動物としての感覚

「これは嗅覚なんです。嗅ぎ分けるもの」
「そう、感性ですよね。
いい悪いではなくて、好きか嫌いか、合うか合わないか」

午後8時すぎ、コウイチさんからこれから電話してもいいですかとLINEが入った。
仕事を終えた彼が、家に帰るまでの間の会話が、何となく日課になっている。
彼は、まりかのことを詮索しない。
まりかも、彼のことは詮索しない。
それでいて、何となく知りたいこと、聞きたいことが流れてくるから不思議だ。

「人間も動物だから。まりかさんからは同じにおいがする気がしているんです」
「感覚ですよね、肌感覚」

そう、動物としての感覚。直感。
それが間違っているか考えること自体が、ナンセンスなのかもしれない。
あまりにもよくできすぎている、とまりかは危惧している。
彼は自分の理想を、まりかにかぶせているだけで、本当のまりかのことなんてこれっぽちも見ていないのではないだろうか。
そんな自分が好きなだけではないだろうか。

「何を話さなくていいか考えなくてもいいのって、よくないですか」
「それ、すごくわかります」

いや、やっぱり違う。
彼は、まりかが好きなまりかを映してくれているように思えるのだ。
大丈夫だろうか。
まりか、大丈夫だろうか。
まだ油断してはならない。
そう言いながら、いまも彼とのたわいないやりとりが流れている。

「おしまいにしなくてよければいいのに」
「ずっとね」

若いカップルが、LINEをつなぎっぱなしで眠る、というのが、初めて1ミリくらい理解できた気がした。
でも、さくらまりか51歳、コウイチさんにガーガーいびきを聞かれる心づもりはまだ、できていない。
乙女心である。

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