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「視える子」#怪異が本当に出る町 より

中学生時代の友人に『視える』女の子がいました。決して目立つタイプではありませんでしたが、時々ボソッと、「あの階段は霊がいるから別の階段を通ったほうがいい」とか「奥の空き部屋には悪いモノがいるから入ってはいけない」などと言うのです。
そんな彼女に、初めは興味本位で話しかける子もいたのですが、ある生徒が「アイツの話はでたらめだ」と言ったことをきっかけにして、みんな彼女を避けるようになりました。
彼女もそれ以上、自分から周囲に話しかけることはなく、休み時間には一人で過ごすようになりました。
ただ、関係が希薄になったものの、どこかで彼女の話が心に引っかかっていたクラスメートの多くは、彼女が行くなと言った場所に、近づくことはありませんでした。

一方で、そんな彼女の言葉に影響される状況が面白くない人達もいました。
特に、彼女の話がでたらめだと言い出した生徒はその急先鋒で、何かにつけて、彼女を侮蔑する発言を繰り返しました。でも、彼女はそれに対して何の反応も見せません。その態度が、ますます彼らの加虐心に火をつけてしまいました。

ある日のことです。彼らは強引に、彼女が行ってはいけないと忠告した奥の空き部屋へと彼女を連れて行きました。そして、彼女に言ったのです。
「この部屋の何処に霊がいるんだ。証拠を見せてみろ」って。
彼女にとって、それは非常に困難なことでした。なぜなら、彼女には当たり前のように霊は視えているもので、視れない彼らにどんなに「そこに霊がいる」と説明したところで、何の証明にもなりません。
そんな事情も理解できない彼らは、押し黙る彼女を激しく責め立てました。自らの発した言葉に興奮した彼らは、やがて彼女に、暴力を加え始めます。
彼女は小さな声で「止めて」と言って小さくなってうずくまります。
しかし、ここはほとんど誰も来ない空き部屋。彼女を助ける人間などいません。
一度火がついた彼らの暴力は止む気配はなく、これまでに溜めた鬱憤を晴らすかのようにエスカレートしていきました。

でも。
その部屋には。
視えないかもしれないけれど。
霊は本当にいたのです。
『私』という存在が。

あとは、そう。
あなたが知っている、集団失踪事件のニュースの通りです。
戻ってこない子どもたちを探しに来た職員により、傷だらけで倒れていた彼女があの空き部屋から発見。病院に搬送後、頭を強く打ったことによる記憶喪失と診断されました。他の生徒は行方不明。暴力事件の発覚を恐れた生徒が自ら失踪したのではないかと報じられました。

彼らの本当の行き先ですか?
まあ、あなたがいつかきちんと『視える』ようになったら、あの空き部屋で会うことができると思いますよ……。

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