血小板ってどんな働きするんだっけ?

果てしなく怖がりの私がピアスホールを開けた理由は、大別すると2つある。ひとつは不器用すぎてイヤリングがつけられないから。もうひとつは、巷で話題の映画「JOKER」を見に行きたいから。後者に豪快な文脈破綻が見られるけど、ちゃんと説明できるよ。ネタとして友達に話したらみんな悲しそうな顔になってしまったので、ここに書くかは考え中だけど。

とにかく、私の身体には今、ピアスを受け入れるホールが2つ。

痛みは想像していた程度で、服の着脱や寝返りに支障はあるものの、まあこんなもんか、で済んでいる。
そんな現実的な不便よりも、ふとした瞬間、「耳に穴が開いている」という事実に堪らなくなってモゾモゾしてしまう。深夜、よそよそしい布団の中で宇宙について思いを馳せるみたいな、あの身動きのとれなさ。圧倒的現実と、身も蓋もない俯瞰に叫び出したくなるけど、不用意に暴れてはいけない。それを本当に認識して、実存に見つかったら、気が狂ってしまうから。

私の身体に穴が開いている。金属の棒が貫通し、安いプラスチックの青色が両耳に輝いている。しょうもない顔の造形を多少華やかにするしょうもない飾りつけのために、身体に穴が開いているのだ。
皮膚科の診察代には、ファーストピアスの値段も含まれていた。「穴を開けた直後は、体が傷を塞ごうとしちゃうんです。だから、最低でも1ヶ月は外さないでくださいね」と看護師さんは言う。
私の耳たぶは、唐突に出来た潔い外傷に、さぞ仰天したことだろう。血小板(じゃなかった気がする、生物弱いからわからん)、突然の繁忙期。綺麗に貫通した傷を塞ごうと慌てて現場に向かっても、「だめです、何やら壁が立ちふさがっていてこれ以上進めません!」「くそ、ここも駄目か……何とか隙を探せ!」「見てもないのに無茶言わないでください!この壁は絶望的です、事件は現場で起きてるんだ!」「会議室には会議室の闘いがある!何が何でも細菌の侵入を許すわけには行かない。37兆の細胞、ひとりの人間の身体がかかっているんだ!!」
突貫工事の指揮官は残業に次ぐ残業、部下からの反感も娘の誕生日も眼中になく、一心不乱に働き続けるけれど、穴の形に沿ったチタン金属が消えることはない(私はビビりなので病院で言われたことは守る)。やがて工事は打ち切りになり、彼は失意にまみれ退職届けを出したりするかもしれない。仕事一筋だった真面目な彼の、セカンドライフが心配だ。
ピアッサーの爆音と共に破壊された耳たぶを治癒するため健気に立ち回る細胞たちは、当の体の持ち主がそれを望んだと知ったらどう思うのだろう?しかも、わざわざ病院まで出向いて。9000円も払って。消費税値上がりしたから一万円札出しても100円玉しか返って来ないのに。私が細胞だったらストライキを起こすかもしれない。それなのに、今朝も変わらず目が覚めた。君の生命力を、いつだって無駄使いする私でごめんね。

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