなった乳牛とかを回したのが国産牛、と聞いたことがあるわ。

老鶏とかもそうだけど、「卵や母乳をさんざん取って、それが終わったら肉まで」と考えると、すっごい全部搾るわよね。

沙羅

うぅん……色々と思うところはあるのだが……。
美食のためにおしゃれをしてきた私の語ることではないのだろう。

此紀

「食材となった命に感謝していただく」っていう落とし所も、全然落ちてないというか、自分のことしか救う気がないなとあたしは思うのよ。

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