今となっては覚えていないことの方が多くなってしまった祖母。
アルツハイマーだ。
でも記憶のどこかに残っているだろうか、二人で行った長野の温泉旅行。
私が二十三、四の頃だっただろう。祖母はまだ元気だった、と思いに耽る。
二人でお揃いの旅館の浴衣を着て、温泉街の細い通りを歩いた。
石畳の道の上でカラカラと下駄を鳴らしながら。
世代は違うが、私と祖母は考え方がよく似ている。だから話も合う。
今となっては何を話していたかなんて私でさえ覚えていないが、
お互い忘れることが多くあっても、二人の絆は変わらない。
あの並んで鳴らした下駄の音が、耳をすませばいつまでもよく聞こえるように。
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