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【晩夏のゾーッとするクラシック・3】ベルリオーズ:幻想交響曲/ロリン・マゼール&クリーヴランド管弦楽団【ベルリオーズの狂気爆発!】

ベルリオーズの狂気が爆発するマゼールの「幻想」

前回に続いてベルリオーズの「幻想交響曲」です。
前回はベルナルト・ハイティンク&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるファンタスティックな「幻想」でしたが、今回はロリン・マゼール&クリーヴランド管弦楽団による、ベルリオーズの狂気が爆発するような「幻想」です。

幻想交響曲について

幻想交響曲については前回でくわしく紹介したので、今回はかいつまんで。
詳しく知りたい方は、こちらを。→ 【晩夏のゾーッとするクラシック・2】ベルリオーズ:幻想交響曲/ベルナルト・ハイティンク&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団【阿片を呑んで彷徨った悪夢の世界】|Yuniko note

若き日にシェイクスピア女優のハリエット・スミッソンに熱烈な恋をしたベルリオーズが、その報われぬ愛を悲観し、スミッソンへの愛と情熱と呪いをぶちまけた曲です。
この曲の初演にはスミッソンも出席しており、交際を始めた二人は結婚するに至りますが(おめでとー❤)、その結婚は幸福なものではなかったようです。

この曲は「報われぬ恋に悲観した若き芸術家が阿片を呑んで自殺を図るが、致死量に至らず、一連の奇怪な夢を見る」・・・・その夢を音化したとされています。
曲は5楽章から成り(※交響曲は通常は4楽章構成です)、各楽章にはプログラムが付されています。

第1楽章:夢と情熱
芸術家の心に芽生えた彼女への恋。夢、憧れ、焦燥・・・・それらの感情が狂おしく高まった後、宗教的な慰めが訪れる。

第2楽章:舞踏会
華やかな舞踏会で芸術家は彼女を見る。楽しそうに踊る彼女。芸術家の思いをよそに、彼女は踊りの輪の中に消えていく。

第3楽章:野の情景
牧童の笛が遠く近くに呼び交わす。静かな田園で芸術家は平静を取り戻す。心にわずかな希望も芽生える。だが・・・・もし彼女が自分を裏切ったら・・・・再び彼の心にわき起こる恋人への疑念。牧童の笛が鳴るが、もう誰も答えない。静寂・・・・遠雷・・・・孤独・・・・

第4楽章:断頭台への行進
ついに芸術家は夢の中で恋人を殺す。彼は断頭台へと曳かれていく。陰鬱な行進が狂おしく高まる。芸術家の脳裏に恋人の面影がよぎるが、それも一瞬、ギロチンの一撃で断ち切られてしまう。

第5楽章:サバトの夜の夢
地獄。悪魔や妖怪が彼の葬式に集まっている。ひそやかな話し声。嘲笑。金切り声。かつての恋人も醜い魔女となって彼の前に姿を現す。地獄の鐘が鳴り、悪魔の裁判が始まる。判決が下った。芸術家は地獄で永遠に苦しむことになったのだ。芸術家は悪魔や妖怪に囲まれ、いたぶられながら、地獄の奥深くへと引きずり込まれていく。

前回と同じプログラムを載せるのは芸がないので、ベルリオーズのプログラムをもとにしながら、私なりにプログラムを書いてみました。
幻想交響曲は、これまでオーケストラでは用いられなかった楽器も演奏に加わっており、新しい奏法も取り入れられています。ベートーヴェンが没してわずか3年後に書かれたのですが、全ての面で破天荒かつ革新的な交響曲です。

マゼール&クリーヴランド管の「幻想」

ベルリオーズ:幻想交響曲
ロリン・マゼール&クリーヴランド管弦楽団
LPおよび国内初出CDのジャケット表

ロリン・マゼールはわずか10歳でシューベルトの未完成交響曲を指揮し、鬼才の名をほしいままにしました。曲の核心に切り込む大胆なアプローチに定評がありました。
クリーヴランド管弦楽団はマゼールが1970年代に音楽監督を務めており、前任者ジョージ・セルに鍛えられた鉄壁のアンサンブルが「世界一」「各パートが一人で演奏しているようだ」と賞賛されました。セルの没後に音楽監督となったマゼールによって、鉄壁のアンサンブルに加え色彩的な表現も獲得しました。
そのマゼールとクリーヴランド管弦楽団が満を持して録音した幻想交響曲。とにかく録音が鮮明で、各パートの音の動きや表情が手に取るように分かります。
テンポも速く、めまぐるしく曲の表情が変わり、とにかくスリリングです。ですが、アンサンブルが乱れたり濁った音を出したりすることはまったくなく、音響はあくまでも美麗です。
そして、その速いテンポと美麗なオーケストラ・サウンドから、ベルリオーズの夢と憧れ、舞踏会の華やぎ、平和な野の情景と芸術家の心に兆す嫉妬の渦、断頭台に曳かれていく恐怖、悪魔や妖怪、魔女たちが乱舞するサバトの狂宴が、解像度の高い写真のようにあますところなく描き出されます。
マゼール&クリーヴランド管は初来日の1974年に、この曲を演奏しましたが「とにかくすごかった」という評判が残っています。聞きたかった!・・・・と言ってもその頃の私は小学生だったのですが・・・・

マゼールはこの曲を得意にしており、クリーヴランド管と再録音し、その後もいろいろなオケでこの曲を演奏していますが、この時のような狂気の爆発はなかったようです。

ベルリオーズ:幻想交響曲
ロリン・マゼール&クリーヴランド管弦楽団
LPジャケット裏および国内初出CDボトムカード
アメリカ盤は、中央のうつむいたスミッソンの画像がジャケット表でした

<次回予告>
【晩夏のゾーッとするクラシック・4】 [ 閲 覧 注 意 !] レスピーギ:ローマの祭~アヴェ・ネローネ祭/ロリン・マゼール&クリーヴランド管弦楽団【皇帝ネロの残酷な祭】

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