大昔にいたはずの彼女の話 前編


 眼を閉じて横になってもどうも寝付けない深夜2時。ベッドの上で枕に顔を埋めるようにしてうつ伏せになっているとふと前に好きだった女性との記憶が呼び戻された。

 その彼女というのは小学校からの知り合いで、田舎の学校で1クラスしかなかったものだから常に同じ教室で姿は目に入った。

 その人をそういったように意識し始めたのはおそらく小学5年生の頃だったと思う。彼女はあまり活発なタイプではなく周りの男子からの関心も薄かった。当時の小学生男子は明るくて見るからに可愛い感じの女子に求心されていたようだ。

 その中でも彼女は明らかに周囲と明確に違うものがあった。彼女にははっきりと「自分」が既にあった。誰かに追従したりなんとなく周囲に合わせて愛想笑いを浮かべているような様相とは全く違う、どう踏み躙られようと潰えることのない個性が感じられたのだ。

 もちろん当時の私にそんなこと分かるはずはないし仮に分かっていたとしても決してそれを言語化できるだけの能力はなかっただろう。ただ、『この人は自分に似てる』『どういうわけかすごく合う気がする』と思ってはいた。

 しかし当時の私は今と違って極めて奥手な人間であった。それにその恋慕をはっきりと自覚するには至っていなかった。そういった恋愛感情を意識するのは6年生になる頃とかその辺りである。この辺のエピソードは全く当時の記憶がないので省く。


 大きく事態が動いたのは中学1年の冬の時。どちらから誘ったかはもはや覚えていないが彼女の家に遊びに行く約束をしたのだ。

 忘れもしない2016年の12月23日のことだ。彼女の家は私の家からは約2km程度と近く、約束の時間の十数分前には彼女の家の前について自転車を停めていた。

 インターホンを押し出迎えてくれた彼女の母親に丁寧に挨拶をして2階へ。部屋は全体的に掃除が行き渡ってはいるものの机の上にはうず高く積まれた大量の紙の束があり当時やっていたアニメのポスターがこれまた忙しなく飾られていたのと透明な三段の衣装ケースが床に直置きされていたのが記憶に残っている。なんなら透明なため一部しまわれている下着が透けて見えていた。

 6年前のことをこうも詳細に覚えているのは我ながら気持ち悪いとは思うがそれほどのイベントだったのだ。

 彼女はベッドに腰掛け、私は床に胡座をかいてベッドに寄りかかるような体勢になっていたと思う。

 そうしてしばらくとりとめのない話をしていると彼女がおもむろに顔をこちらに向けてややにやけ気味の表情で、

「そういや君、好きな子っている?」 と聞いてきた。

「いや、まあ、いるけど……」 そう言葉を濁す他なかった。なにせその対象は今60cm程しか離れていない空間に居るのだ。心のブレーキが破損している今の私なら何も躊躇なく「うん。目の前に。」くらいは言えるが当時はこれを打ち明けることでもし今こうしていられる関係がなくなってしまったらどうしようだとかどうしても言うのが怖いだとかそういうことばかり考えてしまっていた。

 そうすると彼女はまるでその答えを悟っていつつもそれを知らんぷりするかのようにしつこく私に聞いてきた。それはまだいいが途中から男の名前ばっか挙げてくるのは参った。
(ちなみに彼女はかなり腐っており、創作で私を好きにしていいという条件を交際する時に飲ませた。今でも彼女のpixivアカウントは残っているのだろうか)

 それでそこから2時間以上彼女の質問攻めを必死でかわしていた。そうして結局彼女に打ち明けられないままその日は彼女の家をあとにした。その時もらったイラストとその翌年の年賀状は去年までずっと部屋に飾っていた。

 年明け後は私がインフルエンザにかかったため会う約束も立てられず次に顔合わせしたのは始業式からさらに2日ほどすぎた時だった。

 学校へ行き勝手に替えられていた席を辿ると隣にはその彼女がいた。下手なギャルゲーよりひどいご都合主義だが実際そうなってしまったものは仕方ない。
  そうして1月からの3ヶ月間は実に楽しい日々を過ごした。思い返せばこの時が数少ない彼女の本当に貴重なデレ期であった。

 2年生からはクラスが別になりあまり話す頻度もなくなり交際関係は自然に薄れてなくなった。こちらからわざわざ隣の教室まで行くのは抵抗がある上彼女も日を追う事に目に見えて忙しくなっていったため全く話さなくなった。3年生の時も同様。

 うっすら彼女から嫌われていそうな雰囲気すら感じ取れたが見て見ぬふりをした。ちょっと彼女の部活のスケジュールを逆算してその時偶然同じ通学路を100mくらい遠回りをしてでも通って顔を合わせていただけなのにストーカーもどきの扱いまで受けた。

 もう完全に終わってそうな感じがするがもう一波乱これからある。後編に続く。

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