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夜間飛行-キネマから月世界へ-

ここは夜が昼で、昼かと思えば夜で、朝から夕方へ、物理法則を超えて時間は意味を持たず、わたしたちは女子高生になり主婦になり、マンガの主人公になり、殺人者になり、教室から疎外されたあの頃の自分になる。
靖子ちゃんは天国の支配人で、お伽話のお姫様で、夜のどん底から、指先ひとつで作りあげるイマジナリーの異世界の切符を持っていて、それを私たちに見せてくれる。
「こんばんは。大森靖子です。」
真昼に夜の帳を下ろしてステージの幕が上がる。

大森靖子自由字架ツアー2021は東京キネマ倶楽部からスタートし、今夜、神戸のクラブ月世界でファイナルを迎えた。
奇しくも元キャバレーの空間。妖艶で煌びやかでレトロで、どこか寂しい。ミラーボールが見守る時間に、もう居ない男女の幻想が浮かぶ。

自由字架は、自由の代償に磔にされ矢面に立ち続け、ある時は人々の不寛容から糾弾されてしまう美しい精神の覚悟を魅せてくれる舞台だ。

ピンクのマイクコードが血管のように走り、絡まり、結ばれ、靖子ちゃんが自在に空間を支配する。深く、深く掘り当てるように。
手を伸ばした先で握り返してくれるように。
夜の眷属の踊り子りこちゃんが歌を際立たせる物語の奥行きだとすれば、しゅがびんさんのピアノは靖子ちゃんの天国を形作る骨格だ。
骨と、血と。深度と奥行き。空間は拡張し、時間は収束し、気付くとあっという間にアンコールのお茶碗だ。
一公演毎に演る曲も違えば、表情もストーリーも違う。靖子ちゃんは自由を支配し、魂を証明する。
わたしたちに宇宙より宇宙を見せてくれる。

青いワンピースに白のエプロンを合わせた靖子ちゃんは可愛い可愛いアリスでした。
不思議の世界にもれなく案内してくれました。
磔磔のKEKKON、真夏の卒業式、月世界のM、君に届くな…最高でした。
磔磔とKEKKONはDNAに刻まれた組み合わせすぎて本当に聴けて良かったです。
磔磔最高すぎて毎回観光は出来ないけど磔磔で靖子ちゃんと待ち合わせがメインなので良いです。また絶対に行きます。
君に届くなは最前目の前に来てくれたのに痛恨の動画が撮れていないミス。
目に焼き付けたからそれで良いね。

すごいものを観た、今日のライブが一番良い、そんなベストアクトを毎回更新してくれて、どこまでやってくれるんだろう?
靖子ちゃんの進化が止まらなくて周回遅れのわたしは付いていくので精一杯だ。

通り抜ける閃光が眩しくて、圧倒されて、なのに目を沢山合わせて微笑んでくれるから堪らない。
完敗です、大森靖子さん。
一生好きです。

今宵上がった幕は下りて、日常へ帰る新幹線も最早宇宙みたいなものだ。
わたしはお酒を飲んでいるだけなのにものすごいスピードで運んでくれる、でも靖子ちゃんはもっとすごい。
身体ひとつで指先ひとつでわたしを別世界に連れて行ってくれる。

夜間飛行のようなツアーでした。
最後のエムシーで自由字架ツアー2021!と強調していたように感じたので、2022も今から楽しみにしています。