あれが最後のセックスになると知っていたら、もっと彼にしてあげたのに。もっと触れ合う肌全部で彼を感じようとしたのに。 それなのに最後のセックスの手触りも、いつしたのかも私は覚えていない。 彼が突然亡くなってから一ヶ月以上が過ぎた。 享年三十四歳。心筋梗塞。若い頃の喫煙か、忙しさにかまけての運動不足か。歳のせいかと体のだるさや動悸などの体調不良に愚痴をこぼしていた彼。その中に初期症状があったかもしれないが、今更何をいっても仕方ない。 結婚して十二年。子供はいない。あん
なんとなく眠れなくて、私はベッドから抜け出した。 彼を起こさねように細心の注意をはらいながら。 私は部屋が真っ暗じゃないと寝つきが悪い。だから寝室に余分な光はない。手探りで部屋を進み、リビングに続く扉を開けた。 リビングにも余計な明かりはつけていない。閉めたカーテンの隙間から月明かりが漏れていた。そのカーテンに私は手をかける。 暗闇に慣れた瞳に眩しい程の月光が入ってきて目を細める。部屋に月光が満ちていく。 月明かりに慣れてきた瞳を開けると、目の前に広がる
彼と登山をした。登山といっても、普段の軽装で気軽に登れる低いものなのだけど。 愛情表現豊かな彼は毎日好きといってくれて、少しメイクに力を入れれば可愛いとべた褒めしてくれるような人で、その日もいつものように愛されてデートを終えるのだと思っていた。 これは彼の軽いと思っていた好きという言葉が、重かったと気づいた話。 「思ったよりも滑るね。坂も急になったし……」 息を切らせながら前を行く彼にそういった。 綺麗な景色に誘われて、ドライブデートの途中に寄り道をした。
第一話 出会い 待ちに待ったこの日がやっときた。 私ははやる気持ちを抑えて、あまり浮かれて聞こえないように気を付けながら、夫に行ってきますといった。 玄関まできて機嫌よく送り出してくれた夫は、まだにこにこと手を振っている。 その姿を見て少しだけ良心が痛んだが、私は夫に背を向け最寄り駅の方へと歩いていく。 駅の近くにあるコンビニの駐車場に見慣れた車が止まっているのを見て、思わず早足になってしまった。 運転席の窓をこんこんと軽く叩けば、スマホに視線を落としていた彼が顔を
初めまして! 現在官能小説をメインに創作しております、ゆりです! 活動は、小説投稿サイトへの投稿と、週二日ブログで記事を投稿しており、Twitterで、掲載するものの告知や日々のつぶやきなどをしております。 作品の傾向としては、 官能小説といってもあまり過激なものを題材にはしておりません。 普段そういったものに触れない人にも読みやすいものを心がけておりますので、気軽に読んで頂けると嬉しいです。 ブログでは、最新作の見どころを公開していますのでそちらも合わせてご利用