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春のごちそう

以前、コロナ前のことですが会食する機会があって、季節は春先だったことから若ごぼうの話になりました。

60歳台を頭に年代の散らばった数人が小さなグループとなり、その中の私以外の全員が毎年春になると若ごぼうの料理を作る ということでした。

我が家も母が元気な頃は、毎年若ごぼうが食卓に登っていましたが 、そういった気の利いた料理は子供の口に入ることがありませんでした。

母は年若くして病んだので、私は若ごぼうを食べずに大人になりました。

ある年の春先、父は思い出したように、久しぶりに若ごぼうが食べたいと私に言いました。私は若ごぼうを初めてスーパーで買いました。

寝たきりの母を父に任せての買い物なので、食材を吟味して買う余裕がない私は、必要なものをカゴに入れてさっさとお金を払って早々に家に帰り、若ごぼうを料理しようと袋を開けて驚きました。

茎ばかりで、根の部分が小指くらいしかない。
何なんだこれは?

当時はスマホは普及しておらず、レシピを知らない料理は「料理の本」を見て作る時代でした。つまり、手持ちの料理の本に載っていない料理を作るのは難しい状況です。

仕方がないので父に
「若ごぼうを買って来たけど、ごぼうがこんなに小さい。」 と言うと父は
「これは茎を食べるものだから、この茎を煮付けてくれ」と言うので

ごぼうを煮付ける要領で若ごぼうを煮付けました。

ごぼうというのは名ばかりで、まるでフキのような独特の香りに包まれてしっとりと柔らかく煮上がった若ごぼうを一口味をみて、びっくり!

フキよりも強烈なフキの香りを持つ若ごぼうというこの野菜はとても好きにはなれないと思い、それ以来若ごぼうは私の苦手なものとなり、以後父から若ごぼうを所望されることはありませんでした。

フキの権化を煮付けてから20年程経った後、みんなが毎年春の味覚として若ごぼうを味わっていることを知り、自分だけが物知らずであるような気分になった私は

贅沢でない程度に旬の物を味わう。

ことにしました。何度か挑戦していくうちに若ごぼうを食べ慣れていくにちがいないと信じて。

そんな誓いを立てた翌年の二月に母が亡くなり若ごぼうどころでない春が過ぎ、いろんなお別れが相次いで何が何やらわからないまま4年の月日が過ぎました。

去年の晩秋に信州で採れたもぎたてのリンゴを知人からいただいて、一口頬張ったときに数年前の誓いを思い出しました。

贅沢でない程度に旬の物を味わう

先日スーパーで若ごぼうを見かけて買いました。
クックパットでレシピを検索してみたところ、案の定若ごぼうには普通のごぼうには不要の下処理が必要であることを知りました。


適正に処理された若ごぼうは大層美味しく、かつて私が失敗したことを一言も指摘せず、何も言わずに食べてくれた父に、あのときの非礼を詫びて仏壇にお供えしました。

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