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深夜に、80円のアジフライを食べながら考える

惣菜コーナーで80円のアジフライを買った。
俺みたいだった。
最後まで誰の手にも取られなかったアジフライ。ただ値段が安いという理由だけでなんとなくとったアジフライ。
俺は多分誰の手にも取られないから、このアジフライより厄介だなと頭の中で悪態をつく。



深夜も4時を過ぎると、心がすり減って嫌な事ばかり考える。
BGMは回る洗濯機の音と、俺の咀嚼音だけだ。

人生を考える。

この家も広くなった。

付き合っていた彼女には浮気され、貯金はスペインを旅して全部無くなった。
無くなったどころか荷物やカードを盗難にあい、借金も増えた。


東京で生きていく為のお金も、重くのしかかる。
家賃に電気代、年金や国民保険、ネット代、駐車場、
そんなお金を払うために仕事をしてそれを払うだけの日々。

何も進展しない日々。


正社員でもない俺は、使い捨ての駒にすらなれない。
何の保証もない、誰からも頼られない、自己肯定感が下がる毎日。
3歩進んで4歩下がっている気分だ。


大学を卒業してすぐ、俺がゲーム制作会社に勤めた。
だが、いわゆるブラック企業だったそこを1年少しで退社した。
そしてパニック障害を発症して、俺は電車に乗るとストレスがフラッシュバックして吐くようになった。

あの頃よりは辛くない。そう思ったけど、意外とそうでもない。
今は、前に進んでないのだ。

あの頃はブラック企業でも、やりたいことをやっていた。
好きな音楽を仕事にして、心は今より豊かだった。

今は、やりたいことはたくさんあるが、それは仕事ではない。
お金を稼ぐために、好きでもないことをする。

好きなことをするには時間もお金もない。
毎月、生きるためだけに仕事をする。何のために生きているんだろうか。


ちらっとインスタグラムを開いた。

同級生の女子が、旦那と子供と手を繋いでデートをしていた。

ページをスクロールする。

また、中学の同級生が子供と水族館に行っていたようだ。


みんな、成長している。

きちんと大人になっている。

俺だけがずっと、前に進めずにいる。


脳みそにもやがかかる。涙を出しても、意味がない。
ここには一人しかいないからだ。
誰も慰めてもくれないし、誰もハンカチをくれない。

俺は男だから、傷ついても感傷的になっても、誰からも慰められず一人で強く生きていかないといけない。

頭の中で悲しみを反芻させる。


明日死のう。幸せな奴らをなるべく多く巻き込んでから死のう。



そんなことを考えながらテレビを見ているとニュースが流れてきた。

『30代の男が刃物を持って4人切りつけたようです…』

俺はハッとした 危ない危ない ああいう人になっちゃいけないな。

コメンテーターのお笑い芸人が言う。
『本当に意味分からないですよ。頭おかしいんちゃいますか!?』
『弱いものばっか傷つけようとしてね、死ぬなら一人で死ねっちゅうねん!』

ああそうかこいつらは分からないんだな。弱者の気持ちを。
これは、生存性バイアスだ。

テレビに出ることができて、コメントを残したり、流れてくるニュースに一端の価値観を残せる時点で、この人たちは勝者なのだ。
そもそも本当に負けたものは、そこにすら立てない。
そしてその勝者のコメントが世論となり、世間の価値観になっていく。
負け組の考えは、世間には一切出ず、ゴミ箱の奥へ消えていく。

もう一度ニュースサイトを見る。
『30代の男性が刃物をもって切りつけて…』

ああこいつは俺だ。少しズレた俺だ。
多分、みんなそういう心はあるんだ。
人を傷つけたくなったり、どうでも良くなってしまったりするんだ。
それをギリギリのバランスで、綱渡りで踏みとどまって、社会性を維持しているんだ。
でもね、俺には分かる。悪いことが続いたり辛いことが重なって、そのバランスが崩れた時、誰でもこうなる。
そうやってやけになって事件を起こしたやつに勝者が言う。
『頭おかしい』『なんでこんなことするんだ』『気持ち悪い』『社会不適合者』


(それは正しいんだ。全て正しい。あなた達勝ち組の尺度が全て正しいから、だから一番困るんだよ。
でも、正しい生き方なんて分かってるんだよ。分かってるけどそれは、誰にでも出来ることじゃなくて・・・・)

ピーーーーーーッと音がなった。洗濯機の音だ。
今日の俺の一日のゲームセットの笛のようだった。
何もなしてない1日。多分俺がいてもいなくても、何も変わらない東京の1日。


アジフライは、昔お母さんが作ってくれたものより不味かった。
でも、それを噛み締めた。

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