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『TAR/ター』がぜんぜんわからない

『TAR/ター』
director:トッド・フィールド
Creation date:2022年


結論

わたしはこの映画がわからなかった
わからなかったから、いろいろ記事を読んみたんだけどそれでもわからなかった
もう一度見直してみて、これはわからなくてもいい映画なんだと結論づけることにした

この映画を見終わった後に手元のメモには以下が書かれていた

  • カタルシスを脱臼する映画

  • カタルシスが起こる気配だけが濃厚で、ひたすら焦らされる

  • 露骨とも言えるくらいの意図的な切れ味の悪さがあって、どうにも飲み込みづらい

まず、わたしは、この映画の主人公が明確にハラスメントをしていると捉えることができなかった

戸田真琴さんの引用

例えば戸田真琴さんは『ele-king cie serise 2023年間ベスト&2024年の注目映画』にて以下のように言っている(引用はすべて上記書籍より)

権力を持ち、ハラスメント加害者足り得る人が見えればおそらく不可解で不気味なホラーとして映り、被害者経験がある人にほど謎のないシンプルな話しに見える、レンチキュラーのような映画

ターが重ねるハラスメントは多岐にわたる。

完全に無害な人間などいないが、ターという人物はフィクションの中で扱う範囲をいささか逸している。

ターの人生には終わりが示唆されない。物語が抱えきれない悪人を描いてしまったとき、死などで過剰にさばくことも、美化して罪を無化することも、どちらも逃げだと言える。

ナイフを突きつけられた気分になった。わたしは鈍麻しているのだろうか。
わからない。けど、少なくとも「ハラスメント」だと断定するファクトは見つけられなかった
コンプライアンス観点で明確なNGは、

  • チェリストを旅に同行させたこと

  • もう一つグレーなのが、冒頭の生徒へのフィードバックが、公開 だったこと

この2点くらいで、他は解釈の余白を残しているように読めた
わたしがNGかもなと思った2点に関してもう少し掘り下げてみたい

ハラスメントを掘り下げる

一点目の「ハラスメント」:チェリストを旅に同行

これも事象だけ捉えればNGなんだけど、どんなコミュニケーションの結果チェリストの彼女”が”ついていく判断をしたのかは見つけられなかった
また旅中のチェリストの彼女と主人公の行動を見ていると、主人公の「アテは外れ」ているし「アテ」を承認させたうえでで同行させたようにも読めない
チェリストの彼女も「アテ」を見透かしたうえで、無視を決め込んでいるようにも読めた。つまりここでは、ビジネス上の力関係は動作していないように見えた

二点目の「ハラスメント」:公開フィードバック
そもそもあれは「フィードバック」も込みの授業なのではないのか
受け手の心的な動きに配慮のないフィードバックにはなっているが、それでもフィードバックとして機能していると感じた
そしてフィードバックに対する反論も許されているように見えた

ただ、これらも込みで、すべてわたしの読み方で「解釈」でしかない

この「映画」は結論を出さない

「映画」としての結論は出さないんだけど、主人公の活動は「解釈」されて判断がくだされる
「映画」として結論を出さないという判断は、カタルシスを呼び込むことを拒否し、ひたすらに脱臼させるという「語り」になる

例えば上の、集団フィードバックに関して言えば、決定的な動かしがたい証言ではなく、「編集された露悪的な映像」として証拠の提出がなされる
「捏造である」という主人公の抗弁に対する、反撃の一撃のような決定的な証拠は、劇中には登場しない
「ハラスメント」が行われたのかもしれない。「ハラスメント」
だったのかもしれないというキレの悪さを伴いながら、主人公は転落を重ねる

わたしの解釈

いかようにも「読める」この映画に対して、結論をつけて「わかる」ことは必要なんだろうか

必要かもしれない

問題は提起されているんだから、それに対して受け手が結論をつけてこの映画をわかることは大事かもしれない

でもわたしはこの映画をうけて、わかり、ポジションを作ることを選ぶのはやめた
というよりも、わかりにいくのが、とても難しかった
だから、わからないという状態がこの映画の「解釈」として正しいものとして、この映画を理解することにした

補足

タイのマッサージルームを案内された主人公が吐くシーンについての「解釈」

あの嘔吐は、見ず知らずのホテルマンに「買う人間」だと解釈されたことを主人公が理解した瞬間だと考えている
一連のいかようにも「解釈」できる事象をすべて「ハラスメント」だと判断され国を追放された彼女だが、
事象を知らない他国の人間からもそう「見られて」しまったという事実。
事象を伴わないにも関わらず「体臭」(自覚的でない人間性の残滓)からそう「見られ」てしまったことに対する、自己像の激しい揺れと嫌悪感に嘔吐したと解釈している

わかりやすく言い方を変えると、
「金と権力で性を消費することを当然だと思っている豚」であると他者から認定されたことに対する、受け入れがたさからの嘔吐であると解釈した

いろいろな引用

パズルのような構成で観るたびに新たな発見がある(伊東純さん)

映画秘宝2024年4月号

フリードキンを思わせる強烈無比な演出(岡村尚人さん)

同上

ハラスメントの認識がないけど罪の意識だけは一丁前にある加害者〜(略)(キ・ターヴォさん)

同上

愛蔵渦巻くパワハラ展開は重たいが、それが真実なのかは謎というシリアスな心の闇を映し出す(佐々木寿さん)

同上

もう一回みなおしてもいいかも


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