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春の森戸川林道へ 

ようやく東京も開花宣言。今年の3月は長雨で、少しづつ芽ぶき始めているはずの森の植物を、なかなか観に行くことが出来なかった。

iPhoneの写真フォルダを確認してみると、去年の今頃はもう桜も満開だった。桜が遅いということは、森の植物の成長も遅れているだろう。でもウズウズする。今しか見られない植物がたくさんある。絶対に見逃したくない。

そしてようやく、先週の木曜日に気持ちいい晴れの日がやってきた。よしっ森に行ける!!早速スケッチブックと水筒を持って出発。

ここでいう「森」とは、森戸川の源流に沿って整備されている、森戸川林道ことだ。有志の人の手でよく手入れされている林道で、とても歩きやすいのにたくさんの植物と出会うことが出来る。家から歩いて20分、自転車なら5分くらいで行ける、私の大好きな場所。5月はオオルリを観察するために、バードウォッチャーがたくさんやって来る。休日は登山の格好をした人たちや、川遊びをする家族をチラホラと見かけるけれど、平日は本当に静かな森で、ほとんど人と会わない。住宅街のすぐ側とは思えないほど、深い山の中にいるような気持ちになる。そして実際、三浦半島では1番の秘境と言われているらしい。

林道に入る時に、軽くお辞儀をして「よろしくお願いします!」と心で呟いた。どうしても見たい植物がある時、こうやってお願いする。そして有難いことに、必ずそれは見つけることが出来ている。

森に入ってすぐに、ウバユリの若葉に目が釘付けになった。この時期のウバユリの葉っぱは、表面が虹色に光っていて本当に綺麗だ。雨続きだったから、植物も土も空気も、水をたっぷり含んでツヤツヤしている。落ち葉の間からたくさんの双葉が出ていてかわいい。この森の中に、どれだけの種が埋まっているのだろう。そう思うと、森は胎内みたいだ。

ウバユリの虹色の若葉

タチツボスミレもぽつぽつと咲いている。鎌倉・逗子・葉山エリアのスミレは、タチツボスミレが圧倒的に多い。だから自然と、絵付けにもタチツボスミレを描くことが増えた。時々気になったものをスケッチをしながら歩く。川の音が気持ちいい。ウグイスが鳴く練習をしている。身体が硬いから、しゃがんでいるとお尻の筋肉が痺れてくる。小さな折り畳み椅子を持ってくれば良かった。

タチツボスミレ

かわいい若葉をスケッチする。3枚の葉っぱが出ているけれど、これは何だろう?後ろにマムシグサが生えているから、マムシグサの若葉なのかな?

調べてみたら、マムシグサか、ムサシアブミどちらかのようだった。

マムシグサはずっと苦手だった。毒々しい色と形がちょっと怖いし、実際に毒があると知ってますます苦手になった。だけど去年、青森で綺麗なグリーンのマムシグサを見てから、見る目が変わった。色の影響ってすごい。よく見ると葉っぱも面白い形をしているわ、なんて好意的な目で見れるようになった。

これがグリーンのマムシグサ

毎年楽しみにしているニリンソウの群生地は、ほとんどまだ蕾だった。暖冬だったから植物の巡りも早いかと思いきや、このところの雨続きで、やっぱり今年は季節の進みはゆっくりだ。

ニリンソウの蕾

向こうから歩いて来た男性に、この道で合っているのかと聞かれる。これは長柄のほうに向かう道なのか、と。

「はい。この先はずっと一本道ですし、よく整備されているので、迷うこともないと思います。出口までは後30分くらいですかねぇ」と言うと

「30分!?そうかぁ〜〜〜」

と項垂れていた。ここまで来るのがすでに、すごく大変だったみたい。

実は去年も全く同じ場所で、同じことを聞かれた。この道で合っていますか?と。ここは電波が入らないから、紙の地図や、看板を目印にしないと、どこにいるのか分からなくなる。

私がいつも歩いているルートは1番楽で、分岐点までの片道1時間くらいの一本道を散歩するだけだから、その険しさをよく知らない。だけど反対側の山から降りてくるルートは結構難しいらしく、最近、遭難に注意!の看板も立った。かなりの広さがあることはGoogleマップで見ても分かる。

ところどころ目印のピンクのリボンが巻かれている

進めば進むほど、道が雨で川のようになっていて、何度も今日はここまでにしようか、と迷う。でも私は今日、どうしても見たい花があった。多分、もう少し先まで行けば見られるはず…。そう思うと止められない。

足元に気をつけながら、小川を渡る。すると、あったー!!

これー!!

ワサビの花。斜面に1株だけ見つけることが出来た。

今回はこのワサビの花が目当てだった。たまたま、森戸川源流に自生しているワサビがある、という個人ブログを見つけて、今の時期なら花も見られるのでは!?と期待していたのだった。

ワサビが自生するには、絶えず澄んだ清流が流れていないといけない。清らかな水じゃないと育たないそうだ。何年か前、静岡の天城峠辺りで、偶然ワサビの栽培地を見つけたことがあった。薄暗い森の中、棚田いっぱいにワサビが生い繁り、白く繊細な花を付けていた。だけど盗難防止のために柵で覆われていて、上手く観察することが出来なかった。だからいつか自生しているところも見たいな〜と思っていたのだ。

思いがけず願いが叶って嬉しい。見せてくれてありがとうございます!と空に向かって心で思う。

スケッチブックを広げて、よく観察しながら描いていく。しゃがむと相変わらずお尻が痛い。やっぱり身体が資本だわ、と立ったりしゃがんだりしながら描いた。スケッチは資料だから、絵画のようにしっかりとは描かない。誰に見せる訳でもないから、かなり適当。だけど、後で見ても大事な部分を思い返せるように、葉脈とか、その時の周りの音とか、匂いとかも一緒にメモしておく。

最近、ある人が素敵なことを言っていた。

「良いものとは純粋なもの。純粋なものは留まらない。循環していく」

そういうことを森はよく教えてくれると思う。そして森のように生きている人も、こんな風に身体の栄養になるような言葉をくれたりする。私もそんな作品を作りたいと思うから、我ながら歩みは遅いけれど、腐らずに、コツコツとスケッチしたり、手を動かしながら「良いもの」を感じる時間を大切に過ごしていきたい。

記事を読んでいただいてありがとうございます。いただいたサポートは、次のだれかの元へ、気持ちよく循環させていけたらと思っています。