足、のこと。7

【ついに入院】

2015年7月21日、入院初日。担当ナース、若い。元気。なんていうか、整形病棟のナースはみな若く、ゆるふわ女子って感じの人が多い印象の中で彼女は、ソフトボール(またはバレーボール)やってました!という雰囲気がよかった。Aさん。次の日にはもう手術なので、入れ替わり立ち替わり説明があって、その間に買い物に出かけたり病棟内をうろうろしたり、あっという間の1日。大部屋で、想像通りおばあさんだらけ。長い入院生活の中でどうせ伸びるだろうしと極限まで前髪を切り、刈り上げまくったおかっぱのわたしは一人どう考えても浮いていた。部屋の人と仲良くなれるかな〜、というわたしのちょっとした転校生のような気持ちは初日ですぐくじける。全員カーテンを閉め切って、仲良くなるというムードは1ミリもなかったから。大部屋の個室、各々好き勝手に生活している。かつてわたしが違う病気で長いこと入院したときは、全然違った。病気が違うからかもしれないけど、みんなで一緒にがんばろうね、というムードが漂っていた。その時もわたしがダントツ若かったけど、励ましたり一緒に泣いたりふざけたり、仲良くなるのに年齢って関係ないかもな、と思ったもんだ。それはそれ、これはこれ。夜はノンアルビールで乾杯して、近くで買って来たうな丼を食べた(食事制限はないので)。まずすぎて笑った。わたしが、土用の丑の日だから絶対うなぎだ!うなぎを食べさせろ!といって買って来てもらったうな丼、1年たった今でもあのうなぎは本当にまずかった、と語り草になっている。

【その夜】

夜9時からトータル2リットルほどの、なんか変な味の2種類の飲み物を飲まされる。250mlのパック飲料が4つと500mlのペットボトルが2本。全身麻酔の手術をする人はもれなく全員飲まされる刑。術前の浣腸はないらしい。以後、翌朝5時までに飲みきったら手術前は絶食。まずくて飲めない、というほどではなかったけど9時の消灯から開始っていうのが...。真っ暗な中で、携帯の明かりでひたすら飲む手術前日の夜ってどうよ、と思った。直前にシャワーを浴びたので、そののどの渇きを利用して一気に!という作戦だったけどさすがに全部は飲みきれず、あとで飲もう、と眠りについたら昼間は静かだったばあさんの衝撃的な独り言がはじまる。「たすけて〜ください〜」ナースコール押しまくり、看護士のパタパタとやってくる足音。カーテンを開ける音。「どうしました?」「たすけて〜」違うところから、「いたい〜」とも聞こえる。何が起こってるんだ。助けてほしいのはこっちだ。明日は手術だっていうのに眠ることもできない、ため息と舌打ちが交互にでる。彼女たちは一晩中「かみさま〜ほとけさま〜たすけて〜」「いたいよ〜」と呟いていた。

【ドナドナ】

ほとんど眠れずに、朝。Aさんより、「眠れ…てないですよね、すみません。術後もこの状態だと大変だと思うので、手術受けてらっしゃる間に病室変えますので。もう少し若い方のいるお部屋にしますね。」と言われる。若い方...いるのか?と疑問に思いつつも、ホッとした。朝一番の手術なので、朝食抜きとは言え、そこまで空腹でつらい、というほどでもなく。血栓予防用の弾性ストッキングを履いて、手術用の浴衣のようなものをつけて、紙パンツをはいて手術室へ移動の時間を待つ。ここまできたな、という覚悟があった。緊張顔のAさんと、旦那さんと母親とともに手術室までゾロゾロと移動。「ドナドナ」の歌が頭の中に流れた。じゃあね、いってきますとドアの前で別れる。ドアが閉まった瞬間に、この扉の向こうではまだきっと動けずにいる旦那さんと母親がいるんだ、早く会いたい、と思った。


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