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嗚呼、カンザスシティの音がする

ぼくがなまいきざかりの大学生だったころ、ジャズの帝王マイルス・デイビスの自伝の日本語版が出た。よく本屋で熟読したものだが、印象的なくだりがいくつかある。

マイルスはミズーリ州セントルイス出身である。その彼が「自分のトランペットはセントルイスの音がする」と書いてある。

ちなみにモダンジャズの創始者はチャーリー・パーカーという人で、セントルイスの隣町のカンザスシティ出身だ。クリント・イーストウッド監督の『バード』という映画の主人公として描かれている。

自伝の中でマイルスは「パーカーはカンザスシティの音がする」と書いてるわけ。ウソこけ。たしかに、西海岸ジャズと東海岸ジャズってのはちがう。ニューヨークとロサンゼルスの空気がちがうように音楽も違うわけだ。

しかし、ぼくはカンザスシティ近郊に3年ほど留学していたので土地勘はあるのだが、カンザスシティからセントルイスまで車で3時間しかはなれていない。3時間で音が変わるわけないだろ・・などと思うわけです。

ちなみにプリンスはミネアポリス出身なんだけど、マイルスは「プリンスはミネアポリスの音がする」とまで書いてあるわけ。ウソこけ。。。いやほんとかなあ・・・かりにも帝王と呼ばれた男だし、ぼくとは耳が違うのかもしれない。。。などと思いつつも、たしかめようもなく日々は過ぎていった。

ちなみにぼくが一番好きなミュージシャンはパット・メセニー。白人のギタリストである。どのアルバムも好きだがどマイベストは『シークレット・ストーリー』。

かつてウッチャンナンチャンの内村光良さんがバラエティ番組の企画でマラソンや遠泳に挑戦していた頃、くじけそうになると「ロッキーのテーマ」をかけて最後の力をふり絞るというシーンがあった。わかいころよほどロッキーに感動したのだろう。

ぼくのとっての『シークレット・ストーリー』は内村さんの「ロッキーのテーマ」みたいななアルバムだ。仕事で夜明けまで寝られないけどもうアタマが働かないという最後の最後で聞く。


この「Above the Treetop」の静かなオープニングから2曲目の「Facing West」で一気に脳が覚醒し、ラストスパートをかける。かつては耳タコくらい聞いていたが、いまはふだんなるべく聞かないようにしている。

90年代からパットは好きだった。カンザスシティにいたころもすきだったし向こうでCDも買った。帰ってきてからもずーっと好きである。しかし、帰ってきてからは、なんだか聞こえ方が違うのだ。

それまでは「どーせカリフォルニアのコジャレた街の出身だろう」と勝手に思い込んでいたんだけど、帰国してからパットの音を聞くと中西部の大平原がフラッシュバックする。ギターの音がピーン・・と渇いて消えていく感じがロスというより中西部なのである。

まさかカンザスシティってことはないだろうけどもしかすると・・いやたぶんミズーリかオクラホマかアーカンソーか、あのあたりの出身なのだろうなあと次第に確信するようになった。

今ならWikipediaで調べればわけはないが当時はそんなものはない。しかし調べるのが怖かったというのもある。もし万が一カンザスシティ出身だった場合、プレスリーのファンがメンフィスで3年暮らしながら一度もグレイスランドに行ってないのと同レベルの失態をさらすことになる。

ちなみにぼくはプレスリーにはなんの思い入れもないが、バスに12時間ゆられて彼の墓を見に行ったことはあるのだ。それにしてもの『シークレット・ストーリー』の犬が跳びあがっているジャケットの後ろの一本道もカリフォルニアにしては貧乏くさい。イヤだな・・

だんだん気になってきて思い切ってWikipediaで調べたのが何年前だったろうか。

パット・メセニー(Pat Metheny、1954年8月12日 - )[1]は、アメリカ人ジャズ・ギタリストでパット・メセニー・グループのリーダーである。ミズーリ州リーズ・サミット出身

リーズ・サミットというのは実質カンザスシティだ・・。ロイヤルズの本拠地カウフマンスタジアムのすぐ向こう側である・・・なんてこったいと今だにおもう。マイルスにしてやられた。パット・メセニーはカンザスシティの音がする。

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