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届かない未来と過去へ捧ぐ。(前編)



「この曲が人生最後の僕の代表曲だったら」
この曲を初めて聞いた時は去年の11月頃だったか。
アコースティックギターを片手にマサがふと口ずさんでいた。

その時にはまだギターのコードをただ弾いてるだけだったから、歌詞もメロディもはっきりしない。
ただ僕は何故かぼんやりと、ものすごく広大な自然、そして静寂の中ポツンと1人立ち尽くす若き青年が浮かんだ。

彼はそこでなにを思ってるんだろう。
何故この場所にいるんだろう。

答えを見つける為に、フル尺のデモを待つ。

完成したデモを聞き、まだ半分ほどしかない歌詞に目を通す。
ふと思う。
「彼はきっと耳が聞こえない」
何故そう思ったのかはわからない。
ただ感覚として、圧倒的な静寂に立ち尽くす彼には
その静寂すらも聞こえないのだと思った。


「この曲が最後の代表曲になってしまったら」



アーティストにとってそれは想像したくもないもしもの話。
でもそれでも、いつまでも良いものを生み出せる保証はない。
そもそも「"良いもの"ってなんだっけ?」
他人から求められる理想と期待、
自分から込み上げてくる確信と不安。
その狭間で葛藤しながらモノづくりを続ける僕達は
"良いもの"を見失いそうになる。
自分自身を信じられなくなりそうになる。


そんなマサの純粋な心の声が、聞こえた気がした。



「これは俺たちの曲でもある。そうだろ?」

すぐさまマサに伝える。
その日は2EP 「DUMELA」のティザー撮影で
マサの家を借りていて、
撮影が終わった後共にラーメンを食べていた。

今なんの気無しに啜ってるこのラーメンも、
こうして活動できてる俺たちも、
きっと誰かが願って叶わなかった明日かもしれない。


はっきりと思う。
この世は不条理だ。
正直者が正しいわけでもないし、
嘘つきがいつも間違っているとも限らない。
ただ純粋に願っただけの想いだって、
夢物語で終わることなんてザラにある。

ふとした瞬間に、
自分ではどうにもできない出来事が
目の前を覆い、未来を奪ってゆく。

だとしたら今僕達が歌えてるのは何故なんだ?
まだ諦めずにいれるのはどうしてだ。
そこに答えがあると思った。


逆再生にしよう。


時間の流れは残酷にも前にしか進まない。
僕らが歌っている今も、未来でさえも見失いそうになるのなら、
僕らが作ってるものくらい過去に目を向けたって良い。
巻き戻せない過去だって、
諦めざるを得なかった未来だって、
きっと過去から何かを掴んで今に繋いでるはず。
そう思い、MV自体をひっくり返してやろうと思った。
僕らはいつだって結末を気にする。
だけど、音楽を始めた頃、初めて触れた時、
もっと純粋な何かを感じたはずで、そっちの方が大切なんじゃないか、そう思った。



しかしそこで現れる。
静寂の中立ち尽くす一人の青年。

真っ直ぐ太陽に手を差し伸べる姿が見えた。


その瞬間答えが分かった。


「彼は、不条理にも夢半ば諦めざるを得なかった名も無き青年だ。」

"音楽で生きていきたい"


純粋にただそう願っただけの青年。
満足に暮らせてはないし、
歌だって売れてない。
だけど諦めきれず走り続ける青年。


そして突如訪れる静寂。
何故かはわからなかったが、
彼は夢を追う人生を奪われる。
耳が聞こえなくなるのだ。


説明不足かもしれない。
「なんで聞こえなくなるの?」
「彼はどんな音楽をどこまでやってたの?」


もしそう思う人がいたら、大変申し訳ない。
ただその質問自体野暮な事。


圧倒的な不運、不条理な出来事で音楽を続けられなくなる、夢を諦めざるを得なくなる事。
これは誰にだってある。起こりうる事。


大切なのは、ただ願っただけの青年の、
願った人生とその希望の光を即座に奪われてしまった事。


そう思った瞬間、僕らが音楽をいまだに続けられているのはある意味運でしかないのかなと思った。
と同時に、まだ音楽という渦の中に立っている僕達はそんな名も無き青年達の想いも全部背負って
歌っていかなきゃいけない。
そう決意した。


となれば作らなければならないMVの構成は即座に決まる。

・主人公である青年
・それを支え共に生きたパートナー
・決意した僕らDannie May


この三者が必要だ。
共に生きたパートナーと言うのは、
不条理にも夢半ば倒れることと言うのは、
それを生きる主人公だけでなくそれを支える誰かの人生まで狂わせてしまう事があるはずで、
それを表現するために必要だった。

Dannie Mayについては、今まで意図的に僕らの演奏シーンを出してこなかった。
単純にMVの物語に乖離してるシーンを入れたくなかったからという理由だ。
だから入れる際は必ず物語の全体像に沿うような形にすると決めていた。
今回がまさにそうだった。


主人公の青年はそうだ。
あの日諦めざるを得なかったかもしれない、
違う未来を辿った僕らをイメージしながら作ろうと思った。
だから年齢は近いほうがいい。20代だ。


主人公。
この青年を誰に演じてもらうのか、とても難しかった。
しかしまたしてもこの男、山田ジャンゴは素敵な方をキャスティングしてくれた。
毎度毎度頭が上がらない。


主人公は諏訪珠理君。
【Instagram】
https://instagram.com/suwashuri?igshid=6r1xuchzm5ny


純粋無垢に夢を追い続けた青年。
20代半ばにして夢を諦めざるを得なくなった青年。
そんな愚直とも悲哀とも取れる主人公に彼が持つものは素晴らしいほど合致した。
後述するが、今回の撮影は正直怪我人が出てもおかしくないほど過酷だった。
にも関わらず彼は演技に対する情熱の灯火を絶やすことなく向き合ってくれた。
本当にありがたい。
彼との撮影秘話は本当に途方もない撮影だったので、次の記事か何かで語りたいと思う。
一つには収まりきらない。笑




共に歩んだパートナーだが、
これは献身的でそれでいて自立していて、力強い女性が理想だった。
記憶を辿る。
抜擢な方がいた。

Yumikaさんだ。
【Instagram】
https://instagram.com/yyyumikaaa?igshid=1uxs6pdimyhmq


彼女は実はもともと僕の知り合いで、
以前Saya.さんというシンガーソングライターのMV撮影時に知り合った方だ。

ちなみにこのSaya.さんという方はこれまた素敵なシンガーソングライターさんで、
「私生活」という楽曲のMVを制作させていただいたのだが、
彼女の等身大で真っ直ぐな思いと営まれる生活の日々が映し出されている素敵な楽曲だ。
もしご存知ない方がいれば、ここにリンクを貼っておくので是非チェックしてみて欲しい。

【YouTube】
https://youtu.be/EMJiburveII


もとい、「私生活」の時の表現力の豊かさに感銘を受け、Yumikaさんに今回お願いしたいと思った。

内容を伝えたところこれまた快諾してくれて、
順調に配役は整った。



今までの記事を見てくれた人ならお分かりだと思うが、
僕らの撮影は1日に内容を詰めすぎて本当にいつも大変な思いをする。
それがよくないと思い、今回は全行程を三日に分けて撮影する事にした。


1日目 共に歩んだパートナーパート

2日目 主人公パート

3日目 Dannie Mayの演奏シーン


という感じ。


これで1日あたりの撮影時間は減るし、みんなの負担も少しは減るだろうと踏んだわけだ。


この浅はかな考えが、Dannie MayのMV史上最も過酷な撮影にさせてしまうことはこの時は知るよしもない。


撮影の幕が静かに上がってゆく。


今日はここらで終わりにしよう。
あの三日間を語るにはもう少し、時間が必要だ。

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