「べスティング(=ストックオプションの権利確定までの期間)は4年」というルールがなぜ見直されているのか?

本日もCrunchbaseより、スタートアップでよく言われる"1 year cliff, 4 year vesting"のルール(=1年間働くと、全体の4分の1が買戻権から外れ、満4年で全てが買戻権からはずれ完全に自分の持ち分となる)が変わってきているというニュースをお届けします。
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Coinbase、Lyft、Stripeのような企業は、株式付与と権利確定のスケジュールに関し、新たな局面を迎えています。
新入社員に対し、一般的な4年後の権利確定を認める株式付与の代わりに、1年後の権利確定の株式を付与するようになっています。

これは権利確定の4年サイクルが、恐竜のように消えていく最初のステップになるかもしれません。
何が起こっていて、なぜこのオプションが見直されているのでしょうか?
従業員と雇い主の両方にとってどのような意味があるのでしょうか。
べスティング1年のプロコンとともになぜこれが起こっているのか、詳しく見てみることにしましょう。

A four-year vesting schedule is no longer the right fit as flexibility becomes the norm

テック企業とその従業員は、とても不確実性の高い環境の中にいます。昨年、給与カットを行う企業や、現金を節約しなければならない企業は、競争力を維持するために、より多くの株式を付与することとなりました。
この不確実性と優秀な人を確保するのが難しい状況の中で、多くの企業が4年後のべスティングではなく、1年のべスティングとなる株式を付与しています。

What are the pros and cons for employers?

1年べスティングは、雇い主にとって株式の希薄化を抑えるための柔軟性を得ることができます。4年べスティングの株式と比較し75%の株式付与を抑えながら、優秀な人に市場に見合う報酬を与えることができるかもしれません。

また、1年べスティングによって、人材を差別化する柔軟性を得ることができます。毎年能力を評価することで、4年間のロックを行うことなくパフォーマンスに基づいた株数を付与することができます。

ひとつだけデメリットがあるとすると、この1年後権利確定株式は、交渉の中で混乱や意図しない結果を産むことがあることです。
株式は多くの人にとって謎に包まれたものです。
4年間で20万ドルの株式の代わりに、1年間で5万ドルの株式を付与されることにためらう人がいるかもしれません。
企業は、報酬の全体像を説明し、候補者にどれだけの価値を付与しようとしているのかを見せる準備が必要です。

もう一つの課題は、1年べスティングは、優秀な人が会社に残るインセンティブが少なくなることです。
交渉のうまい候補者は、1年べスティングを会社がオファーするよりもさらに要求し、1年後に会社を辞めてしまうかもしれません。

What are the pros and cons for employees?

1年べスティングの株式をもらう従業員は、大きなアップサイドを得ることになります。一つ明らかなのは、全ての株式報酬を受け取るために、4年間ものロックアップをされなくなると言う事です。保有株式を現金に換え、新しい仕事に転職することが容易になります。
また、面接が得意でなかったり、交渉に精通していないような従業員であっても、仕事で自分の能力を証明し、パフォーマンスに基づいてよい報酬を得ることが容易になります。
入社後、1年目に素晴らしい仕事をすれば、2年目はより多くの株式報酬をもらうことができるでしょう。

ではデメリットはなんでしょうか。
一つ目は、保有する株式価値の指数関数的な増大の可能性が少なくなることです。以前であれば、4年べスティングの株式を得た場合、もしすべてがうまく行って会社が大成功すれば、保有する株式価値は4年後にとんでもない金額になるでしょう。

テック業界の優秀な人材獲得は非常に熾烈な争いになっており、1年べスティングの株式付与は新しい常識になりつつあります。企業は報酬の支払いの自由度を最大化したいし、従業員もどこでどのように仕事をするのかの柔軟性を最大にしたいのです。もしかしたら、テック企業の従業員がストックオプションで大金持ちになる可能性が低い方向に向かっているのかもしれませんが、パフォーマンスに基づいて年単位でよい報酬をえることができるようになるでしょう。

日本におけるべスティング期間のスタンダード

実際にいつSOを行使できるのか、を考えるとき際には「べスティング」に加え、「行使期間」と「行使要件」もポイントとなってきます。

日本のスタートアップでよく見るパターンは、
・べスティング:4年
・行使期間:付与決議日から起算して2年~10年(これは税制適格の要件を満たすためです)
・行使要件:上場するまで行使不可
そのため、未上場のスタートアップに入った場合、まず何より上場しないと意味がなく、さらに付与されてから2年たたないと行使できず、さらにそこから4年にわたって少しづつ行使できる、というのがスタンダードです。
つまり、スタートアップのExitがM&Aだった場合、SOは行使できません。
上場しても、SO付与後2年以内に辞めてしまったら行使できません。
イチ従業員の場合、思っているよりSOの価値を享受するのは難しいと思っておいた方がいいと思います。
従業員視点で働く会社を選ぶ際には、SOがなくても額面で満足できる報酬なのか?考えておくことをお勧めします。
また、Cクラスで入社する場合には、SOよりも生株を購入できないか交渉することをお勧めします。

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