見出し画像

0018 2010年代の日本ファッションの総括に向けて

時は西暦2024年。21世紀未曾有のパンデミック「コロナ禍」を経て世界のファッション界は活気を取り戻しつつあるが、わたしの目に映る日本のファッションは以前にも増して衰退の一途をたどっているように見える。

単に自分が老いたせいで興味の矛先を多方面に向けられなくなっているだけなのだろうか?そうだとしても90-00年代に流行ったものが掘り起こされているのを見ると、カルチャーはあの頃に出切ってしまったのではと思ってしまう。

文化を蓄積できないほどに消費スピードが加速し続けている現在のカルチャーは果たして20年後に記録として残っているのだろうか?


2010年代の日本ファッションを総括する必要性について

Y2K*1が世界的に流行しているとメディアが謳うなか、日本の90年代から2000年代初頭にかけてのファッションスタイルも当然リバイバルを迎えている。通説としてファッションは20年周期で流行が回帰すると言われているが、しかし、今このトレンドを牽引しているのは日本のプレイヤーではないことは明らかだろう。

日本で醸成された裏原系のストリートファッションはグローバリズムの急速な進展に伴いアニメ・ゲームとともに世界中に広まり、多くのミレニアル*2キッズに影響を与えた。そんな当時のキッズが各界を牽引する世代になった今、90s-00sの日本ファッション的なスタイルが引用されることは納得の現象と言える。

当時の日本のファッションブランドはたしかに偉大だ。しかし、世界に持て囃されて過去の栄光の悦に浸っていて良いのか?それ以降の2010年代、日本のファッションは何を遺したのか?2000年代までの記録は書籍から雑誌まで様々残っているが、紙媒体の衰退が進行した2010年代は当時の空気感やストリートスタイルを伝えるメディアが圧倒的に少なくなっている。そして2020年代は言わずもがなだ。

2020年代も折り返しに差し掛かった今、このままでは2010年代の日本ファッションは抽象化され、未来からの憶測をもとに歴史が築かれるかたちとなってしまうとわたしは危惧している。ずっと誰か書かないかな、書いてくれよと思い続けてはや数年。結局、当時のことについて書く人は現れず、そもそもファッションについて書いたり議論するという文化が2010年代に比べて圧倒的に衰退したと感じる。

そこで柄じゃないと理解しながらも、当時の現場を少し引いた立場から見てきた身として、自分なりに2010年代の日本ファッションを総括していこうと思った。いきなりまとめていくのは無理があるので、まずは点を打っていき、それを繋いでいくと絵が浮かび上がるかたちで書いていこうと思う。

*1 Y2K Year 2K。Kはキロ、つまり1000の単位を差すため、2Kは2000を意味する。西暦2000年前後のスタイルやトレンド、aesthetic(直訳すると「美学」だが、どちらかというと「世界観」と訳すのが適していると思う)を差す。当初は90s-00sのサイバーパンク風のテイストを指していたはずがだが、今では範囲が広がり00年代っぽいもの全般を差すために使われている印象がある。

*2 ミレニアル ミレニアル世代。81年から96年にかけて生まれた世代を差す。その一世代上はGen X、下はGen Z。


Future Beauty 日本ファッションの未来性

そもそもわたしがファッションカルチャーに本格的に興味を持ち始めたのは高校生だった2012年頃、具体的には2012年7-10月にかけて東京都現代美術館で開催されたファッションの大規模展覧会「Future Beauty 日本ファッションの未来性」(以降Future Beautyと表記)を見たことがきっかけだ。教室の黒板に貼られていたフライヤーでその存在を知り、夏休み中に見に行ったと記憶している。

2012年当時、教室で撮影した写真

2010年にロンドンのバービカン・センターで開催された「Future Beauty: 30 Years of Japanese Fashion」の凱旋展である本展は、英語タイトルにもある通り1980年代から2010年までの日本ファッションの30年間を辿るという内容となっていた。

以下に展覧会プレスリリース
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/docs/fashion.pdf

東京都現代美術館ホームページより

本展は年代順に日本のファッション(とりわけデザイナーズブランド史)を紹介する構成を取っており、まず会場に入ると御三家*3のルックに出迎えられた。80年代、90年代、2000年代と辿っていき、最終章では設立10年未満の若手ブランドが紹介され、未来に希望を託すかたちで展示は締めくくられていた。

ファッションに興味持ちたてだったわたしはご多分に漏れずコム・デ・ギャルソンとヨウジヤマモトから入り、本展きっかけでFINAL HOMEや若手として紹介されていたブランドたちに惹かれ日本ファッションの世界にのめり込んでいった。

また、若手として紹介されていたブランドのほとんどが原宿の『ミキリハッシン』というセレクトショップで取り扱われており、そこからわたしの(当時の)現在進行系の日本ファッションを追う活動が始まった。このミキリハッシンというショップが2010年代の日本ファッションを語るうえでは無視できないノード(節点)となっていたことについては今後、詳しく書いていこうと思う。

*3 御三家 70-80年代にかけて東京からパリへ進出し、西洋のファッションに大きな衝撃を与えたと言われているイッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE/デザイナー:三宅一生)、コム・デ・ギャルソン(Comme des Garcons/デザイナー:川久保玲)、ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto/デザイナー:山本耀司)の3ブランドを指す。


おわり、あるいははじめに

ネット上での情報消費スピードが加速するなか、ファッションに関するテキストや言論空間は動画メディアに対抗する方法として紙媒体での再興が求められているのではないだろうか。出来上がり次第発表される映画や音楽と違い、ファッションは基本的に半年ごとのサイクルで発表することが産業として規定されており、これを草の根的に改めるのは至難の業である。その上でトレンドという消費機構が人々を駆り立てるので、ファッションは議論される間もなく次へと進んでしまう。

今は20年前のファッションやカルチャーが新しいものとして参照され再びトレンドとなっているが、今から10年、20年後はどうだろう?参照する記録がない過去は存在しないに等しく2010年代リバイバルも起こらないのではないか?インターネットの下層に埋没している記録もサービスが終了すれば消えてしまうし、そもそも現在のインターネット自体、新しいネットワークへの移行に伴い失われる可能性だってあるのだ。

過去(歴史)がいくらでも力技で改変(書き換え)られるようになった今、史実を遺すにはひとつの対象を色んな方向から多人数によって描くことが重要だとわたしは考えている。デッサン教室でモデルを中心に取り囲み多角的に描くように。なのでわたしはわたしが見た2010年代を書いていくので、みんなも各々で書いて、その次のステップとして当事者も交えて当時の検証をしていければと思う。

投げ銭していただけるとやる気が上がります