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桜の小枝で桜色を染めたいメモ

もうすぐ桜の季節
というのはソメイヨシノの話で、近所ではもう河津桜が満開を過ぎ、大島桜は見頃になっています。

桜を素材にして桜色 〜 多分、ソメイヨシノの花びらのような淡いピンクを想像すると思いますが 〜 を染められたら素敵だと思いませんか。
桜のお花をたくさん集めてもピンクの染料は得られませんが、実は枝や葉には赤い色素が隠れています。ならこの色素をうまく取り出してピンクの染めができるかというと、これもなかなかハードルが高くて、オレンジやレンガ色になりがちなのです。

この春は運良く山桜の剪定枝が手に入ったので、桜色染めに挑戦しています。
その途中経過をメモしておきます

今年の河津桜

赤い色素のあるところ

上述のように、使う部位は桜の花ではなく枝です。
過去に桜染めを体験させていただいたある工房では、花が咲く直前の小枝、鉛筆より細いところが良いと教えられました。赤い色素は樹皮と芯材の間に多く存在していて、芯材の割合が増えると雑味が出て色が悪くなるためだそうです。

別の場所では、台風で折れた腕くらいの太い枝が勿体無いので、染めるために樹皮を削って取っておくのだという作業の現場を拝見したこともあります。この時は、削られた白い芯材の方からも赤い汁が滲み出てきていました。

またある染織家さんは芯材側の方が好きな赤が出るとおっしゃって、あえて太めの枝を選んでいました。

なんだかどこでもいいんじゃないかという気もしてきます。
花が咲く直前が一番というのは定説のようです。
最初に書いた工房はとにかく鮮明なマゼンダに近いピンクを出すことにこだわっていらっしゃったので、そっち方面なら枝先が良いという事でしょう。
温かみのある朱色寄りが好みなら、芯材部分も程よい割合で使えば良いのではないかと思います。色の好みはひとそれぞれですし、実際問題として太い枝なんてなかなか手に入るものではないので、必然的に細めの枝を使うことになるのでは?

また、雑味は多くなりますが、桜の落ち葉でも同じように赤色を取り出せます。
私自身はまだ経験がありませんが、緑の葉でもできるという話も聞いたことがあるので、やはり花以外のパーツなら、いつでもどこでもOKなのでは疑惑が付き纏います。
(そういえば秋に拾った桜の落ち葉をまだ使っていません!)

色素抽出

2月初旬だったかな? 山桜の剪定枝は、実は太めの枝ごとたくさん貰われてきたのですが、自分の剪定鋏でカットできる限界というと、やはり鉛筆より遥かに細い枝先に限られました。まさに、花が咲く直前の小枝たち!
そこを集めて乾かないように水につけておいたところ、日当たりよくあたたかいベランダで、なんと新芽が動き始めてしまいました。花や葉を大きくすることにエネルギーを使うと色が落ちると言われるので(真偽不明)、その前にと慌てて煮出しを行いました。

2−4cmくらいに切った小枝を少量のアルカリ(今回は炭酸Na)を加えて煮出すと、赤い染液が得られます。この色素は酸化で赤く発色し、アルカリの存在で酸化反応が促進されるようです。
時間があれば、アルカリを加えずに煮出して後からエアレーションを行うことで発色させることもできます。

用意した鍋が小さく、枝の量が思いのほか多かったためにひたひたより少し多いくらいの水しか入れられず、その代わり何度も水を換えて繰り返し抽出を行いました。
染液は煮出してから更に一晩以上置くことでより酸化が進み、赤色が濃くなります。

一番染液は雑味が多く出てくるので桜色染めには使いません。取っておく容器もなかったため今回は処分しました。
以下のお試しでは赤色の濃い二番液、三番液を使っています。四番液以降は未使用でキープしてあります。
(実はアルカリを使って煮出すことには別の利点もあって、十分にpHが高ければ雑菌が繁殖しないので、冷蔵庫に入れなくても液を長期にとっておくことができるのです。必ず大丈夫との約束はできませんが。。。)

山桜の枝を煮出して赤い染液を作る

写真右下は、染液を濾していたキッチンペーパーです。ベースがセルロース系の繊維ですが、赤く染まっています。ただ、やはり雑味(黄色味)が強くて朱色って感じですね。3枚のうち左のものが最後の2回くらいで、染液も薄くなってきているので色は薄いですが、黄色味はなくなっています。前述の桜染め好き工房でも薄くなった後半の染液の方が好きだとおっしゃってました。

染めたもの

桜染め

ソックス: シルク・化繊混紡
四角いフェルト: ウール・レーヨン混紡
木綿のお弁当包み

シルクとウールは、染め方の違いで、サーモンピンクと、桜色って言っても良さそうなベビーピンクができました。
お弁当クロスは、ベビーピンクの方の染め方ですが、染まりすぎて桜色とは言えない濃いピンクになってしまいましたが、これはこれでかなり好きです。

染めた順
1)サーモンピンクのソックス、2足
2)その残液で、羊毛フェルト、2種の染め方同時に
3)その残液でベビーピンクになったソックスとお弁当包み

かなりパワーのある染液でした。

桜色の染め方

今回は、ベビーピンクの方が、出したかった桜色という前提です。

前述のように、桜色を出すポイントは染液に共存している黄色や茶色の雑味を染めつかせないことで、それには3つのやり方があると考えています。

一つ目は、繰り返し煮出した染液の後半を使うこと。雑味成分の方が赤い色素より早く煮出されて減っていくので、後半の染液ほど澄んだ赤色になります(明らかに濃度は下がりますが)。

二つ目は、先のこだわり桜染の工房で教えてもらった方法で、染めに時間をかけないこと。赤い色素の方が早く染まりつきやすいので、雑味が入る前に引き上げます。この方法は、じっくり温度コントロールをする必要があるウールには使えません。

三つ目が、今回私が試した方法。自分で色々調べて、結局そういうことじゃないかとたどり着いた、極めてシンプルな方法です。
シンプルすぎて、実は私が気がついていなかっただけの当たり前なやり方だったのかもしれませんが。。。 

それは「無媒染」でした。
赤い色素は無媒染でも染めつきますが、雑味さんたちには媒染剤が必要、単にそれだけのことでした。

シルクとウールで黄色味が出ているサーモンピンクのはアルミ先媒染、ベビーピンクは無媒染です。
木綿は無媒染ですが、濃染処理(カラーアップZB)をしています。豆汁処理と比べたいのですが気力が伴わず。。。

今回は完全に無媒染ですが、色止めのために後媒染した方がいいのかどうか、今後確認していけたらと思います。

桜染め2種

赤い色素の正体

色を取り出す、発色させることを考えるのに、その色素の化学的な正体がわかっていることはとても重要ですが、桜染めの赤色色素に関しては実はあまり情報がありません。
論文なども、桜の部位比較や染色条件に関するものはいくつかありますが、物質名に触れているものは発見できていません。

一方で、枇杷、月桃、アボカドなど、同じようにアルカリ抽出や酸化で赤色素を抽出するよく似た植物染めが知られていて、これらは色素も類似のものである可能性が高いと考えました。
他の植物での情報、無媒染で染着することなどから、タンニン類の可能性が高いと考えています。

海外のWebフォーラムを覗くと、アボカド染めの日光堅牢度が小さいことが時々議論の的になっています(そんなの染料として認めない vs 染まるし綺麗だからいいじゃん、的な感じ)。その意味でも、後媒染することで日光堅牢度が高まるかどうかは一度試しておきたいところです。

ウール桜染め

まとめ

とりあえずはベビーピンクの桜染めができて満足な私です。

が、染液はまだ大量に残っています。
何か他のものを、特にコットンはもっと薄い感じで染めてみたいですし、同じような原理で作るフィトピグメント®️(植物顔料)も、黄色味を少なくしたものが作れな、すでに研究始めています。進展があったらまたご報告できればと思います。

それまで、ごきげんよう〜

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