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「お気持ち表明w」って言っておけば勝てると思っていらっしゃる

戦後70年という大きな節目を過ぎ,2年後には,平成30年を迎えます。

私も80を越え,体力の面などから様々な制約を覚えることもあり,ここ数年,天皇としての自らの歩みを振り返るとともに,この先の自分の在り方や務めにつき,思いを致すようになりました。

本日は,社会の高齢化が進む中,天皇もまた高齢となった場合,どのような在り方が望ましいか,天皇という立場上,現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら,私が個人として,これまでに考えて来たことを話したいと思います。

宮内庁HP|象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば

平成28年(2016年)8月8日。

あなたは何をしていただろうか?

わたしはめちゃくちゃ掃除をしてた。

忘れてしまわないうちに、忘れられてしまわないうちに、書き残しておきたい。2020年のインターネットを飛び交う「お気持ち」という言葉が、本当はなんのことだったか……っていう、根本の話を。

清めてもうてん。なんでやろ

「天皇陛下が生放送で辞めたいって言うらしい」

って聞いてわたしはめちゃくちゃ掃除をしてしまった。

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家に一人だった。ギュンギュン掃除機、すき間クイックル、テレビの画面のホコリとり。家中すみずみまで掃除して換気してスッポポ〜ンと脱いで今度は自分の体を洗った。頭から湯水を浴びながら、「お清めじゃん?」と思った。

当時の家は洋室に椅子とテーブルだったけど、わたしは椅子からクッションをひっぺがしてテレビの前に置いた。

正座するためだ。

正座以外ありえないと思った。

「生まれつき象徴ファミリーやらされて死ぬまで辞めれないのマジで無理なんで辞めさせてください」と全国生放送する人、しかもあの玉音放送を「父の言葉」として聞いた上で天皇になった人のおことばを受ける姿勢は、正座。それ以外ありえないと思った。

お清めして正座して天皇陛下のおことばを待つ自分を、「マジでTHE・日本人じゃん」と思った。自分の中のDNA的な何か、もしくは、自分の肩に乗ってるかもしれない先祖霊的な何か、そういう、自分的には自分の意思でない何かが自分を突き動かしたのかと思うと、怖かった。自分が薄れちゃったみたいで怖かった。おれは何に対する敬意でお清めと正座をしたんだ?と考えて、わりとすぐ答えが出た。

「人間に象徴扱いされた人間が人間としての自由と尊厳を取り戻そうとする行い」に対する敬意だ。

が。

めちゃめちゃ原稿読まされてますやん?

って、泣いた。

天皇という立場上,現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら
始めにも述べましたように,憲法の下,天皇は国政に関する権能を有しません

宮内庁HP|象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば

大事なことなので二回言っていた。

というか、「言わされていた」んじゃないのかと思った。

もっとなんかこう、ライブ感ある言葉で、しんからのお気持ちを生き生きと表明するんだろうとわたしは思っていた。が、天皇陛下は……「明仁」という名前があり、しかし姓はなく、戸籍もなく、戦後の日本国憲法のとっぱじめ第一章で役割を決められて基本的人権もないその人は、もう開始ゼロ秒で原稿を両手持ちし、「めちゃくちゃ読む練習をなさったんだろうな」という感じの読み方できっちりきっちり朗読していた。

2度の外科手術を受け,加えて高齢による体力の低下を覚えるようになった

そんな人がきっちりきっちり職務にあたっていた。そう。「職務にあたっていた」。いや、天皇というのは職ではないから、「象徴としてのお務めにあたっていた」というべきか。

象徴現場、チーム戦

わたしには細かい経緯はわからない。けれどおそらく、天皇陛下……って呼ぶのはあの人を象徴扱いする視点からの言い方だからここではやめておこう。明仁さま。単に皇族だからじゃなくて、自分の気持ちに向き合って言葉にしてきっちり表明した人間として尊敬するから「さま」をつけてお呼びする。明仁さまが語るお気持ちを、明仁さまが書いた原稿を、宮内庁の人とか憲法学者の人とかがめちゃくちゃ読み込んでめちゃくちゃ考え込んでめちゃくちゃ整理してあの原稿ができたんだろうなということはわかる。

憲法に触れてしまわないように。

国民が象徴を失って迷ってしまわないように。

完全にアイドル現場だった。大御所アイドルが脱退とか解散とかの意向を表明する舞台の裏方のプロたちを感じた。言葉選び。演出。各所への事前挨拶。“調整”。法律関係のプロによるいろんな契約の整理。あれは完全に、プロの裏方に支えられたプロのおことばだった。お気持ちをライブで表明することが許されない、国民統合の象徴であると憲法第一章に書かれているレベルの絶対的国民的アイドルであるからこそ心のままにお気持ちをぶっ放すことが許されない、国民とされる人間みたいに「私は80代ですよ!?これって死ぬまで辞められないんですか!?それで私が死んだら死んだで国中しばらく喪に服しててなんか大変な儀式とかいっぱいやる割には全員自粛で全然経済回らない中を自粛警察が不謹慎ですって叫びながらパトロールする絶対に笑ってはいけないお通夜国家になるんでしょ!?それを私の子の代孫の代ひ孫の代も延々とやるわけでしょ!?やばない!?無理!辞めさせてもらいますわ!!😩💦」っていうお気持ちに素直になって泣きわめくことが少なくともオフィシャルな場では全く許されていないことを自覚しているプロのおことばだった。

おことばは宮内庁により、「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」と題されて公式ページにアップロードされた。

なのに。

それなのに。

おことばを「お気持ち」扱いしたのは、誰だったか。

あれは「おことば」だった。

それを「お気持ち」扱いしたのは……そこにある「おことば」の重みから逃げて、「お気持ち」だなんてふんわり口当たり軽く表現した人々は、一体、誰だったのか。

なんかめっちゃ国を愛してますし今の憲法ってアメリカに書かされた憲法なのでマジ無理です!美しい国日本を取り戻す!みたいなこと言ってる安倍晋三さんは、そりゃあもちろん「“神じゃなくて人間です”ってアメリカに言わされた人の息子さんが人間として辞めたいっていうんなら辞められるようにしましょう。天皇を象徴ポジに置くのって正直アメリカにやらされたことなんで、皇室の仕組み自体考え直すことも含めて改憲のことを話し合いたいですね〜!✊」みたいなことを言うのかと思ってたら全然言わなかった。

むしろ「うっわ」みたいな態度だった。

そもそも明仁さまの生前退位の意向を押しとどめようとしていたのは首相官邸だったわけだし、「ボクはとっとと自民党の思い通りに憲法を改正したいのに何余計な議論を始めちゃってんの?」っていう感じだったんだろうなと思う。って言うかあの人は自民党案憲法改正以外の全ての政治イシューに対してそう思ってるとわたしは思う。

「実権握ってるのは俺だからな」感

安倍晋三さん(1954年戦後生まれ)は今の日本国憲法を「アメリカに押し付けられたもの」だと思っている。(実際自民党の改憲プロパガンダ漫画とか、マジでベアテ・シロタ・ゴードンさんの存在とかが完全にないことになっていてビビる。まさかGHQに居たってだけでアメリカ扱いしてんの?なんでオーストリア生まれユダヤ系日本育ちのベアテさんが成人後にアメリカ国籍取ったかわからないの?え、雑すぎん?もやもやもやウィン。)

だけど明仁さま(1933年生まれ、二次大戦経験者)は……自分自身の父親が玉音放送をやっているのを聴き、「天皇陛下万歳!!」と叫びながら殺されていった人たちのことを想い、「天皇陛下万歳!!」と叫びながら殺された人の遺族の怒りと悲しみが皇室に向けられる中でも日本全国津々浦々をその足で歩き手を合わせ、GHQに色々言われながらも言うべきことはちゃんと言い返して今の日本国憲法を作った人らのことを見てきた。

自分が「うちの家族を殺した憎き日本の皇太子!」って思われて他国のテロリストに殺されるとか、「うちの家族を特攻させた憎き日本の皇太子!」って思われて自国のテロリストに殺されるとか、十分その身にリアルな話だったと思うけど、明仁さまは15歳で広島に立った。焼かれてから4年しか経ってない1949年の原爆ドームをその目で見た

「お気持ち」だと?

“お前はどうせ政治的実権を握っていないんだから、そんなものは「お気持ち表明」に過ぎないんだ”っていう丁寧な差別をやめろよ。ふっっっっっっざけんな。

安倍政権は……安倍「政権」という政治的権力を持った安倍晋三さんは、お金いっぱいいっぱい配って力を買う自民党で権力を持った戦後生まれの三世議員・安倍晋三さんは、政治的発言を一切許されていない戦争経験者の明仁さまの「おことば」を「お気持ち」としてニコニコと聞き、「ちゃんと考えないといけないね!」みたいな態度でさわやかに明仁さま限定特例退位で処理した。仕組みは一切変わらなかった。

2度の外科手術を受け,加えて高齢による体力の低下を覚えるようになった頃から,これから先,従来のように重い務めを果たすことが困難になった場合,どのように身を処していくことが,国にとり,国民にとり,また,私のあとを歩む皇族にとり良いことであるかにつき,考えるようになりました。

宮内庁HP|象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば

要するに「皇族のシステム自体考え直してくれん?これは自分が辞めたいだけって話じゃなくて、こういう悩み苦しみが今後の皇族や国民に起こらないようにっていう話なんだよね」と言いたいのであろう、しかしそう発言することは人権も政治的発言権もないので許されないのであろうこの部分はガン無視された。

「お気持ち表明」としてガン無視された。

そして四年の時が流れた。2020年。明仁さまの「仕組み自体をなんとかしたかった」というお気持ちを継ぐ人がめちゃくちゃ減り、新種ハゼの発見のニュースばかりがキャッキャとツイッタートレンド入りしている2020年。

この「お気持ち表明」という言葉は、「こういうことのせいでこういう思いをしています」と言っている人をせせら笑うネットスラングになっている。

この意味で「お気持ち表明w」と言っている人を見るとわたしはマジで「ひゃんっ」となる。

嫌いだからじゃない。
つらそうだからだ。

現代日本の社会システムにおいて、組織内で地位ある人、家族という組織含む組織内で地位ある人がお気持ちを表明することに対してはかなりの圧がある。

「パパが仕事で辛くて泣いていたら家族が不安になるよな」

「こんなんおかしくない?って店長の自分も思うけど、このチェーンの統一ルールだから仕方ないよな」

我慢しながら、我慢しながら、自分自身だって「こんなんおかしくない?」と思っているルールに一生懸命従う。時には、ルールを強いる側になることすらある。自分自身だって「こんなんおかしくない?」と思っているルールに。自分自身だって「こんなんおかしくない?」と思っているルールに

「こんなんおかしくない?」って思い続けていると辛いので、「これがルールですから!」という自分の言葉を自分で自分にしっかり刻んでいく。頑張って頑張って頑張ってルールに合わせていく。

組織を支える。
組織に尽くす。
大黒柱に俺はなる。

お気持ちを押し殺して組織の部品になる。お気持ちを押し殺して人柱になる。そういうふうにしている人たち、それが正しいと思っている人たちにとって、「辛いんですけど!嫌なんですけど!なんとかしてください!」って表明している人たちのことは、妬ましいのだ。羨ましいのだ。お前らばっかり守られやがって、って思うのだ。お前らばっかり泣くことを許されやがって、って思うのだ。お前らばっかり正しいみたいな顔しやがって、って思うのだ。お前らがそうやって声を上げて社会を変えようとすると柱をやっている俺のところまで振動が伝わってきてグラグラしてマジで無理だから鼻で笑わせてもらうわね、だってお前ら実権ないじゃん。となるのだ。

「お気持ち表明w」
「お気持ち表明w」

インターネットに草生える。

安倍晋三さんと明仁さまとの間で起こっていた、「おことば」を「お気持ち」に矮小化して実権を握っていくスタイルが、不気味なほどの相似を描いてインターネットで繰り返される。

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「ぼくはアイドルじゃない、りあむとしてここに立ってる!
 ぼくはぼくのまま、『いま』を楽しんでやるって決めたんだ!」

お気持ち表明、というワードは日本社会システムの根幹からマスメディアからインターネットを介してソーシャルゲームの世界まで飛んでいき、アイドルマスターシンデレラガールズの夢見りあむちゃんという尊い存在を介して新米プロデューサーのわたしに刺さる。

明仁さまは今日も、自分の名前を……新種ハゼ発見のニュースを報じる記事にだって皇室報道にまつわるメディアガイドラインにしたがって「上皇様」としか書いてもらえなくて呼ばれないことも多い自分の名前を、明仁、Akihitoという名前を、論文に刻みつけながら生きている。人間社会の権力関係の網の中を生きながらも海を見ている。海のいのちを見ている。

わたしはなんにも変えられなかった。「お気持ち表明w」がツイッターのタイムラインを流れていく。無数に流れていく。時間が流れていく。

「お前らみんな忘れてるんか?明仁さまが生前退位してなかったら、そして、言うのも憚られるようなことだけれどもこのコロナ禍の中でもしもまだ平成が続いていて万が一明仁さまの身に何か起こるようなことがあったら……平成32年の終わりがいま来てしまっていたとしたら、ダブル自粛状態になってしまっていたとしたら、いまインターネットで『お気持ち表明w』って笑ってる藻舞ら(※インターネット古語:お前ら)のうち何人かは文字通り生きられなかったかもしれないんだぞ。わかるか。忘れないでいこうな。藻舞らもつらいんだろ?つらくて、つらくて、戦いたくないのに勝ち組負け組で勝負ばっかり求められる人生がつらくて、そうやってスマホを介して親指ぽちぽち「お気持ち表明w」って人を笑っておけばなんか勝てると思っていらっしゃるんだろう?一番大切なことを忘れてさあ」

悔しいので、ここに言葉を刻み付けてる。

宮内庁公式ホームページから引用しながら書いている。

天皇制に触れることを書くといろいろ楽しい人がやってくるかもしれないな、ただでさえコロナ禍で仕事が減っている弱小個人事業主の文筆家わいがこのタイミングでやることじゃないのかもしれないな、どこかに寄稿するにしたって媒体に迷惑かけるかもしんないしな、との思いもあった。けれど、書かなければ卑怯だという気がした。書かなければわたしも明仁さまの「おことば」を「お気持ち」として済ませる人の一人になってしまうんだという気がした。それだけはマジでマジで無理だった。だから書いた。

6681字ものこの文章をここまで読んでくださった方には本当に感謝する。読めるあなたは大丈夫だと思う。あなたはなんかライブ動画のコメントとかツイッターとかの短文匿名弾幕インターネットワールドで「ものすごい一体感を感じ」ながら「ワロタw」「お気持ち表明w」「今北産業」することなく、SNSで流れてきた記事に読まずに反応することなく、ちゃんと言葉を扱い、思考し、発信することができる人なんだと思う。

わたしたちにはインターネットがある。

わたしたちには言論の自由、発信の機会がある。

ちゃんと「おことば」を重ねていこう。

人の「おことば」を「お気持ち表明w」だなんて笑ってしまう自分がいたら、そんな自分自身にちゃんと向き合おう。

そんな「お気持ち表明w」だなんて、自分自身の芯から出たものじゃない、みんなが言ってるインターネットミームで人をせせら笑うようなことはもうやめて、ことばを取り戻そう。それは、あなたのことばじゃない。

あなたのことばを、取り戻そう。

生まれた時からことばの自由を許されて来なかった人の「おことば」を受け止めて、わたしはここに言う。

自分のことばを「お気持ち表明w」で処理されてたまるか。
自分のことばを、取り戻そう。
他人のことばを「お気持ち表明w」で済まさずに。
他人のことばを、受け止めていこう。

自分のことばを、発していこう。


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