「肩凝ってますね」というサービス

お久しぶりです。一か月ぶりの日記になってしまった。



ゴルフを始めました。
今暮らしている会社の独身寮には 7 人の同期がいて、なぜかゴルフが大流行。ゴルフをしていないのはついに僕だけになってしまった。同期で飲み会をするときなんかによくゴルフの話題が出てくるけど、僕は古(いにしえ)のゲーム、「スカッとゴルフパンヤ」以上の知識がないのでぽかーんとしているほかなかった。

職場の先輩からも「ゴルフしないの?」という誘い(圧力)が定期的にかかり、ついにゴルフを始めることに。三万円くらいの初心者セットを買おうと思っていたら、先輩に連れられて十万円のゴルフクラブセットを買わされてしまった。

自転車で盛大に転んで怪我をした。
この日は先輩に連れられて初めてゴルフの本コースに行く予定の日で、ゴルフバッグを担ぎながら先輩の家に向かって自転車を漕いでいた。

夜明け前の真っ暗な道を走っているときに、特に何かにぶつかったわけでもないのに急に車輪が止まり、慣性で前方に身を投げ出された。たぶん、自転車の後輪にゴルフバッグが巻き込まれたのだと思う。ヘッドスライディングのような姿勢でアスファルトに着地すると、自転車の本体が遅れて身体の上に落下してきて、なんてコミカルな構図なんだろうと思った。

上り坂の途中だったこともあり、それほどスピードが出ていたわけではなかったので大事には至らなかったけれど、左手と左肘に強い痛みを感じた。左手はおろし金で引っ掻いたように削れていて、小指に至っては包丁で切れ目を入れて数分茹でたソーセージみたいになっていた。

長袖だったので肘の状態は分からなかったけど、とにかく約束の時間が近いからと思って再び自転車を漕いだ。自転車からはタイヤがどこかに擦れる不快な音が響いていた。

先輩の家に着いて、自転車で転倒したことを伝えると、先輩は極めて冷静に、消毒用スプレーと絆創膏を持ってきてくれた。袖をめくって肘を覗くと血まみれになっていて頭がクラっとした。絆創膏を貼り終えると「そんじゃ行くか」と先輩が何もなかったかのように呟き、僕のゴルフバッグを車に積み始めた。正気か???と思った。

そして、驚くべきことにそのままゴルフ場に到着した。車に乗ってからは怪我については一切触れられなかったので、ああ、この人は後輩の怪我よりもゴルフを楽しみたいことに夢中なんだなと思った。

朝食を買うためにコンビニに寄ったので、そのタイミングで包帯を買って肘にきつく巻きつけた。不幸中の幸いに、ゴルフはスイングの際に左肘を曲げないほうがよいという性質があるので、プレイの支障にはならなかった。

そして皮肉にも、包帯で左肘を固定したことでフォームが修正されたのか、ゴルフの調子は非常によかった。OB を三回くらい出してしまったけど、最終スコアは 139 。ゴルフ歴一か月の初心者にしてはかなり上出来な方だ。

一度だけ、150 y くらいのショートホールでグリーンにワンオンできたけれど、パターが下手過ぎてボギーになってしまったのが悔しかった。

ゴルフを終えて帰りの自転車を漕ぐと、前輪が面白いくらい歪んでいた。高価な自転車ではないし、五年間も乗って十分に元は取ったので新しいものを買うことにした。

自転車を通勤に使用していることもあり、どうせ買うなら走行性能が良いものを買おうと思い、流行り(?)のクロスバイクに目を付けた。安いものは五万円くらいで買えるらしい。僕は通勤手当を年間で三万円くらい貰っているので、その二年分だと思えば悪くない買い物だ。

複数の自転車屋を回ったけれど、クロスバイクは予想以上に人気があるようで、気にいったものがあっても「最短でも 9 月の入荷ですね~」みたいなものばかりだった。さすがに納車までの数カ月の期間を徒歩通勤するのは嫌なので納期の短いものを探したけれど、納期が短く、かつ自分の身長に合っているものは数えるほどしか選択肢がなかった。

最終的にチョコミントみたいなカラーのクロスバイクを購入した。ヘッドライト、テールライト、ベル、スタンド、鍵、泥除けなどのオプションや盗難補償を付けたら合計で十万円くらいになってしまった。働いても働いてもお金が貯まりません。

髪を切った。
社会人二年目になったタイミングなので、そろそろ個性を出してもいいかなと思い、一年ぶりにパーマをかけることにした。普段通っているお店は毎回イメージと違う仕上がりになってしまうので、どうせなら新規開拓しようと思い、hot pepper でワンランク上の価格帯のお店を予約した。

大街道から少し外れたビルの一角にそのお店はあった。入店すると間もなくアロマのような香りが漂ってきて、明らかに今までのお店とは違う雰囲気が感じ取れた。ソファに案内されアンケートを書かされたけれど(初診の病院みたいですね)、質問欄に「普段読むファッション雑誌」みたいな項目があって、もちろん読んでいないので困った。「特になし」と記入したけど、空欄にしておいたほうが絶対によかったな。恥ずかしすぎる。

カットが終わりシャンプーに入るときに、アシスタントさんみたいな方が香水のような小瓶を運んできた。「シャンプーの香りはどうなさいますか」と言われ、瓶を開けてそれぞれの香りを嗅がせてくれた。なにそのサービスと思ったけど、僕は普段から香りでシャンプーを選んでいる人間だったのでこれはちょっと嬉しかった。

パーマをしている間には飲み物のサービスがあり、コーヒーとハーブティーを選ぶことができた。ハーブティーにも複数のラインナップがあり、そのなかからアサイーを頼んだ。ちゃんと美味しかった。ハーブティーを一口飲んで机にカップを置くと、「肩のマッサージをさせていただきます」と、今度は肩をもみほぐしてくれた。

「男性の方で、ここまで凝っているのは珍しいですね」と驚かれた。僕は「肩が凝る」という感覚がよく分からなかったけれど、確かに気持ちよかったし、肩が軽くなった気がした。

「肩が凝る」ことは本来良いことではないはずなのに、「肩全然凝ってませんね~」と「肩凝ってますね~」とでは、後者のほうが言われて嬉しいような気がする。何とも不思議だけど、「肩凝ってますね~」という言葉のなかに、気遣いであったり「頑張ってますね」というニュアンスが含まれているからなのかな。そう考えると、「肩凝ってますね~」というのは一種のサービス、ホスピタリティなのかもしれない。

髪型もいつものお店では考えられないほどにバッチリ仕上がった。やや価格帯が上のお店とはいえ、このサービスの内容にしては値段が安すぎるな、と思った。美容師さんがエレベーターまで見送りをしてくれて、姿が見えなくなるまで深々とお辞儀をしてくれたけど「そこまでしないでくれ~」と思った。

「お嬢様になったみたいな時間だったな」と思いながら岐路に着き、家の近所のコンビニに寄ると、チャラい感じのお兄さんにいつにも増して適当な接客をされて我に返った。

いい歳した成人男性なのに自分のことをお嬢様だと思い込むところだった。あぶね~~~~~。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?