詩「物件」

物件

近いのがいい
駅にも市役所にも商店街にも
猫とか鳥とか
出会ってしまったなら
そそくさと逃げてくのがいい
裁判所の上でさえずって
そのまま月も掬われて
雨がやんだら
猫が路地から抜ける

何回も来てたって
それでもいいじゃん?
保護フィルムの上から
画面をかわいがって
憤りもせず
目を閉じて肺を開く
近いところに貼り付けた
一寸先の薄い闇と
わたしのようなわたし

満月の夜には
恋人から電話がある
近く近く近く
ベランダから放つ話たちよ
さあ
あっけなく続いてゆくがいい


2024年 麻生有里

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?