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『カービーの夜明け』 リヴァプール 23/24 アカデミー総括

割引あり

こんにちは、ゆーりです。( @nana_ynwa1892 )

一昨日は

『「ローン移籍の功罪」
リヴァプール 23/24 ローン組通信簿』

をお読みいただき誠に有り難うございました。

https://note.com/yuriynwa/n/n14f1feeef768?sub_rt=share_pw

また全文無料にも関わらず、記事の購入やサポートしていただいた方々にも心よりお礼申し上げます。


本作はシリーズ三部作の2本目

『「カービーの夜明け」
リヴァプール 23/24 アカデミー総括』

となります。

今季のU18とU21におけるシーズン総括を11の項目に分けて纏めました。
最後まで目を通していただけると幸いです。



また『リヴァプールアカデミー・プロスペクトランキングTOP60』・『ユルゲン・クロップに花束を。アカデミー改革が齎した最後のタイトル。』も引き続き宜しければ是非。

今後の参考になれば幸いです。

本記事は全文無料での公開となります。
御一読、拡散、ご寄付をお待ちしてます。


また三部作シリーズの3本目となる次作は

『24/25 スカッド構想 ~トップチームからU16まで~』

となります。現在絶賛執筆中です。乞うご期待。

では、本文に入ります。
最後まで目を通していただけると幸いです。

ユース世代に関するnoteを不定期で掲載する予定です。
多くの方々に届く様、拡散して戴けると幸いです。


基本的には無料での記事掲載を考えています。

本記事が気に入った方は寄付という形でnoteのサポート機能、又は以下のリンクからお気持ちを送っていただけると有り難いです。https://querie.me/user/nana_ynwa1892






(1) ウェンブリーでの一夜



アカデミーの若者たちがウェンブリーで舞台で躍動し、クラブに数々の栄光をもたらした指揮官クロップ最後のタイトル獲得に大きく貢献。

まるで夢のような出来過ぎな出来事だった。
決して評価の高くないリヴァプールアカデミーを追い掛けてこのような日が待っているとは夢にも思わなかった。

あの日、ピッチを踏んだアカデミー卒業生は…

キーヴィーン・ケレハー (16)
カーティス・ジョーンズ (9)
ハーヴェイ・エリオット (16)
ジャレル・クオンザー (5)
コナー・ブラッドリー (16)
ボビー・クラーク (16)
ジェームズ・マコネル (15)
ジェイデン・ダンズ (8)

さらにベンチには以下の2名が入っていた。

ルイス・クーマス (11)
トレイ・ナイオニ (16)

名前の右側に記載したのは各選手がリヴァプールアカデミーに加入した年齢。幼少期からクラブで育った生え抜きも居れば、16歳前後で獲得に至った選手も多い。

これこそが近年のリクルートメントの大成功を表している。

カラバオカップ決勝戦、そしてリヴァプールのアカデミー改革に関しては先日のnoteでたっぷりと書き綴ったので、詳細はこちらをお読み下さい。




(2) 個表


※ A ~ Eの5段階評価とひとことコメント。
※ 公式戦3試合以上に出場した選手限定。
※ U18とU21の両リーグで出場している選手は出場試合数の多いカテゴリーでカウントしています。

【 MVP (U18) 】
🥇 トレイ・ナイオニ
🥈 キーラン・モリソン
🥉 コーネル・ミスキウル

【 MVP (U21) 】
🥇 ルイス・クーマス
🥈 ボビー・クラーク
🥉 アマラ・ナロ

【 MIP -Most Impressive Player- 】
🥇 ジェイデン・ダンズ
🥈 ジェームズ・マコネル
🥉 ファビアン・ムロジェク

【 影のMVP 】
🥇 ルーカス・ピット
🥈 ジョシュ・デヴィッドソン
🥉 カイル・ケリー

【 全選手採点 (U18) 】

GK

コーネル・ミスキウル
A : アリソンの後継者になりましょう。
ネイサン・モラナ
E : 来季はリベンジの年に。


DF

ウェリティー・ラッキー
C : 怪我を減らせばトップリーグは近い。
ルイス・エナホロ=マーカス
D : 来季はU18のディフェンスリーダーに。
ルカ・ファーネル=ギル
C : 試合中に相手を殴らないこと。
ルーカス・ピット
B : スケールの大きいUTを目指そう。
ネイサン・ギブリン
D : 新天地で頑張れ。
フランシス・ジマー
C : 同上。退団は意外だった。
ハリー・エヴァーズ
D : もう少し頑張らないとLSB人材に困る。
エマニュエル・アイロボマ (エアオボマ)
C : RSBコンバート1年目にしては上出来。

MF

マイケル・ラッフィー
B : モートンやマコネル枠の候補。
コディ・ペニントン
B : 新天地で頑張れ〜。
カイル・ケリー
B : 偽SBを完遂したの本当に偉い。
キーラン・モリソン
A : 来季はU21で主役になりましょう。
フォラ・オナヌガ
B : 来季のU18主役候補。怪我せず健康に。
トレイ・ナイオニ
A  : スーパー。
ラネル・ヤング
D : とにかく健康に。コンディションを戻そう。
カリーム・アーメド
C : 身体の成長待ち。
ベン・トゥルーマン
B : 前半戦の成長速度は素晴らしかった。

FW 

トレント・コネ=ドハーティ
B : 順調な成長曲線。課題の解決次第。
ジェイデン・ダンズ
A : ハリー・ケインになりましょう。
ケイロル・フィゲロア
D : 才能が惜しいので長くピッチに立とう。


【 全選手採点 (U21) 】

GK

ファビアン・ムロジェク
A : もうアカデミーでやることは何も無い。

DF

カラム・スカンロン
B : 健康を保とう。トップリーグ初挑戦頑張れ。
テレンス・マイルズ
B : フル稼働の頼れるキャプテン。
アマラ・ナロ
A : スーパー。
カーター・ピニントン
A : 順調なので焦らず課題解決を。
ナイル・オズボーン
D : 新天地で頑張れ。


MF

ジェームズ・マコネル
A : 期待以上。来季はローン先で頑張れ。
ボビー・クラーク
A : スーパー。
トム・ヒル
B : 大怪我からピッチによく戻って来た。
トミー・ピリング
C : U18時代とは見違える程の成長に驚き。
メルカム・フラウエンドルフ
C : 母国の地で才能を開花出来ますように。


FW
マテウシュ・ムシアロウスキ
B : ダイヤの原石。ずっと応援してます。
ルイス・クーマス
A : スーパー。
ケイド・ゴードン
A : 終盤戦の状態なら再びトップを目指せる。
ハーヴェイ・ブレア
D : リベンジの年にしましょう。



(3) 新システムへの取り組み


今季のリヴァプールU18が導入したプレーモデルはトップチームと同様に4-3-3 ⇄ 3-2-2-3の可変システム。昨夏のプレシーズンから様々な試行錯誤を繰り返しながら例年以上に難易度の高いチャレンジに挑んだ。

本システムの鍵となるインバート型SBの役割を主に担ったのはジョシュ・デヴィッドソンとカイル・ケリーの2人。両者ともに中盤が本職の選手であり、比較的スムーズに自身の役割を理解し、実際にゲームで実行していたのは賞賛に値する。

特に前者のデヴィッドソンは体格面で少し劣るものの、高い戦術理解度と足元の技術、無尽蔵のスタミナ、チームのために直向きに走り続けられる優秀な若者だ。直近3年間はRSBでのプレー機会が多かったものの、シーズン終盤戦のU21では本格的な中盤コンバートを行っており、来季以降も主戦場はピッチの中央になると見られる。

またシーズン後半戦では16歳のDJエスデイルもこの役割に挑戦。昨夏15歳ながらU18帯同を果たしたDJエスデイルではあるが、不慣れな役割に若干苦戦する場面も見られた。それだけに前述2名の優秀な立ち回りが目を引いた。

また上記の可変システムをアカデミーに落とし込む際にチームとしてはネガトラ整備にかなり苦労した印象を受ける。発展途上の若者が集うアカデミーでは身体面の成長も様々。またU16組からの飛び級を果たす若者も多く、強度不足で守備が決壊する試合も少なくなかった。まぁトップチームも酷いネガトラを度々疲労していたので、アカデミーが時折決壊してしまうのも必然だろう。

一方でU21のチーム事情は少し異なる。一部を除き毎日同じメンバーでトレーニングを積めるU18とは大きく異なり、U21に在籍する選手の1週間は様々。トップチームの練習に帯同し、週末だけU21でプレータイムを積む者、バイチェティッチやゴードンのように長期離脱明けの者、ローン先で満足なプレータイムを与えられずコンディションを落とした状態で合流する者、選手兼コーチとして在籍する者。またプレータイムを積むためにトップチームの選手が試合に出場することも少なくない。

このような状況下で細かいチーム戦術を落とし込むのは無理があるだろう。来季以降U21の試合を観戦する際はチームとしての拙さには多少目を瞑り、より個人にフォーカスした観点で試合に目を向けると面白いかもしれない。

何れにせよ毎年、トップチームと同じアイデンティティとプレーモデルを導入し、18歳以下の若者向けに上手く微調整して落とし込むマーク・ブリッジ=ウィルキンソンは素晴らしい指導者だ。
今季数多くのアカデミーっ子が大きな苦労を経験せずにトップチームへと移行出来た背景にはこのような取り組みが隠されている。




(4) 強度で殴り切ったアーセナル戦の大勝

2024年1月20日。FAユースカップ。

リヴァプールU18 7-1 アーセナルU18

ルイス・クーマス 3G1A
トレント・コネ=ドハティ 2G
ジェイデン・ダンズ  2G1A
トレイ・ナイオニ 1A

イーサン・ヌワネリ、マイルズ・ルイス=スケリー、チド・オビ=マーティンを擁するアーセナルU18相手に7-1のゴールラッシュ。

この大勝こそが今季のU18のハイライト。
アカデミー改革が生み出した成果である。

特筆すべきはナイオニのボールダッシュからショートカウンターを繰り出し、クーマスがミドルショットを沈めた2点目。劣勢の時間が続く状況で高い強度を持ったプレスで盤面を一転させることに成功した。

この一戦はその後も高い強度でアーセナルを圧倒し続け、素晴らしいゴラッソ祭りで幕を閉じた。

リヴァプールアカデミーは改革の一環として数年に渡って高い強度のスタイルを志向してきた。当初は怪我人が相次ぎ、膝の大怪我によって長い期間ピッチを離れざるを得ない若者も出てしまったが、間違いなく必要な取り組みだった。

以前のアカデミー卒業生は仮に止める蹴るが上手かったり、一芸があったりしても、フィジカル水準やアスリート水準がプレミアリーグの舞台に立つには程遠い者が少なくなかった。数多くの有望株がトップチーム昇格はおろか、プレミアリーグの舞台にも辿り着けなかった要因はここにある。何よりも大前提はこの部分だ。

一方で最近のアカデミーっ子は身体的な能力や強度で後手を踏む機会は減っていると言えるだろう。強度改革はアカデミー組の躍進には欠かせない要素となっている。



(5) チームカラー


毎年アカデミーを、特にU18を通年で追い続ける中で好きな点の一つとして年毎に異なるチームカラーが見られることだ。

同じシステムで育成するアカデミーでも所属する選手とその世代が経験した境遇により、色は全く異なるものになる。

クオンザー、ブラッドリー、モートンらが在籍し、FAユースカップ準優勝に輝いた20/21のU18は真面目なチーム。主力組の怪我人が相次ぎ、決して華やかな組織では無かったが、全員がチームの為にハードワークすることを怠らず、強固な守備陣とバラギジ、ムシアロウスキの個でトーナメントを勝ち上がっていった。

21/22は観ていて楽しかったアタッキングフットボール、22/23は主力に怪我人を多く抱え、若い世代を多く起用せざるを得ない苦しい時間を耐え忍んだシーズンという印象である。前者はバイチェティッチやクラークが中盤を形成しオークリーとムシアロウスキが攻撃を牽引。後者はトップチームの崩壊による影響をアカデミーも強く受けてしまった。

そして今季のU18は過去最高のタレント軍団であった。各ポジションに将来を嘱望させる才能を揃え、最後尾から前線までこれ程までにタレントが揃った世代は記憶に無い。一方でシーズン当初は纏まりの無い個性派集団というのも一面もあった。

しかしキャプテンのデヴィッドソンを中心にチームはユースカップを勝ち進む中で熟練され、個人でなくチームとして戦える集団へと化けていった。またエースストライカーのクーマスが誰よりもチームのために足を動かし、汗をかける選手というのも大きかっただろう。最終的にはユースカップ準決勝がカラバオカップ決勝直後に開催されたため、満足なメンバーを揃えられず不本意な形で大会を去ることになってしまったが、今季のU18は久々にきちんとチームに仕上がったと言えるだろう。チームカラーは個々人のその後のキャリアにも大きな影響を与えることもあり、数年単位でアカデミーを追い掛けると異なる視点でも楽しむことが出来るのでオススメだ。




(6) ストライカー育成


ロビー・ファウラーとマイケル・オーウェン。

稀代の点取り屋を輩出した実績を持つリヴァプールアカデミー。

リヴァプールの歴史、リヴァプールアカデミーの歴史とは名だたるストライカーが築き上げた栄光と言っても過言では無いだろう。地元出身の生え抜きストライカーがアンフィールドを熱狂させる瞬間を待ち侘びているクラブなのだ。

しかし近年のストライカーは苦難の連続。

ポール・グラツェル。
ボビー・ダンカン。
ブリュースター。
レイトン・スチュワート。
オークリー・キャノニア。

U18年代で圧倒的な成績を残し、リヴァプールのトップチームで活躍する姿を想起させた若手ストライカーの数は少なくない。他所のアカデミーと比較してもU18のストライカー人材には恵まれてきた方だろう。

しかし上記の若者は厚い扉に跳ね返させ続けてきた。グラツェルとスチュワートは膝の大怪我に苦しみ、オークリーも度重なる怪我で近年は行方不明。ダンカンは代理人の甘い言葉でキャリア選択を間違え、奇跡的な取引でクラブに大金を残したブリュースターはプレミアリーグで泣かず飛ばず。輝かしい未来が待っていると考えられた彼らでさえ誰も大成功のルート、トップチームへの階段を駆け上がることは出来なかった。

しかし今季ようやくこの厚い扉を開けようとする2人の若者が現れた。

何を隠そう、ルイス・クーマスとジェイデン・ダンズだ。

クーマスはU21のエースストライカーとして開幕から1年間を走り抜けた。元々はOMが本職だったことに由来する足元の技術と非凡なフィニッシュ能力、適切なスペースを見つけて良いタイミングで侵入出来るセンスの良さ。そして今季は攻守両面で力強さが付いてきた。

90分間足を止めず強度が落ちない勇猛果敢なプレス。ボールが届くまで何度も繰り返し続けるオフザボール。決して1つのプレーでは終わらない連続性こそがグーマスの真骨頂。

シーズン終了後、ウェールズ代表に選出されたのも必然の結果。クーマスがトップリーグで活躍出来ない姿は全く想像出来ない。


そして今季最も大きな成長を遂げたジェイデン・ダンズ。

思い返せば2022年の前半戦はU16が主戦場の選手だった。オスグッド症候群で長くピッチを離れたダンズは同世代のアタッカーに後塵を拝し、目立つのは試合終盤のパワーヘッダー要員として投入される時間帯くらい。

しかしそこから約1年半足らずの間に過去に類を見ない成長曲線を描き、一気にトップチームへの道を駆け上がった。

そして以前は彼らより高い評価を受けていたものの、怪我により覚醒の時を未だ迎えることが出来ていないケイロル・フィゲロアも控えている。今季も長い間怪我に苦しみ、リヴァプールでの出場時間は相変わらず伸びなかったが、アメリカ世代別代表では順調にステップアップ中。ホンジュラスの英雄を父に持つ未完の大器はハイシーリングを有している。

また来季のU18ではクーマスと同様にOMから最前線へとコンバート計画を進めているジョシュ・ソニー=ランビー、恐らくCFにも挑戦するであろうジョー・ブラッドショーも控える。

いよいよリヴァプールアカデミー出身のストライカーが大輪の花を咲かせる瞬間を見られるかもしれない…と心待ちにしている。




(7) プロスペクトが揃う06/07世代


私とFFである方々は度々目にするであろうプロスペクト集団の06/07世代に関する話題。本章では彼のスカラーシップ1年目を振り返り、過去の世代と比較してどれだけ優秀な人材が数多く在籍しているのかを再認識する。この世代にはアカデミーを追ってきた中でも最も期待しているかもしれない。

上記が今季スカラーシップ1年目を過ごした06/07世代の11人。

U16時代から高い評価を受けるピニントンやモリソン、アーメドやオナヌガに外部からミスキウル、ナイオニ、ナロの3人を迎え入れ、今シーズンがスタートした。

先ず頭角を表したのはCBのカーター・ピニントン。昨季15歳ながらU18で定期的な出場機会を与えられた長身CBは開幕直後にU21昇格を果たすと、恵まれた上背と優れた最終ラインの統率力、危機察知能力や対人能力に優れ、守備者に必要な要素が大方揃った優秀なCBである。同年齢時の比較ならピニントンはクメティオやクオンザーよりも数歩先に進んでおり、年上世代とのフィジカル勝負にも臆さず、U21でシーズンを完走した今季の稼働率は賞賛に値する。一方、ボールを受ける前のボディアングルの作り方とサポートの位置、出口の選択といったビルドアップ関与の部分には改善の余地が大いに残る。現在のU21では特に改善の兆しが見られないため、ローン移籍の際には個人戦術を仕込める指導者の下でプレーする機会を作りたいところ。またトップリーグ挑戦に向けてはスプリント能力やドリブラーを対面に置いた際のアジリティに関しても向上を求めたい。現在ピニントンは自分自身の課題を自覚し、外部コーチの指導を仰ぎ、オフシーズンにはスプリント練習やランニングフォームの改善に取り組んでいる向上心は非常に大きなプラス材料だろう。

そしてそんなピニントンを一気に追い越し、より高い評価を得たのが昨夏にウェストハムから加入したアマラ・ナロだ。ロンドン育ちの"ローイスロイス"は近年アカデミーに在籍したCB陣の中で、17歳時点での能力も将来のポテンシャルも最も優れたハイフロアでハイシーリングの有望株だ。地上戦、空中戦ともにデュエルに優れ、スピードが武器のドリブラーも苦にしない守備者。今季後半戦のU21では相手のキーマンとのマッチアップを意図的に作り出すためにCBだけでなく、RSBやLSBでも起用されるケースがしばしば。また本来は左利きのナロではあるが、今季後半戦はRCBで起用される試合も多く、コーチ陣は意図的に逆足でのプレー機会を増やした。しかしナロにとっては立ち位置の違いなどナンのその。右足でも逆サイドまで届けられるキックレンジを持ち、出口を見つけると縦にも鋭く刺せる。ナロのプレーを初めて見たものは右利きかと錯覚するほど両足を器用に使えるのも大きな特徴だろう。しかしポジショニングや危機察知には改善の余地があり、時折緩慢な対応を見せたりボールウォッチャーに陥ったりする悪癖はあるものの、上記の課題は経験と共に解決出来るレベル。早くもU21で圧倒的な存在感を発揮し始めたナロは今夏の補強次第ではトップチームで出番を与えられたとしても何ら不思議では無い。強さと上手さを兼ね備えたナロは将来的に先発の座まで狙える素材だ。

そしてそんなナロと同時期にリヴァプール移籍を果たしたトレイ・ナイオニの優秀さに関しては既に言うまでもないだろう。ナイオニの良い点は"サッカーが上手いこと"だ。単騎プレス回避、適切なビジョンと正確なロングフィード、バイタルでのチャンスクリエイト、フィニッシュ能力の高さ、浮いたボールを高確率でミート出来る空間認知能力の高さ、守備時の読みと守備プレスの強度、後方からボールを突けるタックル、ムシアラを想起させるドリブル突破。全局面において自身の能力を発揮出来るナイオニ。一目では凄さが伝わりにくいかもしれないが、ナイオニが良い作用をもたらさなかった試合を思い出す方が難しいほど毎試合高い出来を披露。今季前半戦ダンズがU18を得点量産出来たのもナイオニの存在がかなり大きかったのは間違いない。後半戦はU21ではOMやIHだけでなく低い位置のCHにも挑戦し、時折苦労する場面も見られたものの、シーズン全体を通してポジティブな要素で溢れていた。中盤の選手としては遂に待望のトッププロスペクトが誕生したといったところ。(U18時代のカーティスやエリオットはアタッカーであり、バイチェティッチはCBを務めていた。)また加入時のナイオニに関してさらにポジティブな要素は今シーズンの全てを16歳で過ごしたということも挙げられる。誕生日が6月30日と同世代の中では遅い方であり、実質的に一つ下の世代と変わりないナイオニは身体的な成長も含め、多くの余白を残している。

上記のように高い評価を受ける新加入組のナロとナイオニ。そしてもう1人の新加入組である守護神も彼らに勝らずとも劣らない才能を見せつけた。

コーネル・ミスキウル。

リヴァプールアカデミー史上、最も才能を感じさせるGKと言っても過言では無い。今季のU18を追い掛けた人間なら誰しもがミスキウルの才能を認識しているだろう。高い反射神経と長いリーチを生かしたショットストップ、抜群の安定感を誇る1対1の対応、既に190cm超えの上背による安定したハイボール処理。ミスキウルはアリソンのように、チームの勝利に、勝ち点獲得に直結する活躍が出来るGKだ。主力組が早々にU21昇格を果たした今季後半戦のU18守備陣は決して褒められた出来では無かった。しかしそれでも毎試合決定的なセービングを披露して試合を繋ぎ、勝利を手繰り寄せてきた。もちろん現時点ではビルドアップ関与や中距離のフィード、カバーエリアなど課題が無い訳ではない。しかし圧倒的な存在感と才能を示した今季の1年間を目撃した者は数年後、ミスキウルがアリソンの後釜候補になり得るという意見に同意してくれるだろう。

トレイ・ナイオニ。
アマラ・ナロ。
コーネル・ミスキウル。

2023年夏のリクルートメントも大成功である。

そんなミスキウルと共に今季のU18守備陣を支え続けたルーカス・ピットもスカラーシップ1年目の1人だ。ピットはピニントンとナロの陰に隠れがちではあるが、最終ライン全てを熟せるユーティリティ性能、背後の広大なスペースを管理出来るスピードとカバーリングの上手さなど彼らとは全く異なる特徴を有する優秀な守備者。リヴァプールアカデミーのナチョ・フェルナンデスだ。誇張抜きで後半戦のU18はミスキウルとピットの2人だけでゴールを守っている時期もあった。

加えてファラ・オナヌガの名前も挙げておきたい。昨季U16所属ながらU18で確かなインパクトを残し、今季の開幕直後も大きな存在感を発揮。今季1年間はオナヌガにとって一気に飛躍を迎えるシーズンになるはずだった。しかし筋肉系の怪我により、4ヶ月程度戦線離脱せざるを得ず、復帰はシーズン終盤戦となった。しかし復帰後もコンディションは上々。高いアスリート能力で中盤にダイナミズムをもたらせるBox-to-Box

そして最後に紹介するのが今季U18の中心として大活躍を収めたキーラン・モリソン、現在北アイルランド代表としてEURO-U19に参加中の17歳だ。左利きのカーティス・ジョーンズと呼ばれたり、フィル・フォーデンにも比較されるプレースタイルのモリソンは巧みな足元の技術、対面の逆を取れるドリブル、そしてスペシャルな左利きを併せ持つアタッカー。シーズン後半戦のU18は年下のアタッカー陣を上手く生かしながら孤軍奮闘の活躍でチームを勝利に導いた。同ポジションが飽和していた関係で今季はU18で殆どの時間を過ごすことになったが、本来なら既にU21昇格を果たしていても何ら不思議で無いレベルまで到達しており、来季はU21が主戦場となるはずだ。現在のRWGで継続するのか、はたまた1つ落としてRIHにポジションを移すのか、私は後者を希望しているものの、守備時のポジショニング、スイッチのタイミング、プレス強度、プレスバック、そして球際のバトルと守備面では課題が山積み。オフザボールの改善こそが今後彼がどのレベルの選手にまで到達出来るかを決めるだろう。しかし彼もまた将来トップチームでの活躍を容易に想像出来る若者なのは間違いない。

上記だけでも6名の若者を紹介した。
今までリヴァプールアカデミーを追い掛けてきた中でこれ程までに良い素材が揃った世代は記憶に無い。

私はこの世代に心より期待を寄せている。




(8) 今後が楽しみなU16組


現在トップチームで活躍するアレクサンダー=アーノルドやカーティス・ジョーンズをはじめ、アカデミー年代から将来を嘱望され続ける若手は飛び級で階段を駆け上がることは少なくない。本章では今季U18でプレータイムを積み、来季に向けて大きな期待感を抱かせた次世代のU16組を4人ほど取り上げる。

その4人とは今季U18で最も多くのプレータイムを貰ったジョシュ・ソニー=ランビー、昨夏のプレシーズンで15歳ながらU18に帯同したDJエスデイルとジョー・ブラッドショー、アスリート能力を優れたBox-to-Boxのスコフィールド・ロンメニだ。

この4人の中で私が最も来季の楽しみと考えているのはジョシュア・ソニー=ランビーである。今季はU18で13試合に出場したものの、ゴールは1つのみ。フィジカルで劣る状況でもがき苦しむ時間を長く過ごした。U16以前のソニー=ランビーはOMの選手であり、最前線の周辺を衛星的に動いたり、2列目から良いタイミングで飛び込むことで多くのゴールを記録してきた。足下の技術に優れるだけでなく、オフザボールやスピード面でも非凡な才能があり、身体面も順調に成長中。そこでクラブは最前線へのコンバートを決断した。

そしてリヴァプールアカデミーには2年前にも類似したケースが存在している。その人物とは今季U21で大活躍を収めたルイス・クーマスである。クーマスもまたU16以前は中盤の選手。高いテクニックとセンス、守備面では強度の高いプレッシングによってアダム・ララーナにも例えられていたが、僅か2年間で現在のワイドストライカーの姿へと成長を遂げた。ソニー=ランビーも同様の軌跡を歩むことに期待したい。

上記で名前を挙げたDJエスデイルとブラッドショーは今季両者ともに怪我に苦しみ、シーズン当初の期待値ほどプレータイムを積むことは出来なかった。高い戦術理解度とビルドアップ関与の上手さが特徴のRSBであるDJエスデイルは今季偽SBや中盤にも挑戦し、順調にプレーエリアを広げている。後者のブラッドショーは大外で仕事が出来るウインガー。高いアジリティ性能によるドリブルとキック精度を両立していることがブラッドショーの武器だろう。ブラッドショーの主戦場はLWGであるものの、リオ・ングモアの加入により、来季はRWGや最前線の今日も増えるだろう。前述したように当初の計画ほど順調には進まない1年間を過ごした両者ではあるが、来季がスカラーシップ1年目であり、フィジカルで劣る環境に飛び込まず離脱期間中に身体作りに専念出来たことが怪我の功名となることに期待したい。

そして最後に紹介するスコフィールドは上記の3名ほど強いインパクトを残した訳では無いが、アスリート能力とフィジカルに優位性を持つ彼には来季以降のブレイクを期待したい。これまでのリヴァプールアカデミーにもバラギジ、マバヤ、オナヌガとタイプは違えど同様の特徴を持った中盤の選手は存在していた。しかし3人全員が怪我に苦しみ、プレータイムを積めずに成長が停滞している。今季終盤戦のU18でのプレーぶりを見る限りではスコフィールドは打開し得る素材なのは間違いない。

そして彼ら以外にもリヴァプールアカデミーにはアイザック・モーランやジョシュア・エイブをはじめ、飛び級でトップチームへの階段を駆け上がっていく可能性を有する有望株が存在している。今後はこの流れが加速していくだろう。



(9) 困難極めるDM育成

現在改革真っ只中のリヴァプールアカデミー。

しかし現在も未だに解決策が見つけられていない問題は幾つか存在する。そしてその1つがDM、4番の育成だ。

ただこのテーマは必ずしもリヴァプールに限った話という訳ではない。元来球際のバトルやフィジカル勝負、機動力、何よりも派手なプレーが好まれるイングランドにおいて静的なDMを育成する土壌は存在しなかった。またマージーサイドやタインウェアといったイングランド北部地域ではこの気質はより顕著。イングランド北部のフットボールファンはシャビ・アロンソやセルヒオ・ブスケツのようなDMを評価する素養は持ち合わせていなかったのだ。彼らはより熱く激しい球際のバトルを好み、静的な振る舞いで試合を支配しようとする4番には「走ってない、戦ってない」と芳しくない評価を与える。かつてのプレミアリーグやイングランド代表に子供達が憧れるような4番が居なかったのも当然だろう。もっと言えば現在のイングランド代表にも4番が不足しているのは明白だ。

このような環境下で育った若者の中から静的なDMが生まれる可能性は当然非常に低い。それだけ文化的なバックグラウンド、選手育成を行うコンテクストは若者たちのロールモデルに影響を与える。リヴァプールのアカデミーを経た選手で静的な素質を有しているのがスペイン育ちのバイチェティッチだけというのも必然の結果と言えるだろう。

リヴァプールU21で近年アンカーを任されたモートンやマコネルも6番の選手。今季U18にも4番が本職の若者は居らず、2CHを並べる形を採用せざるを得なかった。

しかしマンチェスターシティのアカデミーを筆頭に現在は潮流が変わりつつあるのも確かだろう。そしてリヴァプールにもようやくDMに育ち得る素質を持った選手が現れた。

それはイングランドU15代表でキャプテンを務めるアイザック・モーランである。かなりの長身ではあるが未だ線が細く、強度やスピードには改善の余地が多く残るものの、ビジョンや長短のパスで試合をコントロール出来る姿はこれまでリヴァプールアカデミーに存在しなかった才能と言えるだろう。また今夏ウルヴァーハンプトンから獲得したアルヴィン・アイマンも元々CBの選手ではあるが、DMを務めた経験も有している。彼は4番よりも純粋な6番に近い選手ではあるが、恵まれたサイズとアスリート能力でピッチを駆け回る体躯はかつてトッテナムに所属したムサ・デンベレのように育つ未来を期待してしまうほど。

これまで苦手としていた静的な4番の育成プロジェクトがリヴァプールアカデミーでもようやく着手されようとしている。




(10) 伸び悩んだ2人の若武者


今季限りで契約満了によりフリー退団が発表されたアカデミー組は以下の通り。

アダム・ルイス
メルカム・フラウエンドルフ
マテウシュ・ムシアロウスキ
ネイサン・ギブリン
フランシス・ジマー
ルーク・ヒューイットソン
ナイル・オズボーン
コディ・ペニントン

ローン組も含めて8人の若者がリヴァプールを去る。

期待していた若手、初めて名前を聞いた子、数年前を想起させる懐かしい名前。
皆さんの反応は人それぞれだろう。


そして本章ではマテウシュ・ムシアロウスキとメルカム・フラウエンドルフの2名に触れたい。両者共に読者の皆さんも殆どの方が一度は名前を目にした若者だろう。

マテウシュ・ムシアロウスキ。

リヴァプールのアカデミーを知る者なら誰しもが一度は将来に夢を見たダイヤモンドの原石。明確な課題に目を瞑ってでも尖りまくった才能に期待してしまう浪漫の塊。独特なテンポと高いアジリティ性能で相手ディフェンスを切り裂くドリブラー。

メルカム・フラウエンドルフ。

ドイツ世代別代表の中心的な役割を長く担い、争奪戦の末にホッフェンハイムから引き抜いたアタッカー。高いフィジカル水準と足元のテクニックを両立したユーティリティ。

クラブから非常に高い評価を受け、母国からマージーサイド移籍を決断した両者。アカデミー関係者からも常に大きな期待を寄せられ、トップチームデビューまで果たしたが、近年は伸び悩み、今夏リヴァプールを去る運びとなった。

両者の共通点は怪我での離脱が少なくなかったこと、更に前者はフィジカルと戦術理解度に課題を持ち、後者は傑出した武器を作り出せず器用貧乏に落ち着いてしまった。自身のプレースタイルに自信を持ち、ブレずに貫き通したものの、尖った特徴の一点突破では駆け抜け切れたかったムシアロウスキと、様々なポジションで起用されながらチームプレイヤーへとシフトする中で自身の特徴を見失ったフラウエンドルフは両極端ではあるものの、共にリヴァプールで成功を栄光を掴み取ることは出来なかった。

またクラブが明確な育成方針や起用方針を確立出来なかったのも彼らの成長が停滞した一因になってしまった可能性は高い。起用のポジション、個人戦術の指導、U18からU23への昇格のタイミング、ローン移籍のチャンス。幾つかの局面で彼らのキャリアを好転させることが出来ずに終わってしまった。彼らの軌跡は如何に周囲の環境が本人の成長に如何に大きく影響するのか、適切な環境でプレーする大切さを改めて痛感した。

ムシアロウスキとフラウエンドルフ、そして上記8名全員に幸せな将来が待っていることを願っている。是非ともリヴァプールに決断を後悔させて欲しい。

またリヴァプール退団に際し、フラウエンドルフが書き綴ったお別れ投稿が良い奴感に満ち溢れてるので是非。
https://www.instagram.com/p/C8z748At6I_/?igsh=MTV1ajc3NjA5dTRpNg==




(11) アカデミー観戦のすゝめ

最後の章は観戦ガイド、観戦のすゝめである。

今季はトップチームにおいてのアカデミー組の大躍進も相まって例年以上に多くの方がアカデミーの試合を観たり、若手の動向に興味を持つ年になったと実感する機会が多かった。

深夜に起きて1人で画面に向かうよりも、トップチームの試合のようにアカデミーの試合が行われている時間帯もタイムラインが賑やかになり、アカデミーの勝利や若手の成長を皆で共有出来るように良いなぁと思っている。

他所のクラブも含めて将来有望な若手のスカウトごっこをするのも良し。アカデミーにも好きな選手を作って応援するのも良し。

楽しみ方は千差万別。ただ恐らく何事も推しを作るのが沼にハマる手っ取り早い方法だろう。当然、トップチーム昇格の可能性が高い有望株が話題になる機会が多いが、アカデミーには様々な特徴を持った若者が在籍している。アカデミーまで追うことは好きなチームが1つ増えるみたいなものだろう。

一方で少し気を付けるべきこともある。SNSの発達により、良くも悪くも外野の声が選手本人、アカデミーの若手達にもダイレクトに届く現代社会において、ファンやサポーターが20歳以下の若者に対して勝手に過度な期待を抱き、勝手に失望して批判するということだけは避けなければならない。

アカデミーの試合はストレスを溜めて見るものではないし、発展途上の若者に対する過剰な課題探しも何の意味も成さない。

誰が急成長を果たすのか、経験則に基づいてある程度の予測は出来たとしても答えが分かるものは当然誰も居ないだろう。プロのスカウトも苦戦するのだから。自分も未来が見えるのならnoteを書いてないでサッカー業界に進みたいところだ。

好きな若者を見つけて、ポジティブな要素を探し、将来を妄想して楽しむ。そのくらいが丁度良い。

リヴァプールアカデミーを一緒に応援しよう。



以上、

「『カービーの夜明け』
リヴァプール 23/24 アカデミー総括』

となります。

いかがだったでしょうか。

本作とクロップ退任に際して掲載したアカデミー改革に関するnoteがリヴァプールアカデミーの現状を把握することや、今後の試合観戦に生かせるものに仕上がっていれば幸いです。

今季は総じて素晴らしい1年でした。
昨夏のシーズン開幕時点でこのような展開が待っているとは夢にも思っていませんでした。

現在のリヴァプールアカデミーは改革真っ只中。
今季も良い点も悪い点の両方が様々有りながらも、間違いなく一歩ずつ着実に前進しています。 
アカデミーの育成もリクルートメントも日進月歩の世界。改革に近道は無く、地道に少しずつ向上し続ける以外に道はありません。

試行錯誤しながらも正しい方向へと進む軌跡を追い掛けさせてくれること、あの一夜のような素晴らしい光景を見せてくれること、若者たちに感謝感謝ですね。

皆さんも是非アカデミーを一緒に追いましょう。

アカデミー観戦リスト等を作って皆で共有出来るようにしたら面白そうですね。

アカデミーに興味関心を持ち、気になる点がございましたら、引用ポスト・リプライ・DM・質問箱などで気軽にご連絡をいただいて結構です。

今作も最後までお読みいただき有り難うございました。
次作はシリーズ三部作の3本目となります。

宜しければ是非。



最後までお読みい戴き誠に有り難うございました。


リヴァプールアカデミーに関するnoteを不定期で掲載しています。
多くの方々に届く様、拡散して戴けると幸いです。
また質問や意見もお待ちしてます。


基本的には無料掲載を考えています。


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https://querie.me/user/nana_ynwa1892



また次作を宜しくお願いします。



ゆーり

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