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【追悼】小澤征爾さん 逝く

「コンサート、映画、演劇 鑑賞記」を始めるに当たり、この記事から始めなければならないことはとても切ないです。
でも、クラシック音楽好きとして、そしてかつて実演に接した者の一人として、取り上げないわけにはいきません。
世界的指揮者の小澤征爾さんが、2月6日に逝去されました。
ここ数年、自宅で24時間態勢の看護を受けているとの情報に接していたので、遠からずこういう日が来ることを覚悟していたのですが、その日がやってくるとやはり寂しくて、悲しくてたまりません。

TBS「オーケストラがやってきた」

小澤征爾さんの名前は、クラシック音楽を聴き始めた頃から、すでに知っていました。70年代後半当時の鳥取ではNHK「音楽の広場」、TBS系「オーケストラがやってきた」の2つのクラシック音楽番組が放送されており、小澤さんは「オーケストラがやってきた」に時折出演して、オーケストラや合唱団を指揮したり、クラシック音楽の成り立ちや構成、音色の秘密を分かりやすく解説していました。
※朝日系で放送されていた「題名のない音楽会」は鳥取では放送されていませんでした。
その頃、小澤さんはボストン交響楽団の音楽監督として、欧米をまたにかけて活躍していました。

1986年10月 小澤征爾指揮、ベルリン・フィルハーモニー演奏会

1986年10月。東京・六本木にクラシック音楽専用ホールとしてサントリー・ホールが開館しました。オープニング・コンサートの目玉として、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が3夜にわたって演奏会を開くことになっていました。
ところが、来日直前にカラヤンは病で倒れ、代役として小澤さんがベルリン・フィルを指揮してオープニング・コンサートを指揮することになったのです。
10月29日。大学の吹奏楽部の後輩と一緒に、上越市から東京まで、はるばる自動車を飛ばして、聴きに行きました。

<曲目>
〇ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調
〇ブラームス:交響曲第1番 ハ短調

ドイツ音楽の精髄を並べた王道のプログラム。小澤さんは、大きな動きで、唸り声を上げながらの熱い指揮で、黒光りのする重厚な響きのベートーベン&ブラームスを聴かせました。
カーテンコールで、何度もステージ中央に出てきて、手のひらを胸の前で握り合わせて感謝の意を表しながら、にこやかに拍手に答えていた小澤さんの姿が思い出されます。
私が小澤さんの実演を聴けたのは、この一度きりでした。

1995年1月 小澤さん、32年ぶりにNHK交響楽団を指揮

小澤さんとNHK交響楽団は、1962年に双方の練習への取組や音楽作りに対する考え方の相違から仲違いし、その後和解はしたものの、小澤さんは長らくN響を指揮することはありませんでした。
しかし、1995年1月にN響が行った「けがや病気の楽員のためのチャリティー・コンサート」を小澤さんが指揮し、盟友であるチェリストのムスティスラフ・ロストロポーヴィチも出演することが決まったのです。
このコンサートはTVで視聴したのですが、冒頭に、直前に起きた阪神淡路大震災で亡くなられた人たちのために、バッハの「G線上のアリア」が演奏されました。その痛切な響き、慟哭の響き。受信状態の悪いTVの音声でしたが、こんなに胸に迫る悲しみの音楽は初めてでした。
<曲目>
〇バッハ:G線上のアリア
〇バルトーク:管弦楽のための協奏曲
〇ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調
〇バッハ:サラバンド
正規のプログラムのバルトークもドヴォルザークも、それまでN響が出したことのないような、精緻で雄弁な音楽でした。

晩年・・・・病との戦い

21世紀に入って、小澤さんはウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを指揮したり、ウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任したり、精力的な活動を続けていました。
2004年に起きた中越大震災の時は、長岡市を訪れ、被災した人たちのためにチャリティー・コンサートを開いてくれました。
ですが次第に、重い病気やそれに伴う手術、年単位での休養と復帰が繰り返されるようになりました。
時折TVで見かける姿も痛々しいものに変わっていきました。
初めて、そして一度だけ小澤さんを実演で聴いた1986年10月、髪を振り乱し、唸り声を上げながらベルリン・フィルを指揮していた時から、長く苦しい月日が過ぎていったことを感じずにはいられませんでした。

ありがとうございました

私は、熱狂的な小澤さんのファンというわけではありませんが、ずっと聴き続けているCDやDVDもあります。
1988年に日本の晋友会合唱団とともにベルリン・フィルと録音した、オルフの「カルミナ・ブラーナ」。
1993年にベルリン・フィルと演奏した「ヴァルトビューネの森コンサート-ロシアン・ナイト-」。
前述した1995年1月の「けがや病気の楽員のためのチャリティー・コンサート」(VHsビデオからYoutube ぜひDisc化してほしい!)。
長野オリンピック開催を記念して録音した「世界の国歌集」。

すてきな音楽を聴かせ続けてくれた小澤征爾さんのご冥福を、心からお祈りしたいと思います。

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