才能

一芸に秀でた者もたくさん居ますよね。皆さんの周りにも「こいつには敵わない」と思う人が居るのではないでしょうか?

”才能”と一言で済ませられればそれまでだし。そこには裏での努力も含まれるのかも知れない。

少し思い出話。



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中学1年の頃、衝撃を覚えた人がいた。仮名Aさん。

Aはとにかく絵が上手かった。抜群に綺麗な絵を描く。Aは美術部で美術室に行くとデカデカと絵が飾られていた。

なのに、Aは美術の成績が常に1だった。
理由は簡単。テストの時寝ている。ほぼ100%寝ている。
同じクラスだったから知っている。
起きているのを見たことがない。

その頃、僕はAに嫉妬していた。「あんなのに負けたくない。」と。

今思い返せば、くだらない見栄だった。



ある日。美術の授業でAと隣で授業を受けることになった(正確に言うと、先生にバレないように席を移動して遊んでいた。)

Aはテストだけでなく、授業の課題も全部無視する。なんなら、僕の絵に落書きをしてくるような悪ガキだった。

なんで、こんな奴に絵の才能があるんだ。

当時の記憶は未だに覚えている。ムカついた。

そんな気持ちとは裏腹に次第に仲良くなった。
美術の時間はそいつと一緒に過ごす事が増えた。僕は死ぬほど課題に向き合って、そいつはヘラヘラしながらちょっかいを出してくるのが恒例となっていた。


2学期が終わった頃。僕の成績表は美術だけは常に5だった。

Aに「ちゃがねは絵上手いね!」と言われた

は?こいつは何なんだ。
自分があれほどの絵を描いておきながら。ふざけんなよと。嫌味かよ。と。

でも、話を聞くとどうやら本気らしい。

Aには先生に言われた課題は難しいらしい。好きな物を描く時は集中できるが、他人に言われた物を描こうとすると、途中で筆が止まるのだと。


この時、僕は圧倒的な”才能”を目の当たりにした。そして大きな勘違いをしていた。

Aの才能は絵を描く才能ではなく、好きな物を作る手段。

好きな漫画のキャラ、好きな動物、好きな場所。それを手元に置いておく為に自分で描く。欲しい物を手に入れる才能だった。


Aの家は裕福とは言えない家庭で、欲しい物を買う小遣いを貰っていなかった。だから結果的にそうなったようだ。

敵うはずがない。そもそも同じ競技をしていない。目的が違いすぎる。


何より「好き」になる熱量が違う。僕も好きな物を描くことはあっても、自分の絵で満足するわけがなかった。

Aはその壁をゆうに突破していて、限りなく本物に近い絵を描けるようになっている。好きになる才能だ。



分からないが、その時から僕はこいつと張り合うのは辞めた。そして、少し絵を描くのが億劫になった。


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2年後、中学校を卒業を間近にしてAに進路を聞いた。

「美術系の学校に行きたいけど私立だから行けない。うちにはそんな余裕ない。普通科の公立高校に行く。」

あぁ、まじか。才能が勿体無い。

そう思ったが口には出せなかった。大人の事情で、才能を絶たれる。無慈悲だ。そんな短絡的な事を考えた。


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その後、僕はAとは別々の高校に進んだが、高校に入学してからも連絡は取っていた。

ある日、メールが届いた。

「ねぇ!これ見て!」

そこには漫画雑誌の投稿欄に最優秀賞で見覚えのある絵柄が載っていた。間違いなくAのイラストだった。

笑けるぐらい上手かった。本当に笑った。
こいつと張り合い続けたら、もっと絵が上手くなっただろうか?
後悔もあった。その頃には僕は絵の道は諦めていた。

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大学に進んだ頃、あるタイミングで一度だけAに会った。
何を話したかは詳細には覚えていない。
Aは働き始めたようだった。仕事は一般職だ。

Aは幸せそうだった。安定した収入ができ、欲しい物が手に入るようになったらしい。

あぁ、そうだった。

こいつは元々欲しい物を手に入れるために絵を描いてたんだ。手段を変えて手に入れていた。

かっこよかった。本当に才能があった。自分の欲しい物を手に入れる才能。

周りが羨むような技術やセンスを持っていても、あっさりと捨てて自分の道を選択する。

最早、それは”幸せになる才能”だ。


美術系の学校なんかコイツには必要なかった。
才能が勿体無いとかじゃなかった。
いや、その道に進んでたら違う人生だったのかもしれないが、結果的に本人が満足した道進んでいる。

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人生は数奇なもので
結局、僕は僕で絵で飯を食ってたりする。

そして「幸せか?」と聞かれたら分からない。

そう思う度”幸せになる才能”でもAには敵わない。そう言うもんだ。


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そんなお話。ちょっと思い出しただけ。それだけ。



ちゃがね









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