![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141777442/rectangle_large_type_2_29a65c719fea3a8f9b5b96d4dfcc0a8a.jpeg?width=800)
わたしとKEKKON
2020年のことを今でも思い出す。
世界中が目に見えないウイルスに侵されてヒステリックになっていた6月、何も知らずにわたしは最近増えた外泊のこととか、朝になっても帰って来ない元夫に疑いも持たないくらい、もしかしたらもう醒めていたのかもしれなかった。
その日も仕事が遅くなり帰宅したらすでに眠っている元夫のデバイスを悪いな、と思いつつ観察をした。悪い癖で、たまのチェックが辞められないのだった。何故か?
どこかで確信めいた、「この男はわたしを裏切るだろう」という予感があったのかもしれない。
そのデバイスは悪いことに「最近よく行く場所」をGPS機能でもってわたしに教えてくれた。前の時のクリスマスにわたしが贈った時計だった。見覚えのない住所が複数表示されるそこは、いわゆるラブホテルというありきたりな結果だった。
全て記録したのちわたしは元夫を起こしてこう言った。
「わたしに隠していることあるよね?」
戦略も何もない。感情に任せた愚策だった。
最初はしらを切る元夫に対してわたしはハッタリで追い込みをかける。「⚪︎月⚪︎日⚪︎時。この場所にいたよね。もう全部知っているよ。」
ねえなんで黙るの?
どんなに不利でも認めちゃ駄目じゃんか。
ああ、こんなことなら頭が良くなんて生まれるのじゃなかった。
元夫が出て行った家には空洞が広がっていた。
一緒に食べようとしていた食材。
水をあげる人がいなくなった観葉植物。
一緒に選んだベッドカバーも、それを使う温度はもう居ない。
わたしが追い込んだのか?
詰めたりしないで泣いたら良かったのか?
可哀想な女を演じられたらこうはならなかったのか?
ぐるぐる答えが出ない問答を続けながら何度も何度も流したKEKKONが、あの頃のわたしを救ってくれた。
たった一人だと思っていたよわたしは。
貴方もそうだった時が確かにあったよね。
二度と戻らないこの世界に垂直に立つということ。その一瞬こそが尊かったな、というただの回顧録です。