見出し画像

玉串杯レポ

 1.

2021年7月25日、朝7時に東京行きの特急「しおさい」を待っていた。

 寝不足気味の眼を細く開きワイヤレスイヤホンで吉幾三を聴き右手ではTwitterを、左手は麻雀の戦術書を読みながら退屈そうにも忙しそうにも見える様子で時間を潰していた。

 午前9時10分頃に東京駅へ着く。私はいつものように旅行先の風景をカメラに撮り、

画像1

  どこでどう時間を潰すのかをぼんやりと思索していた。今日は吉村というネットの知人に車に乗せていってもらって名古屋へ向かう予定になっている。しかしその待ち合わせの時刻は5時だ。7時間程度どこかで暇を潰さなければならない。

 「雀荘────」
  私は山手線に乗り込み雀荘のありそうな駅を想像した。

 新宿、池袋、渋谷、新橋────私の東京に対する知識はその程度のものだった。何しろどの駅が山手線のどこにあるかすらろくに理解していないのだ。十数分ほど揺られていると池袋に着いたとのアナウンス。

「池袋行くわとりあえず」

 『やれ』

「イキリ大学生ころしてくる」

 と吉村とやり取りしつつ池袋駅周辺をうろつく。

「麻雀 フォーシックス」の看板を見つけ店内に入る。


2.都内雀荘


10卓ほどおかれた広い店内には雀荘特有の負のオーラと換気していてもわかる煙草のくすんだ匂いが漂っていた。店員にカルピスの氷なしを注文してルール説明を受ける。

 ちょっと一本場が1500点で赤5pが役になるだけの普通の1.0東南である。
 全盛期の鷲巣とアカギの市川を足して2で割ったような髪型の爺さんと天で赤木の前に出てきた出っ歯の代打ちみたいな顔のおっさん、野原ひろしをもう少し髭を濃くして老けさせたような男の卓に入る。

 ここの闘牌の描写は簡潔に済ますが、

  こういうのをたくさん和了った。雑だがメインはあくまで玉串杯だからこれでいいのだ。
 8半荘打って着順は21134321。野口英世のプロマイドを大量に貰い小躍りして鼻歌歌いながら近くのラーメン屋に飛び込み大盛りに味玉まで付けた。

 ちなみにネギ抜き注文はし忘れた。満腹にして5時まで同じ雀荘で時間を潰しその後大井町へ。イトーヨーカドーの中にあるという麻雀教室で吉村を待つ。彼の父親の車に乗せてもらい高速を飛ばし名古屋へ。途中で岡崎のサービスエリアで夕食を取り、

 23時に現地のホテルに到着。手短に入浴と明日の準備を済ませ就寝した。

 3.玉串杯

 翌日朝6時40分に目覚め朝風呂と朝食を取りロビーでバガボンドを読んで時間を潰す。大会開始は10時からだが会場設営の手伝いをするため9時には現地に向かう。忘れ物の確認をしチェックアウトも吉村に無断で勝手に済ませた。

 会場のビルに着くとそこにはワゴン車といくつかの全自動卓が置かれていた。卓を運び込んでいた主催者の新留さんに

「私、こういう者です。」

 とスマホを見せて挨拶して手伝いに入った。ちなみにかなり笑われた。
 アルティマ式の自動配牌の卓が二組、点数表示無しのアモス卓(長浜バイオ大学提供)が二組、手積み卓が二組だ。卓の準備を終え大会前に暇だからと始まった麻雀も無事満貫放銃して開会式を迎える。

 私や吉村の他にもやもとさんや池田さんにゲストとして参加していたzeRoさん、学生麻雀大会を二連覇し景品の自動卓を提供したあだつさん、そして代情岳晴唯一無二新人王五段も参加していた。Twitterでまあまあ見掛ける個性的な面々である。それぞれ名刺代わりにTwitterの画面を見せてやりとりした。

 大会は4回戦で行い総合スコアの最も高い人が優勝するMリーグルールのものだ。違いは50分で打ち切りになることくらい。

 一回戦、代情プロが対面に座る。慌ただしく場決めをし三脚を用意して撮影の準備をしていた。手積み卓であったためいっぺん積み込んでやろうかと考えたが人として流石に自重した。魔が差してやらないようにするためにオール伏せ牌を提案して開始。本題始まるまでに1645文字も使うとは思わなかった。


南1局、代情プロが親番でこう仕掛ける。

 私の手はこう。

 代情の仕掛けはドラの白が切れていてトイトイも否定され、赤も私が2枚抱えていて高打点がまずない。1500か2900ならば放銃など気にせず押していける。

「軽いんだよ...あんたの仕掛けは...凄味がない。人を恐れさせるだけの気迫ってもんがないんだ...!」


 などと考えながら手を進めていると上家の切った8mにロン、ゴッパーとの声。
「ん?誤申告か?ツイートのネタになるか?」と期待しつつ手を覗き込むと、

 タンヤオ三色同刻で確かに5800。

横移動ではあったが意表を突かれた形。漫画なら読みを外されてそこから相手のペースになる流れだ。事実そこから代情に吹かれて彼の単独トップ。何とか私は+11.1ポイントの二着で終えた。積み込めば良かったと半ば後悔した。

 2戦目、ゲストのzeRo氏と同卓。上家はオールバックの大学生、下家は中学生くらいの見た目の割に熟練の麻雀プロのようなキレのある摸打を放つ少年だった。

 東2局の親番で私にこんな配牌が入る。

 確かこんな感じだった気がする。最終形しか覚えてないから配牌の記憶は曖昧だが多分こうだ。西から切り出し6巡目に下家からドラの3sをポン。

 8巡目にこの形になる。この時既に脳内では「ツモ6pは2m切り、ツモ3sはカンせず8p切り、5sはポンして8p切り──」とあらゆる変化に対してのシミュレーションは済ませていたため、

 この8pにノータイムで声をかけられた。鳴いてドラ含みの両面(実質ペン4mターツだが)を見せ、ポンができるようになったため微妙に早くはなっているがそれでも見せる情報量や23m重なりを考慮するとかなり微妙なところだ。結果としては下家から5sを仕掛けて満貫を和了り切った。是非はさておいてもうまぶり効率としては実に素晴らしく十分に脳汁を分泌できたためこれで問題はない。

 そして場面は動き南3局。対面のzeRo氏がやや力の籠った声で「リーチッ」と発声し黒棒(箱下の時に払うマイナスの点棒。ヒサト棒と呼ばれることも)を出した。持ち点が300点しか残っていなかったのである。

 「和了れるから両替は本当は必要ないんだけど、まあ一応お願い」と言われた。面白いから両替拒否しようかと考えたが素直に黄棒(5000点)と青棒(1000点)で両替し、うち黄棒だけをしまって青棒は手元に残しておいた。 

 そして一発ツモこそならないものの、次巡には

 これをツモりあげてゲストとして、そして天鳳十段としての面目を何とか立たせていた。ちなみにオーラスでは下家の少年のリーチに一発で押して刺さってやはりラスになっていた。

 ともかくこれでトップ。「今日のことはツイートしないでね」と言われたがnoteにするなとは言われていない。遠慮なく話題にさせてもらおう。

 局を終えて少し話をしていると、後ろの卓で強烈な引きヅモと雄叫びが起きた。

 役満が出たのである。


(略)


3戦目はそのさっき役満を和了った彼と慣れていなさそうな大学生男女の卓だった。特筆することも無く無難にトップ終了。この時総合成績は2位である。


 最終戦。現在の総合一位はあだつ氏で20ポイントほどリード、2位の私と3位の代情はほぼ差がない状態。

 というところでメンツは起家から順に池田さん、代情、3戦目に打った女性、私となった。トップ取りかつ時間打ち切りのある条件で和了止めのないラス親はかなり損である。最悪親番が回って来ないことすら想定しうる。しかし文句を言っていても仕方がない。

 東一局は池田さんが代情から5800の和了。思わず「良い和了です!ありがとうございます!」というようなことを口にしてしまった。相手の和了をリスペクトすることは大事だがこのシーンにおいてはどこからどう見ても煽り以外の何物でもない。

 連荘して1本場では上家の女性の先制リーチに5枚飛びの現バリ14pを迷いなく追っかけて一発ツモは30006000。代情との差を広げてトップに立つ。

 詳しくは忘れたがこの後代情に2本ほど積まれて何とか上家に放銃して親を流す。

 そしてオーラス。点数は私36700、二着は池田さんで35800、3着代情は33800、ラスの上家はマイナスいくらか。一応形上はトップ目だが流局ノーテンも許されない僅差。その上和了っても局を終えることは許されない。かなり際どい場面だ。

 キツい。キツいがこれを最低でも聴牌流局に持ち込まなければいけない。これが3万点ほど差をつけたトップ目なら5s辺りから切り出して配牌オリでいいのだがこんな手でもとにかく絵を合わせにいかねばならないのだ。北切り。
東を重ねて3mをチー。何とか和了れそうな形になったところで代情がきな臭い2副露。

4mをチーして9s切り、9pをチーして4p切りだ。

代情は西家である。私の発には無反応だ。役があるとすればピンズの一気通貫か345の三色。和了られればもちろんトップは逆転する。

両方の本命を引かされた。オーラスラス親は和了止めがない。だがノーテン流局も許されない。東で回すか、5pを勝負するか。

 私は深く息を吸い込み、そのまま鼻から強く吐いた。卓に付いた埃が鼻息で吹き飛んだ。そしてそのまま腕を振り被り、5pを卓上に叩き付け━━━━


 という所で話は終わっておこう。何しろ玉串杯が終わってから2ヶ月も過ぎてしまって実際の闘牌内容を完全に忘れてしまった。決勝戦なんか7割方創作で補完した。

仮にもドキュメンタリーにするならもっと早く終わらせましょう。次回作は高レート三麻の話になるかもしれません。

なんか煮え切らないけど今回はこの辺で。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?