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OLIVE (映画マガジン)

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映画を観て感じた「!」をつらつらと書いていきます✏️ 映画メディア「OLIVE」(http://olive-movie.net) の公式サイトも是非のぞいてください!
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#note映画部

料理はアートのように、国境を越え人々をつなぐー『世界で一番しあわせな食堂』

フィンランドには、一度だけ訪れたことがあります。緑あふれるヘルシンキの街並みや、神秘的な力を秘めたヌークシオの森。 そのなかでも特に忘れられないのは、フィンランドをつなぐ空の色です。少し霞がかった淡いピンク色のグラデーションが、見渡す限り広がっていました。 映画「世界で一番しあわせな食堂」で映し出された空をみて、その時のことを思い出しました。 この物語の舞台は、フィンランド北部のラップランド。 “世界で最も空気がきれいな場所”と言われていて、本作の監督ミカ・カウリスマキはイ

「映画館にささやかなエールを」寄付金についてのご報告

4月より実施してまいりました、映画館へ寄付企画「映画館にささやかなエールを」についてご報告です。 約320名の方々のご協力により、総額30万円の寄付金が集まり、ご指定いただいた全国40館の映画館へお届けすることができました。 お届けした映画館は、以下になります。 ▼宮城県 フォーラム仙台 ▼東京都 UPLINK、新宿武蔵野館、新宿シネマカリテ、新文芸坐、ギンレイホール、下高井戸シネマ、シネマシティ、(K’s cinema)、ユーロスペース、シネマ・チュプキ・タバタ、シネマ

正義を貫くのは、愚かなことですかー「はちどり」

憧れの先生がいたこと。友達と授業をさぼったこと。自分の嫌な部分が目について、目を背けたくなったこと。 14歳の少女・ウニとは、生まれた国も時代も何もかもが違うのに、一つひとつの出来事がとても懐かしく感じられます。不安げな表情や時折見せる不器用な笑顔が、中学生の頃の自分のように見えてくるのです。 本作「はちどり」は、若さゆえの残酷さから目を背けず、わたし達の思春期に存在した日々をみずみずしく映し出します。 見守るという、寄り添い方。視線が心の扉をたたく平凡な家庭に生まれ、学

人とのつながりが、この世界をまた美しくするー「WAVES」

気づかぬうちに自分を責めていた、そう気づいたことが今までに何度もあります。嫌な思いをしている友達を助けかれなかったとか、正直な気持ちを言えなかったとか。そういった出来事がずっと心のどこかにあって、知らず知らずのうちに、いつまでも自分を苦しめている。それは誰しも経験のあることではないでしょうか。 映画「WAVES」では、自分の未熟さや他人を救えなかった後悔と向き合う過程を、兄タイラーとその妹エイミー2人の視点から描いています。 前編と後編でタイラーからエミリーへ視点がスイッチ

自分のまま、大人になることー「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」

自分の部屋で、SNSの世界に浸る主人公・ケイラ。その姿は自分の中学生時代の姿と重なります。mixiでクラスメイトのブログを読んだり、隣の学校にいる気になる人のプロフィールを見つけては喜んだり。SNSはまさに、青春の一部でした。 そんな日々を赤裸々に描く「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」は、誰もが過ごした青春時代の1ページを切り取った、宝物のような作品です。 メール、SNS、またLINEなどのアプリの登場は、コミュニケーション方法から人間関係の築き方までを、劇

「子どもが教えてくれたこと」 誰もの命が期限付き。それを物心ついた時から理解して、病気と向き合う子どもたち。不幸に見えるかもしれないけれど、彼らは誰よりも幸せのみつけ方が上手だと思いました。上手く行かなかったとしても「どう生きるか」が別れ道なのだと、子どもたちに教わりました。

さよならのあとも、関係は続いていくー「ぼくとアールと彼女のさよなら」

映画のトビラvol.1 「ぼくとアールと彼女のさよなら」(Me and Earl and the Dying Girl) ひねくれ男子高校生と、少女の出会い主人公グレッグは、一歩引いて学園生活を眺めている、いわゆるひねくれ者の高校生。学校のすべての国のパスポートを手に入れ、みんなとそれなりに仲良くして卒業したいと願っていました。物語は彼のユニークな視点で語られ、テンポよく進んでいくのですが、彼の前に少女レイチェルが現れることで、生活リズムが変わっていきます。 心の中で成

歌い踊るように、手話をする未来へ。ー「ヴァンサンへの手紙」

【ろう者】 生まれつき耳が聞こえないか、言語を聞いて身につける幼少期に聴力を失った人。 映画「ヴァンサンへの手紙」は、監督・レティシア・カートンさんの友人ヴァンサンが、自ら命を絶ってしまったことをきっかけに企画されました。 ろう者であったヴァンサンが抱えていた苦しみと向き合い、それを世の中に伝えるためにろう者の内面をとらえるドキュメンタリーを、10年かけて制作したのだそうです。 「聴覚障害」を持った人は、世界に約4億7千万人。つまり世界の約5%で、日本国内では10万人とい

100エーカーの森は、永遠のこどもの記憶。ー「プーと大人になった僕」

はやく大人になりたい。 こどもの頃、よくそう願っていました。しかし大人になった今は、「こどもっていいな、戻りたいな」と思うことがよくあります。 イギリスでは、1830年代から始まったヴィクトリア時代に、子どもを崇めるような風潮がありました。子ども時代こそが人生最高の時期だと考え、大人たちは幼少期の輝きを求めました。その風潮から生まれた作品が「不思議の国のアリス」、「ピーターパン」… それに続くかたちで、1920年代に「くまのプーさん」が刊行され、イギリスで愛されるようになり

楽器のように声を操る、レジーナ・スペクターの魅力。ー「映画音楽のすすめ②」

突然ですが、アメリカのシンガーソングライター、レジーナ・スペクターさんを知っていますか?主題歌や挿入歌として度々映画に登場していて、それから彼女の音楽を聴くようになりました。 音楽はクラシックで、ファッションはモダン。 チャーミングかと思えば、次の瞬間には大人びた表情をする。そんな彼女の二面性に魅了されました。今日は彼女の楽曲を、映画と一緒にいくつかご紹介しようと思います。 The Call-「ナルニア国物語 第2章: カスピアン王子の角笛」私が彼女の歌声初めて聴いたのは

迷路に出口はないと、認めるまで ー「悲しみに、こんにちは」

大切な人を失った時、まるで心にぽっかりと穴が空いて、自分の一部がどこかに行ってしまったかのような感覚になります。 悲しみの受け入れ方は誰も教えてくれないし、身体中の水分がなくなるくらい泣いても、悲しみは去ってくれません。 反抗したり、無気力になったりを繰り返して、しばらく時間が経ったあと、やっとの事で受け入れられるものだと思います。 映画「悲しみに、こんにちは」では、母親を病気で失った少女・フリダの物語で、彼女が静かに、ひたむきに、「喪失」と向き合う姿が描かれています。

性別が、生き方を別けない世界へ - Battle of the Sexes

「なんで、女の子は野球をやっちゃいけないの?」 私が小学生の頃に抱いていた疑問でした。もちろん「やってはいけない」というルールはどこにもありません。しかし、少年野球チームに所属していた頃、「女のくせに」と言われることは日常茶飯事でした。 プロの選手でも男女関係なく戦えばいいのに。 女子が勝つこともあるだろうし、女子リーグ・男子リーグと区別するから、それが差別を生んでしまうのではないか。 そう考えてきたのですが、1973年、既に「男性との試合」に受けて立った女性がいたのです

音楽は、もう一つの脚本。 「映画音楽のすすめ①」

映画は、映像と音楽が融合した芸術作品なのだと、最近つくづく思います。 「いい映画だった」と思う時はいつも、劇中の音楽にも満足していることが多い気がします。 素晴らしい物語と、素晴らしい音楽がぶつかり合ったとき、それは忘れられない名作になるのだと思います。 今日は、映画を通して出会った音楽を5つを紹介します。 ①City of Stars ーLA LA LAND第89回米・アカデミー賞など、数々の映画賞を席巻した「ラ・ラ・ランド」 鑑賞する前からサントラにハマってしまうほど

マイノリティに光をあてる。ー「フランス映画のすすめ VOL.1」

先月みなとみらいで開催された、フランス映画祭。日本へフランス映画を普及するために、1993年から毎年開催されています。オープニングイベントに参加する機会をいただき、行ってまいりました。 今年の映画祭の団長を務めたナタリー・バイさん。 「最強のふたり」でおなじみの監督エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュさんも来日しました。 映画祭では、彼らの新作「セラヴィ!」と、グザヴィエ・ルグラン監督の「カストディ」を鑑賞してきました。 **「セラヴィ!」 フランス映画祭2018