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【2分文学集】雨降るピアノ


ある日雨降るピアノを見つけた。
雨降るピアノって、なんですかって?
そのまんまなんです。雨が降ってくるから雨降るピアノです。雨降るピアノのそばにいると、必然雨に濡れてしまう。

ですから、ほらね、

ここに笠立があるでしょう。


それでは説明になっていないですって?
風の子ナノに聞いてみましょう。
ナノさん、ナノさん、風の子ナノさん、一体どういうことですか?
ほら、あなたのほおにひゅーと涼しい風がふいた。風の子ナノがそばにきましたよ。声が聞こえますか?


「こんにちは。ナノです。風にのっておそばにやってきました。お呼びいただきありがとう。お話は聞こえていましたよ。雨降るピアノのお話をいたしましょう。

あれは、100年ころ前のことでした。もっと言えば、101年と10か月10日。


ある小さな女の子の家にピアノが届きました。そう将来雨降るピアノになるピアノ。本当は女の子のおばさんが大切にしていたものだったのですけれど、おばさんはピアノを弾けませんでした。それでも、ピアノに憧れがあって、そのピアノを眺めているとなぜか幸せな気持ちになれたのです。
あるとき姪っ子のみいちゃんがおばさんの家に遊びに来ました。姪っ子のみいちゃんは、音楽が大好き。ラジオから流れる音楽を全身できいては踊ったりうたったり。自然ピアノにも興味を持ちました。

 みいちゃんとピアノ。おばさんの頭の中で、みいちゃんがピアノを弾く姿が想像されたのです。あらあいらしい。
おばさんはピアノをみいちゃんにあげたくて、

ピアノを弾くみいちゃんがみたくて、

みいちゃんが弾くピアノの音が聞きたくて、

居ても立っても居られなくなりました。
それで、ピアノを近所のおじさんのトラックにのせて、おばさんはいさましくハンドルをきり、坂を超え丘を越え、林を越え、みいちゃんの街までピアノを届けました。
みーちゃんは、それから毎日毎日雨の日も風の日も少しずつピアノを練習して、上手に弾けるようになりました。

しかし、どうもおかしい。
みーちゃんがピアノを弾くと決って、
雨が降る。

いやいやそんなはずはない。
だけど、

ぽろろん、

みいちゃんがひいくと必ず雨が降る。

ざー

音がやむと、ときには数分早いときは即、
雨はやんでおひさまが現れる。

そんなこんなで、
みいちゃんはあめふらしミュージシャンと言われたんです。
ほら、新聞にも出たのですよ。ちょっとした地元の有名人。

みーちゃんはそんなのおかまいなしで、

ぽろろん ぽろろん

ざーざー
しとしと

ほろろん ぽろらん
さーさー
じゃーじゃー

ある夏、
干ばつが起きました。みーちゃんの近くの街全体とさらに向こうの向こうまで幾日も幾日も雨が降らなかったのです。土は渇き、大地はひび割れました。砂漠がどんどん広がって、みいちゃんの住んでる街にもじわじわと近づきました。

そこで、みいちゃんは、おばさんに電話をしておじさんのトラックで来てもらうことにしました。
みーちゃんは、パパに頼んでピアノを
ママに頼んでピアノのお椅子をトラックにのせてもらいました。

みいちゃんは、弾きました。雨降るピアノを弾きました。

ぽろろんぴろろん
ぱろろん
ぷろろん

じゃじゃーんじゃんじゃん

運転手のおばさんは、いい音にうっとり・・・したのも束の間、
ざぁざぁごぉごぉと雨が降り出しました。
もうふた月近くも雨が降ってはいませんでしたから、
大地は喉がカラカラです。いくらでも水を飲めました。

みいちゃんは、あらまずぶぬれになっていたけれど、
大地が潤うのを見て喜びました。

ピロロン ポロロン ホロロン リロロン


たくさんの動物とたくさんの木も喜びました。虫たちも喜びました。
人も水の心配から自由となって、眉間のしわが地上から減りましたよ。

ポロロン ピロロン

あれから、月日が89年の月日が流れて、みいちゃんはすっかりいいおばぁさん。
天も大地も動物たちもみいちゃんに愛と感謝を送りましたからね、
みいちゃんおばあさんはちっともくるしまずに夢見るようにお空にいきました。

月日は止まらず流れに流れ、

ピアノの持ち主はいなくなったけれど、

不思議なことにこのピアノ、時々雨が降るのですよ。

音楽を奏でると、雨が降るのですよ。
まるで、小さな雲みたいにね。しとしと雨を降らせるのです。鍵盤を雨樋に、しとしと。

時々積乱雲。

だから、

ほらね、ここに

バケツがおいてある。

でもね、いつも降るとは限らない。

音とピアノとそれから何かが調和したときに、雨が降る。
音楽を楽しむ心かな。愛する心かな。
大地を思う心かな。
人を思いやる心かな。

***

おはなしおはなし~

ちょっと平和なおはなしでした。

絵つけてみたい方どうぞー♬お声かけてください。


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