足、のこと。4
【その他の治療法】
整体、運動療法、温熱療法、などなど。考え方としては自骨を保存、温存しつつ、歩行姿勢を矯正したり患部をあっためたり簡単な体操をしたりして痛みを和らげましょう、変形性股関節症の進行を止めましょう、みたいなことなんだと思う。これはかなりざっくりした書き方だし、どれもちゃんと続けたわけじゃないからハッキリとしたことはよくわからない。ただ一つ思うのは、保険診療じゃない治療法って、どんだけ金持ちがやってんの?ということくらいか。1回1万程度かかる治療を週に1度、1年以上かけて効果は人によります、なんてわたしには選択できない。まわりに病気の人がいるときに、親切心で「あれがいい」「これがいい」とすすめた経験はないだろうか。そんなときはもう一つ、相手の懐事情も想像できる優しさをもってほしい。生活を圧迫するほどの治療法をすすめるなんて、それはそれでけっこうな暴力だから。
【大学病院診察】
紹介状、というやつをもって慈恵医大第三病院へ。2015年1月。痛みが出てから約半年たってしまった。一通りの検査をして、いくつか質問をされ、「変形性股関節症ですね。でも今のあなたの骨の状態ならRAOの適応内だし、予後もよいと思います。で、いつやりますか??」と初対面の大谷ドクター。え、何、せっかちすぎない?名医ゆえ?1分でも惜しい感じ?わたしまだ手術するとも何も言ってないんだけど...。「すみません今日は答えられません、主人とも相談しなくちゃだし、仕事もあるので。」「ああ、そう。でもこれは、あなたもわかってると思うけど骨の状態がよいうちにやる手術だからね。悪くなってからではできないから」と釘をさされ、1ヶ月後にもう一度診察にくること、そのときまでにどうするか考えておくこと、を約束する。ご職業は?仕事って何やってるの?と聞かれ、役者です、今日もこれから芝居の稽古なんです、とは言えなかった。
【手術決定】
2度目の慈恵。2015年2月。旦那さんをつれていく。大谷ドクターのスピードを食い止めるためには、味方が必要だ。一人じゃ丸腰すぎる。舞台の稽古、本番を迎える中で旦那さんと話し合った結果、わたしの気持ちは手術を受ける方向に向かっていた。だいぶせっかちで気が早いけど、自分の腕に絶対の自信を持っている大谷ドクターのことは、直感で、いいな、と思っていたのだ。「わたしの足はよくなりますか?」「よくするために手術するんですよ。」この言葉だけで、わたしはこの人を信頼できる、と感じた。そして手術をするなら、5月は舞台もあるし、夏は遊びたいし、冬にしちゃう〜?なんて考えていた。入院の日数が長いこともあり、思う存分やりたいことをやってから手術にのぞもう、だから大好きな夏だけは絶対に避けたい、そう思っていたのだ。「手術を、受けようと思います。」「はい。じゃあ、最短で4月が空いてますよ。入れちゃいますか?」待って!!!!!!4月無理!!!忘れてた、いや、忘れてたわけじゃないけど、大谷ドクターのスピードはわたしの想像を遥かに超えていた。どう考えても4月は無理、5月本番だよ!「4月5月はちょっと...仕事の調整がつかないので...」「ああそう、じゃあ夏は?7月が空いてますよ」「...こちらとしては、今年の終わりくらいにと考えていたのですが...」「!?」今度は逆に大谷ドクターが驚く番だった。「なんで?夏は何かあるんですか?仕事の調整はきかないの?」どうしよう、それっぽい答え何も用意してなかった...パートやってますとか言っちゃったのに2月から夏の仕事の調整つかないとかさすがにあり得ないし、シュノーケリングとキャンプが死ぬほど好きなんですなんてこの状況ではとても言えない...。「いや、夏はちょっと...」頭の回転がありえないくらい早くなってる大谷ドクターはわたしの語尾の「...」くらいの時間で何かピンときたらしい。「あ!何、感染症とか気にしてる?夏だと傷口の治りが遅い〜、とか、シャンプーできないからいやだ〜、とか考えてます?あのね、病院は涼しいから感染症とかまずないですし、シャンプーも看護婦さんがしてくれますからね。」「それより、手術が遅れる間に今ある軟骨部分が1ミリ減ったら、術後の股関節の耐久年数が3年減りますよ。」「...別の病気でかかっている病院の検診も7月に入ってますし...」「じゃあそれをずらすことはできるんですか?」「ちょっと電話してみないとなんとも...」「わかりました。じゃあちょっと一旦考えまとめてもらってきていいですか?」ようやく解放されるわたしたち。「夏にしたら...?海もキャンプもさ、また来年行けばいいじゃん。」と言う旦那さんの言葉は正論すぎて「そうなんだけど、さ...」以上の言葉はでてこなかった。わたし以外の人はみんな正論を言っている。手術をするなら早い方がいいに決まってるし、海もキャンプも今年にこだわることもない。ただ、わたしがわたしのために何百歩も譲って、本当はしたくもない手術を受ける時期を決めることすら許されないなんて、悲しくって仕方なかったんだ。それでも、結局わたしは手術を夏にすることに決めた。わたしの軟骨が1ミリでも減る前に、わたしのために。
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