台風が来る


ラジオで流れる台風情報を耳に
ドキドキしていた子供の頃

我が家の裏山は風雨が激しくなると
土砂崩れの危険があるため
台風が来るたびに避難しなけれならず

先の台風でヒビ割れたガラス戸に
ガムテープで段ボールを貼る母のそばで
キンコンと警報を鳴らすラジオにかじりつく

若い方は耳慣れないかもしれないが
この時代は台風の規模を「ミリバール」という単位で表現していて

私はmb、この表現が好きだった

台風がもたらす非日常感も嫌いではなく
まるで意思を持った生き物のように
日本列島を横断していく様は
畏るべき"自然"だと感じていた

ただ台風のもたらす
家が揺れるような風雨だけは苦手だった

「昔にはとんでもない台風が来てな。
湾から入ってくる奴は特に気をつけねばならん。
用心せにゃいかんぞ」

今は亡き祖父が繰り返していた言葉だ。
(このとんでもない台風というのは
室戸台風のことのようだ)

いざ本格的に直撃する頃には
布団にくるまって
家が潰れないことを祈り
無事に朝を迎えると
ホッと胸を撫で下ろしたものだ

都会にも雨は降る

一斉に鳴きだす雨蛙の喧騒が
耳に癒しをくれたことを思い出す

家も無しに
彼らはどこで風雨をしのぐのだろう?

濡れたアスファルトが匂い
じっとりとした熱気がまとわりつく夏

ふと天気予報を見る。
ああ…また来る。





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